11.スプリング・ヒールド・ジャック-『眼帯の男2』‐
その日もまたステファーニはバスケットを小脇に抱え人の行き交う路地裏を足早に歩いていた。あの嵐の日を過ぎてから何日が過ぎていたでしょうか、屋敷の地下はステファーニとカスパーのなんのかわりもない日々が過ぎていましたが、町の様子は少し変わっていました。しかし、ステファーニはそのことに全く気付かず町を急ぎ足で歩いていきます。
彼女がそれと気づいたのはいつものように露店の店先についたときのことでした。店先に立っていた。中年の女性にいつもの愛想はなく、おつりを渡すと気味悪げにパンを投げてよこしたのでした。バスケットにパンを入れ薄い布をかぶせたとき周囲に視線を感じふと目を上げてあたりを見回しました。
止まっていた通りが一瞬にして動き出したような感覚…。みんなが自分のことを見ていた…。そのような予感が彼女の脳裏によぎりました。
ああ、そんなことあるものですか…。きっと気のせいよ…。ステファーニは思いました。感じ取った視線もいまは消えています。ステファーニは通りを歩き始めました。路地への入り口に入り一息つくと振り返らず、顔を隠すように足早に歩くのでした。
「いったとおりだろう…。あれが、代わり果てたハウザー婦人さ……」眼帯の男が数人の男とともに酒臭い息を振りまきながら不敵な笑みを浮かべています。
「ありゃ、たしかにステファーニに違いない…おまえの言うと通り、魔女に見えるな…」
「…?お前の目は節穴か?正真正銘の魔女だよ…。おまえも見たろ…?町の奴ら、震えあがってたじゃねえか。ハハハハ…ここ数日はその話でもちきりだったからな、あとは俺たちがあのガキを始末すりゃあ、英雄になれるぜ…」
「ほんとうにそんな化け物みたいなガキがいるんだろうな…?大丈夫なのか?」男たちは息を飲みました。眼帯の男は片目で男たちを睨み付けました。
「何度もおなじこといわせるな…。両目で見たっていったろ…。そして、レクイエムソードも存在する……。ひと財産築こうじゃないか…。」眼帯の男は口の端を引き上げていやらしく笑って見せました。「準備はできてるんだ、今日行くぞ…。お前らは人を集めてこい…」
眼帯の男がそういうと男たちの姿はそれぞれに通りの流れに消えていきました。