23.怒りのカスパー・ハウザー2
――――ボクハ、オマエガダイキライダ……。
スタンリー……ベルフォード……――――。
スプリング・ヒールド・ジャックの瞳が青く瞬いた。
鉄の爪の隙間から青い炎が漏れ、立ち昇り、腹の底から炎うずまく音が響いてくる。
「いいか、カスパー・ハウザーお前は俺のものだ……。いまやレクイエムソードは俺のものなんだ、わかったら大人しくそこで待ってろ!!」
スタンは左腕にムチを持ち、引き金を引いた。扇子状の鉄板が広がり盾になるとスタンはレクイエムソードを持ち身構える。
ジャックが飛び上がると同時にスタンは屋根を蹴った。真正面でジャックの青い炎に包まれた爪を盾で受け止める。
しかし、ジャックの爪は切り裂こうとすると同時にその盾を力で押し返した。その力に持ちこたえることができず、スタンは体制を保つのみ。握ったレクイエムソードを振るうことさえできなかった。
二打目の爪が振るわれるときには重心を後ろに傾け、スタンは引くしかなかった。鼻先を炎がかすめる。スタンは歯を食いしばりジャックを睨み付ける。
その顔にある口は大きく開かれている。炎が渦を巻くと同時に青く濃く、まるで大きな岩の炎となっていた。
ジャックの視線をかわすようにスタンは横っ飛びに飛びのき、腕を屋根にあて、片腕の力だけでさらに飛び上がる。
『――――――キエテ、ナクナッチャエ……!!――――――――』
すさまじいまでの爆音が雨音を消し去った。
スタンの姿は屋根の煙突の影に姿を消していた。影に身をひそめ炎をやり過ごそうとした時だ。その爆音が、青い炎の塊が、煙突を破壊し彼の体を吹き飛ばした。
吹き飛んだ煙突の破片が炎に包まれ雨に混じり、音をたてて屋根に落ちてくる。白い煙が立ち昇った。
『ハ――――――!!ハハッ!!いいか、これがカスパーの怒りだ!!妬みの力だ!!恨みの神髄!!復讐の美学だ!!木端微塵ッ!!どうだ!?スタンリー・ベルフォォォォォォォド!!』
ジャックは白い煙の向こうを覗き込んだ。
そこには吹き飛ばされたスタンの姿があった。屋根に倒れ込み吹き飛ばされたレクイエムソードに震える手を伸ばしている。スタンは震える手の先にあるレクイエムソードを見つめた。
「……いいこというじゃないか……、怒り、妬み……、恨みの神髄……。復讐の……美学……」スタンはその手にレクイエムソードを握りしめた「おれはスタンリー・ベルフォードだ……おれは復讐のために自らの命まで犠牲にした男だ……。これが終わりじゃない……、レクイエムソードはただの道程にすぎない……お前らは……おれの……目的じゃない!!」
『またか……、また……ルカのマントだな……』
スタンは立ち上がった。炎はマントが防いだものの足は震え、体がしびれるように悲鳴を上げていた。屋根の下に運河が流れていた白く湯気を上げる運河から目を背けると、白い煙の向こうに見えるジャックの影を睨み付ける。体が傾くのをレクイエムソードで支えたものの、膝をつき、口から黒い異物をスタンは吐き出した。
『虫の息だな……スタンリー・ベルフォード……さあ、どうした……しっかり立て……』
屋根に引きずるような鉄音をたてながら、ジャックはスタンに歩み寄る。白く立ち上る煙を払いのけ、彼の眼前へとやってきた。スタンはレクイエムソードに体を預けなんとか立ち上がった。