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15.ダブル フェイトフル エンカウンター-2-

グレスフォード家の馬車はようやくバルバドスの塔がみえるほどに、グレスデンの町に近づいていた。馬車の手綱を握るルッベ少年の胸は少し軽くなり、小脇に抱えていた鞭をそばに置き、シートに腰を落とすのだった。ほっと胸を撫で下ろしたのもつかの間、ルッベ少年は奇妙な叫び声を耳にした。かすかな叫び声だったけれど、ルッベ少年は小首を傾げあたりを見わたした。

 馬の蹄の音と車輪の音、その合間を縫うようにして、また声が聞こえた。

 ルッベ少年は腰を上げ、体を馬車の側面へと動かした。後ろを覗き見る。

「……!!」

 驚きで声を上げそうになるのを必死で抑えた。リディアが後ろに乗っている。

 いかにリディアーヌ・グレスフォードといえども、墓守を前に尋常でいられるはずがない、ルッベ少年はそう思うといそいで鞭を手に取った。

「おーい……とまってくれぇぇぇ……」

 遠くで叫んでいた声は少しづつ近づいてきているようだった。

「停まるだって!?あの墓守は馬鹿か!!」ルッベ少年はそう心の中で叫ぶと必死に鞭を振るった。墓守にあったことはあったが内心では彼も墓守を恐れていた。汗が額をつたい目元に落ちてくる。彼は汗をぬぐい、唇をきつく結ぶとさらに鞭を振るい手綱をきつく握りしめた。

 車輪は悲鳴を上げて回転する。小石を飛ばし、大きな石に乗り上げると飛び上がった。


 リディアは顔を上げた。馬車が恐ろしいほどにスピードを上げ始めたのだ。ランプが激しく揺れ今にも落ちてくるほどだった。彼女は腰を上げ、カーテンを開いた。

「ちょっとルッベ!!あんたなんてスピードだしてんのよ!!」

「…リ、リディア!いまちょっと黙っててよ!!」ルッベ少年は振り返りリディアを見た。手綱を振るう手を止めずに本気で怒っているらしいその眼を見つめた。

「いい加減にしなさいよ、落ち着いて考え事も……、ねえ…、あれ何かしら……?」

「な、なにって墓守……!?」ルッベ少年は言いかけた言葉を飲み込んだ。リディアの目はルッベ少年ではなくまっすぐ前に向かって見開かれいているからだった。前に向き直るルッベ少年の目に奇妙な今までみたこともない風景が飛び込んできた。

 グレスデンの町が霧に覆われていた。

 まるでグレスデンの町が蒸し器にでも入れられているかのように霧につつまれているのである。町だけが霧に覆われていた。そのとき初めて町の光がはっきりと見えていなかったことに気付いた。霧に包まれたグレスデンの町の光はぼんやりとしてとても遠くに感じられていた。

 しかし、町はすぐそこだった。

「き、霧だ……。リディア、あれは霧だよ!!」

「……。あ、あれはグレスウォードの霧よ……」

「……?グレスフォード!?」

「そうよ、あれは…。……はじめて見たわ」リディアはそういうと呆けた顔でグレスデンの町を凝視している。しかしルッベ少年はそれどころじゃなかった。グレスフォードの霧がなんのことさっぱりわからなかったが、墓守はもうすぐそこまで迫ってきている。

「あれは……、あの話はおとぎ話なんかじゃなかったんだわ!!」リディアは叫び声をあげながら満面の笑みをルッベに向けた。

「なにいってるんだよ、いまそれどころじゃないんだ!!」ルッベは前を向き鞭を振るった。

「そう、そうよ!それどころじゃないわ!!町に危険がせまってるの!!」そうだとばかりにうなづくと同時に、リディアから満面の笑みは消え真剣なまなざしがグレスデンの町に向けられた。窓から半身を出し、まっすぐに霧に包まれたグレスデンの町を指さす。「あのグレスフォードの霧は城に、いえ、町に危険が迫っていることを知らせているのよ!!」

「僕たちに危険がせまってるんだよ!!すぐそこまで墓守が来てるんだ!!」

「え……!?墓守?」

 ルッベ少年は腰をかがめ身を低くすると両腕に力を込めた。叫び声をあげると同時に鞭と手綱の両方を力強く振るう。馬は悲鳴を上げた。目の前の霧に馬車は突っ込んでいく。霧が吹き飛び、冷たい空気が首筋をかすめる。しかし、霧の中はぼんやりとしていて遠くまで見通すことができない。馬車はその霧の中を疾走する。

馬の蹄が町の石畳を叩いた。町に入ったのだ。石畳に乗り上げた馬車は激しい音をたて飛び上がった。リディアは声をあげた。彼女の姿が馬車に吸い込まれるように姿が消える。彼女はしりもちをつき馬車の中を転がった。

「リ、リディア!!」ルッベ少年は振り向き揺れるカーテンを見つめた。中から声が聞こえた。

「へ、平気……!!」

「ああ……」ルッベ少年はほっと胸を撫で下ろすと前を見た。


 リディアはシートを掴み上半身を持ち上げると後部のカーテンを開いた。

 そこには墓守がいた。鉤棒を掲げ、荒馬を従いはげしく体を揺らし霧の中を迫ってきていた。たしかに恐ろしい影だった。しかしリディアは恐れてはいなかった。彼女はその影を見つめた。

「墓守……。きっとあの時の……」そうつぶやくとリディアは墓守を見つめながら叫んだ。

「とめて……ルッベ!!馬車をとめて!!」



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