11.スプリング・ヒールド・ジャック-『インモータルキラー』もしくは『アンデッドキラー』のこと‐
『インモータルキラー』もしくは『アンデッドキラー』のこと
不死…。その言葉を聞いてホイットマンディーは首をかしげずにいられませんでした。伝説のツルギ…それが…。この世に不死のものなど存在しない。それがホイットマンディーが出した答えだったのです。
「不死など存在しない…。そう言いたげだな…」男は笑みを絶やさずいいました。まるでホイットマンディーを小馬鹿にするように笑っています「教えてやろう…。思えは言ったな、この世に一つだけ安息の剣は存在すると…。その一本を後生大事に…わが物顔で…やつが、やつが持っているんだ。不死なるものがな…!!」男は笑っていましたが、月明かりに照らさらる泉のように澄んでいたブルーの瞳が、燃え上がるような赤色に代わり、その瞳が怒りに満ちているのがホイットマンディーにはわかりました「おまえが知らぬだけだ、この世にも、あの世にも不死のものなどごまんといるのだ。わたしはそれが我慢ならんのだ!!」男は足を一歩踏み出し、ホイットマンディーに詰め寄ります。
ホイットマンディーは恐ろしさに身をすくめ、ただただうなずきながら尋ねました「あなたは、あなたはいったい何者なのですか…!?どうしてそのような…」
「決まっているだろう!不死のものを根絶やしにするのだ!!おれが何者か、だと!!笑わせるな!!お前が俺に名を与えろ!!『不死を断つ者』それが俺の名だ!!」
ホイットマンディーの震えていた膝がとうとう糸を断たれたように折れ曲がり床に腰を落としてしまいました。男が腰を落とし、さらにホイットマンディーに詰め寄ります。
「契約の時が来たのだ…。さあ、書を開け…。そしてお前の手を差し出すんだ…!」男の恐ろしい瞳が見開かれました。
ホイットマンディーは声にならない悲鳴を上げながら震える手で分厚い書物の表紙をなんとか開きました。そして力の入らない腕をなんとかあげ、手の平を男に向けました。腕は恐ろしく震え、制止させることができません。涙で視界が揺らめき今にも頬をつたい涙が落ちてしまいそうでした。
男がホイットマンディーの腕を鷲掴みにしました。とても強い力で抵抗などできそうもないくらいです。男は手のひらを上に向けさせ、暗い闇のようなローブの影からもういっぽうの腕を出しました。人差し指を伸ばすとホイットマンディーの手のひらに一筋の線を引きます。
ホイットマンディーの手のひらはまるでザクロがぱっくりと口を開いたように傷をつくりました。肉の断片、白い骨が見えたかと思うと血が吹き出し、不快な音を立てて白いページの上に滴り落ちていきます。ホイットマンディーは恐ろしさに震え、頬を涙がつたいました。
赤くページが染まると同時に漆黒の文字が浮かび上がり始めました。まるで蛆が這うようにじわりじわりと浮いてきます。ホイットマンディーの血は染み渡り、どうやら数ページを赤く染め上げたようでした。
「どうだ…文字が浮かび上がったではないか…、お前が『安息の剣』を完成させるんだ…、もう、後には引けない、わかったな…」男の瞳の燃えるような赤が、波が引いていくように冷たいブルーに変わっていきます。男は立ち上がり笑みを見せました。
「ホイットマンディー…俺は完成を心待ちにしているぞ…」恐ろしいその男の笑い声がホイットマンディーの耳に響きました。男がドアに向かい一歩前に踏み出したその時、地上を揺るがすように雷鳴が引きわたりました。まるで月が落ちてきたかのようにすさまじい音です。外は明るく瞬いたかと思うと、外に踏み出した男の体は一瞬にして光の中に掻き消えてしまっていました。