23.怒りのカスパーハウザー2-2-
『こんななぞなぞを知っているか?はじめは四本足、つぎは二本足、最後は三本足。これなーんだ……ククッ、わかるか?おまえだよ、スタンリー・ベルフォード……』
「おれはソルマントの死人だ……最後はない……!!」
『ああ……だったら、その杖にしているものを俺様の胸に突き立ててみろ!!どうした?できないのか?ソルマントの死人か……たいしたことないな、地獄への土産話にもならない……さあ!!どうした!?』
ジャックは腕を広げ、顎を上げた。スタンの目の前にその無防備な胸をさらけ出した。
「……ソルマントの死人を……俺を……なめるなァァァァァ!!」
スタンは腕を振り上げた。口から黒い異物を吐き出しながら叫んだ。振り上げたレクイエムソードを強く握りしめる。
振り上げた腕が震え、スタンの動きが止まった。
ジャックはあざ笑うかのように笑みを見せスタンの震える瞳を見つめている。
スタンの喉元に黒い異物がとめどなく流れ落ちる。彼は顎を落とし、自らの胸を抉る何かに目を向ける。そこには鋭く黒い血のような滴を垂らす刃物が突き出ていた。
それは背中から心臓を貫き、スタンの眼にその刃先を見せていた。
スタンは首を傾け、背後に目を向ける。
そこには血が固まり黒くなった包帯を巻いた女がいた。
にやりと笑う口元と、顔の肉を焼く音を立てながら白い煙を上げる瞳、その黒い鉄の瞳がぼんやり赤く光っている。
女は左腕に握る刃物に抉るように力を加える。スタンは異物を吐きながらうめき声をあげた。女の右腕が持ち上がる。その腕には太く大きな肉切り包丁が握られている。
「さあ、あなたの首を切り落としてあげる……、ひざまずいて頭を出しなさい、それとも背を向けて逃げ出すのかしら?」
女はそういうと刃物をスタンの体から引き抜いた。スタンは女に背を向けた。方向を定めることができず、異物を吐きだしながら歩を進めた。
「あら、逃がすと思って?さあ、その首を置いていきなさい!!」
―――――ニガサナイヨ―――――
『逃げられると思うのか!?スタンリー・ベルフォードォォォォォッ!!』
スタンは声のする方向に体を向けた。今にも炎を吐き出そうとするスプリング・ヒールド・ジャックと肉切り包丁を振るいあげる女を、その瞳に焼き付けるように視野に捕らえる。
女の肉切り包丁を紙一重でかわすと、遠くなっていく意識の中で最後の力を振り絞り屋根を蹴った。爆音が聞こえた。体が力なく落ちていく、浮遊感が彼を包み込んでいた。
炎はスタンをかすめた。その勢いで彼の体は宙に弾きあげられる。
スタンは耳に水音を聞いた。水しぶきが彼の体を包み込んでいた。運河は彼を飲み込んだ。彼の体は深く暗い水底に沈んでいく。
ジャックは水底に沈む黒い影を見つめ、笑い声を上げた。
『ワ――――――!!逃げやがった!!ソルマントの死人、スタンリー・ベルフォード!!覚えておけ、俺の仕事は死人をいたぶることだ!お前をいたぶり続けてやる!!そうだ!!ハカモリをつれて来い!!お前ら全員束になれ!!大歓迎だぞ!!スタンリー・ベルフォード!!地獄がおまえらを待っているんだ!!』