11.スプリング・ヒールド・ジャック-『ホイットマンディーの死』‐
ホイットマンディーの人生の終わりが近づいていました。
彼は恐ろしい夢から解放されたもののその体からはすでに生命の輝きは失せ、地下にカスパーを閉じ込め、ステファーニとともに暗い地下室で暮らす日々となりました。ステファーニはよほどのことがないかぎりカスパーから離れることはしませんでした。ステファーニが町に出るとき、屋敷で食事を作る時などを見計い、彼は隠しておいた未完成の安息の剣を握りしめ物思いにふけることがありましたがカスパーのうめき声を耳にすると我に返り笑うのでした。
「恐れることはない…。わたしはお前の命をうばったりしない…、ただ眺めずにはいられない…それだけだ……」
ホイットマンディーにはどうしても安息の剣を破壊することができませんでした。すでに多くのものが失われていました。徒弟を失い、財産のほぼすべてを失っていました。「ホイットマンディー・ハウザー」この名前も狂気のブラックスミスという汚名を着せられ町中に知れ渡っていたのです。
ただ、残されているものがありました。それは妻ステファーニと息子カスパーです。いまはそれで十分でした。彼はすでに死期を悟っていました。幸せかもしれない…昔の徒弟時代に帰っただけだ…、ふとそのようなことを考えることがありました。ですが、自分が死んだら…そう思うと不安で仕方ないのです。
彼は高炉に向かうことを決めました。
カスパーのためにできることを考えたのです。そして彼のために鉄の仮面を作りました。つなぎに皮を使い、うまく成長に合わせて形が変わるようにしました。顔さえ隠してしまえば普通の人間として、きっとうまくやっていける…そんな思いがありました。
しかし、カスパーに仮面をつけるとまもなく、揺り椅子に揺られながらひっそりと彼は息を引き取りました。