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8.グレスフォードの老婦人

 暗い森の道を馬の背に揺られキッチョムはレイモンドの町へと向かっていた。深い闇が森を覆い、その闇に木立の影も飲み込まれるほどだった。栗毛の馬は鼻をならしながら草の匂いを嗅いだり、木々の隙間に見える青い空をぼんやり眺めながら歩を進めた。まるで散歩にでもくり出したかのように歩を進めている。

 キッチョムは夜目が効いた。幼い頃からというよりずっと夜の世界でいきていたからだろう…。教会の人間が首をかしげ不思議に思うほど夜の世界を光なしで驚くほど速く走ることができたし、どこになにがあるのか初めから知っていたかのようにあらゆるものを暗闇の中から見つけることができた。それでもキッチョムはみんなと同じようにランプを使い、ロウソクを灯してすごきてきた。

 しかしこの日は明かりを持って行かないようにしている。もう、何年もそうしている。習慣になっていた。

 この日は町に寄進品を集めにでかける日だった。

 レイジーの鼻の向ける方向には黒い棘のような草が生えているばかり、見上げた空には星は見当たらなかった。

「レイジー。あまり遅いと日が昇るだろう…。いつもと変わらない森がずっと続いてるだけだよ…」

 キッチョムは笑みを浮かべるとレイジー・フォンデモンテの太い首筋を撫でた。暗い夜道でも微かに光沢を放つその栗毛の毛並みは滑らかで温かかった。

 わかってるよ…。レイジーはそう言いたげに鼻を鳴らした。でも、レイジーフォンデモンテは軽快に蹄の音を闇にしばらく響かせると、忘れてしまったかのように速度を落とした。

「ああ…」キッチョムは苦笑いを浮かべ、懐からかすかすになったパンを取り出し口に運んだ。


 じつのところレイジー・フォンデモンテは自分のするべきことをしっかりと理解していた。墓守と町に入ったら絶対に足をとめるな。これは絶対だった。足を止めず全速力で駆け抜けるのだ。一筆書きで線を描くように町の入り組んだ通りを一気に駆け抜ける。けっして墓守の手綱に頼ってはいけない。

 ロシュフォール・レックス、馬小屋の主からきつく言い聞かされてきた。彼の黒毛は月の光をうけてとても艶やかに輝く、どの馬よりも早く走れて力が強かった。そしてだれよりも、もしかした人間よりも頭がいい馬かもしれなかった。

 彼らがひたすら風を切り蹄で地面を蹴っている間、墓守は道に放り投げられてる白い袋を器用に馬上から鉤棒で取り上げては背中に取り付けられたたくさんのフックにひっかけていく。白い袋を一つとして逃すことはない。

 少しづつ背中が重くなってくるがレイジー・フォンデモンテに取っては大したことではなかった。

 いつのころからか彼にとってこの仕事は一番大好きな仕事になっていた。だから彼は体力を温存させていた。

 そしてキッチョムを背中に乗せての町へ寄進品を集めに行くみちすがら、のんびりした時間を過ごせるのはこの時だけだった。彼はこの仕事が大好きだったが、キッチョムはもっと大好きだった。


 キッチョムが手綱を強く握りしめるのがわかった。手綱をとおして彼の緊張感がレイジー・フォンデモンテに伝わった。レイジーが顔を上げると木々の隙間にグレスデンの塔バルバドスが見えた。町にたてられたバルバドスの塔は中心に高くそびえたっているのだ。町はもうすぐそこだった。



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