婚約破棄された噛ませ犬令嬢ですが、今日からこの国に血の雨を降らせます ~目を覚ましてください、皆様~
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王城のバルコニー。
冷徹な王太子・フリードリヒは、婚約者である公爵令嬢エリゼに告げた。
「お前との婚約を破棄する。これからは、愛らしく、私を支えてくれる妹のマリアを正妃に据える。
お前のような可愛げのない女は、マリアを引き立てるための『噛ませ犬』に過ぎなかったのだ」
静まり返る周囲。
だが、エリゼは泣き崩れなかった。
彼女はドレスの裾をむんずと掴んで引きちぎると、野獣のような鋭い眼光で王太子を睨みつけた。
「……誰が、噛ませ犬だって?」
低く、地を這うような声。
「おい、フリードリヒ! よく聞け! 私は、お前の噛ませ犬じゃないぞ!」
その叫びは、王城の壁を震わせた。
彼女はそのまま、呆然とする二人を置いて、野良犬のように笑いながら去っていった。
数日後。王都で最も賑わう宝飾店通り。
フリードリヒとマリアが、新調するティアラを選び、護衛を連れて優雅に歩いていたその時だ。
「……ッ、何だ!?」
路地裏から飛び出してきた影が、護衛の騎士を一撃で沈める。
ボロボロのローブを羽織ったエリゼだった。彼女は狂乱の令嬢さながら、白昼堂々、元婚約者を襲撃したのだ。
「エリゼ、貴様、何を――」
「問答無用ッ!」
エリゼの拳が、王太子の鼻先をかすめる。
それは貴族の嗜む剣術ではない。
泥をすすり、執念を煮詰めた「闘争」の動き。
悲鳴を上げるマリア。
混乱する群衆。
「次は、パーティーだ……。そこが、お前たちの終着駅だぞ」
一頻り暴れたエリゼは、駆けつける衛兵たちを嘲笑うかのように、建物の屋根へと消えていった。
そして迎えた、マリアの卒業パーティー。
会場は厳重な警備に包まれていた。誰もが「あの狂った令嬢」の乱入を警戒していた。
しかし、マリアがフリードリヒにエスコートされ、満面の笑みで入場したその瞬間――。
ドォォォォン!!
大広間の扉が、物理的に破壊された。
「こんばんは、皆様。お楽しみのところ失礼するよ」
現れたのは、真紅のロングコートを纏ったエリゼ。
彼女の背後には、彼女の「闘魂」に当てられた荒くれ者たちが控えている。
「行けっ、我が精鋭たちよ!」
会場は一瞬にして戦場と化した。フリードリヒが剣を抜き、エリゼに斬りかかる。
「いい加減にしろ、この、狂女がっ!」
だが、エリゼは避けない。肉を切らせて、骨を断つ。
王太子の渾身の一撃を肩で受け止めると、彼女は不敵に笑い、カウンターの掌底を叩き込んだ。
「くたばれ……!」
衝撃の一撃。王太子は白目を剥き、あられもない姿で床に崩れ落ちた。
その口からは、だらりと舌がはみ出している。かつての威厳など微塵もない、あまりにも無様な「舌出し失神KO」であった。
静まり返る会場。
エリゼは壇上に上がり、マイク……の代わりの拡声魔法具を掴んだ。
彼女は、恐怖に震える王太子派の貴族たち、そして盲目的に彼らを支持していた聴衆を見据える。
「……王太子派閥の皆様。いいえ、この国の皆様。目を覚ましてください!」
その声は、魔法のように人々の心に突き刺さった。
「いつまで、こんな無能な男に、甘い汁を吸わせるつもりですか? 私が、この澱んだ国を変えてみせる」
エリゼは、真紅のコートを脱ぎ捨てた。
その下には、黄金と深紅で彩られた、戦うためのドレス。
彼女は両腕を左右に大きく広げ、天を仰いだ。
これぞ、勝利した者だけが許される、黄金のポーズ。
「今夜、この国に血の雨が降るぞ!」
会場には、彼女を称えるシュプレヒコールが巻き起こった。
折しも、窓の外では嵐が始まり、赤い月が国を照らしていた。
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