21. 『アイアン・ライン』と『鉄の爪』-2-
スタンの両腕が腰にあてられる。
ジャックはそれを見逃しはしなかった。鉄のムチは破壊力こそあれ、重く、接近戦には不向きにちがいなかった。ジャックの鉄の爪を前に利点は汚点と変わるであろう。そして墓守の背後には炎の壁があった。ジャックの腹部にはすでに炎が渦巻いている。
ジャックは低く身構えると同時に炎を吐き出した。炎はスタンに襲い掛かる。屋根を蹴り身をかわす。
ジャックの影は一瞬の時をおいてスタンの眼前へ迫っていた。スタンは待ってましたとばかりに笑みを浮かべると、鉄の板が折り重なったアイアン・ラインの引き金を軽く引き絞った。鉄の擦れる音が微かに響く。扇が開くとスコップの舳先ににた小型の盾が姿を現した。その盾でジャックの爪を受け流す。
「おもしろいカラクリだろう……」
そういうとスタンはその舳先をジャックの腹部に押し当てる。
「接近戦なら、なんとかなるとでも思ってたのか?」スタンはいうが早いか、引き金にさらに力をいれた。
腹部にあてられた舳先が、弾ける音とともにジャックの腹を抉り、吹き飛ばす。
ジャックの体は舳先とともに吹き飛ばされた。うめき声をあげながら吹き飛ぶ体に追い打ちをかけるようにスタンの体が動いた。激しく体を振るいもう一本のアイアン・ラインが空を引き裂く。
カカトのバネを屋根に叩きつけジャックは横っ飛びに飛びのいた。アイアン・ラインから距離をとり、痛む腹部を抑えながらもハカモリに一撃くれてやるつもりだった。
スタンは飛びのくジャックの影を目で追いながら、腰を落とし体を固定した。歯を食いしばり腕に力を込める。紫色の血管が腕をつたい浮き出るほどに腕を引き絞ると、引き金を力いっぱい引き上げた。
アイアン・ラインは鱗を開き、その内部を見せる。ねじれて束になった鉄のライン、そのラインの表面に青い火花が散る。槍のような切っ先が蛇の頭のように、ジャックに狙いを定める。
スタンは体全体でアイアン・ラインから伝わってくる振動を受け止めながら、腕を振るった。
まるで落雷にも似たスピード……。ジャックの左肩は一瞬にしてアイアン・ラインによって打ち抜かれていた。
スプリング・ヒールド・ジャックの眼をもってしても、そのムチの動きは見えなかった。ムチの頭は90度以上に方角を変え、生きているかのようにジャックを狙ったのだ。そして肩を貫いた。ジャックは肩を打ち抜いたムチの胴体を右腕で握りしめる。
ムチが揺れる。ジャックの右腕を弾き、肩を抉りながらハカモリのもとへ戻っていく。ジャックは悲鳴をあげた。傷口から炎が噴き出している。
その耳に舌打ち交じりにつぶやくハカモリの声が聞こえた。
「……いまのは、お前のその醜い顔を狙ったんだ……。また、はずしちまったのか……」