22.怒りのカスパー・ハウザー-2-
『……ッ!!まさか!?聞こえるのか、おまえに俺様の声が!!面白い!!言葉を発しない体がこれほどまでに退屈だとは思いもしなかったんでな。それも話し相手がハカモリとは恐れ入った!!』
「おまえ……、ハカモリをしっているのか?なにものなんだ?」
『スプリング・ヒールド・ジャック!!それが俺たちの名だ!!』
「ハハ……俺たちか……。カスパー・ハウザーと一心同体というわけか?」
『おもしろいな……教えてやろう、これからお前らハカモリがどうなるか。一人残らず俺様が地獄へ送ってやる……。地獄で俺の兄弟たちが、恋い焦がれ、首を長くして待っているぞ!!ハカモリをいたぶり、地獄の炎をかっさらったことを後悔させてやるからな!!ルカを筆頭に歴代のハカモリ全員だ!!』
スタンはいぶかしげにジャックを見つめ、そして笑った。
「おい、ざんねんながらハカモリは一人だ……、ほかの奴らはとっくに地獄へ落ちているさ」
『おまえはハカモリのくせに、ハカモリのことを何も知らないのか?』
「だったらなんなんだ?それに俺はハカモリじゃない……。ソルマントの死人だ」
『なんだと……?』
「いっただろ、ハカモリは一人だ」
『あいつか!?昨日のあいつだ!!ハハハハ、まるで手ごたえのないただの木偶の坊だったぞ!!そうかあれがハカモリなんだな、傑作だ!!まずは手始めにあのハカモリを地獄へ送ってやるさ!!光栄に思ってもらいたいものだ!!……いいか、おしえてやる、ハカモリどもの末路を……、やつらの魂は天にも召されず、地獄を恐れ、ただひたすらにこの世を彷徨うところを冥王に拾われるのだ。そして使い魔として永遠に働き、奴隷として生きていくのだ、この世で最も醜悪な奴隷としてなあ!!』
「ハハハハ……冥王とは恐れ入ったな、どこのおとぎ話かと思ったよ」スタンは笑い声をあげ、担ぐように肩にレクイエムソードをあてた。
『……おとぎ話か……。おもしろいことをいう……、だったら俺がその……悪魔だと言ったら……?地獄から呼び出された……悪魔だ……』
スタンの脳裏に響く声色が恐ろしく低くなる……。そこにある本性が垣間見える声。醜悪でおぞましい響きに、スタンはいぶかしげにジャックを見つめた。
「……それがどうした?俺は死人だぜ、ソルマントの死人だ。いまさらなにを聞いても驚きはしないさ」
『おまえの名を聞いておこうか……教えろ……お前の名を……』
「知りたいなら、教えてやろう……」まるで恐怖心を押し隠すようにスタンは笑みをみせた。どこか胸騒ぎを覚え、心が自らの名を告げることを拒否していた。
しかし彼の笑みはそれを否定し、彼の習性が恐怖に立ち向かうことをいやおうなく肯定している。
「俺の名は……スタンリー・ベルフォード……」
その瞬間、その名は地獄の世界で落雷の音に混じり響き渡った。こだまとなり、熱く吹きすさぶ疾風に乗りどこまでも運ばれた。その名を食らいつくすように炎が立ち上り、天が燃え上がった。
スタンの瞳が恐怖で揺れた。
彼の立つそこはいまやグレスデンの雨降る屋根の上ではなく、地獄の入り口だった。