21. 『アイアン・ライン』と『鉄の爪』-3-
アイアン・ライン――それはスタンリー・ベルフォードの腕を以てしても扱いきれるような代物ではなかった。しかし、彼は自ら剣を捨てこの鉄のムチにすべてを賭けていた。彼のイメージはいつも決まっていた。首と胴体を切り離す。彼の集中力と強靭な肉体はつねにそのイメージを追い求めている。いまでこそ、思い通りと言わないまでも致命傷を与えることができるようになっていたが、彼のイメージ通りになるためには、つねになにかがかけていたのだった。
そして、彼の追い求めていたもうひとつの武器が腰にのしかかっていた。半身の剣、未完の大器。それは不死を断つ剣、レクイエムソードだ。
スタンはずっと旅を続けていた。それは逃亡といってもいいだろう。終わることを夢見てただひたすら前を向きながら歩き続けた。そして探し続けていた。
いまや鼓動は彼の身体を震わせずにいられなかった。彼は耳を疑った。自分は死人だからだ。鼓動などとっくの昔に捨てていた。それがいまや体を震わせ、指先が脈打つのを感じていた。生きていたころ感じたことのある緊張感。
彼はまるでそれをさらけ出すかのようにマントを広げ胸をあらわにした。腰にアイアンラインを収めると笑って見せた。
「やめにしようか……朝になっちまう。さあ、好きにするんだな……」
そういうとスタンはスプリング・ヒールド・ジャックに背を向けた。振り向いたスタンの眼前に立ち昇る炎があった。雨の中その燃え盛る炎は勢いを落とす気配はなかった。ただひたすらに燃え盛っている。
『こ、コケにしてるのか……? 俺様に背を向けるなんて……?俺がお前に背を向け逃げ出すとでも思っているのか!?後悔させてやる!!後悔させてやるぞ!!お前らハカモリを地獄に送ってやる!! お前らハカモリは亡者ども以上にもだえ苦しみ、つきることなき悪魔の責め苦に悲鳴を上げるんだ!! 全員だ!! 俺様がこの世にとどまる限り、お前らハカモリを一人残らず見つけ出し、地獄へ送ってやるからな!!』
ジャックのカカトにこれまでにないほど力がこもる。足元の屋根が吹き飛び、力強く開かれた指先の爪が空を引き裂いた。影は炎を身にまとい驚くほど大きくなっていた。スタンの無防備な背中がそこに見えた。ジャックは腕を振り上げると心臓めがけて爪を振り下ろす。