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魔王は勇者の骸を愛す【MVあり】

掲載日:2025/11/26

この小説は、彩崎あすなんによるオリジナル曲「慟哭」のセルフノベライズです。

楽曲のMVはこちらです。小説と楽曲どちらを先にご覧になっても楽しんでいただけます。

慟哭/Doukoku feat.GALENAIA&HXVOC【彩崎あすなん】

https://youtu.be/qL7AhJrNPhw

 これは、世界を手に入れる代償として、「魔王」となる呪いにかけられた憐れな男の物語。



 *********


 打ち取った。打ち取ってしまった。

 魔王は、自分の城に訪れた勇者の亡骸を前に、玉座に座り、一人くつくつと笑っていた。

 

 ああ、なんと呆気ないものであろうか。その女勇者のことを魔王はずっと、世界を見渡せる水晶玉を手に、見てきた。

 その一生を知っている。

 弱き者を助け、数多くの難敵を倒し、魔王城に配置した将軍たちも倒し。

 そうして、自分の座る玉座の間までやってきた、彼女。

 

 今はただ、何も言わぬ骸として、魔王の目の前に横たわっている。


 心の底から渇望していた彼女との邂逅は、ほんのわずかな時であった。

 彼女だけが、魔王を呪いから解放しうる唯一の希望であったが。


 そんな希望など、ただの幻想でしかなかった。

 最後の希望を失い、魔王はただ、一人孤独に嗤うほかなかった。



 *********



 男は、世界の覇者であった。


 生まれは貧しく、家族は社会に殺された。

 父親は危険極まりない鉱山での採掘作業に従事させられ事故にて死んだ。そんな危険な仕事を選んだのは、病気の娘のためであった。

 病を治す魔法は、権力者によって支配されており、大変高額であった。高額に釣り上げられているのも、そう、金のために危険な仕事をする労働者を確保するためだった。

 父が死に、間もなく娘-ー男にとっての妹も死んだ。

 母は、娼婦として働き、ある時酔った客の娯楽で殺された。

 

 世界は男にとって、敵でしかなかった。

 だから、世界を手に入れてやることにしたのだ。自分たちを悲惨な目に合わせた者たちへの復讐として。


 その願いは、悪魔との契約によって成し遂げられた。

 代償は、永遠の命を得て、魔王となること。合わせて誰からも愛されない存在となる呪いがかけられた。



 もとより家族を失い、誰からも虐げられてきた男にとってそれは些細なことに思えた。


 そうして彼は、世界を手に入れた。


 権力者を跪かせ、女を侍らせ、あらゆる美食を極め、世界中を旅した。

 楽しかったのは、気が晴れたのは最初のうちだけであった。


 誰もが彼を恐れている。

 彼に向けられる美辞麗句は、全て恐怖からもたらされるものであった。

 一かけらの好意も存在しないことは、呪いの代償であることから分かっていた。


 全ての命令が聞き届けられるにも関わらず、誰かの愛を、いやただひとかけらの好意も、手に入らなかった。

 彼に本音を語る者さえ、一人もいなかった。


 復讐など一瞬で終わってしまった。

 生まれ故郷の権力者の首をはねた。ただそれだけ。気持ちなどすかっともしなかった。

 残されたのは、永遠の孤独。

 悪魔に呼びかけても、神に祈っても、もはや誰も、彼を救うことはできなかった。



 *********


 そうして百年の時が経ったとき。

 いつもと同じであるはずの日常の中に、異変が生じた。


『勇者が誕生しました』


 不思議な音声とともに、目の前に水晶玉が現れた。

 覗き込むと、一人の女の赤子が産まれたところであった。


 これは神による救済であろうか。あるいは悪魔の道楽か。

 魔王は周囲を見渡したが、いつも通りの自分の自室でほかに異変はなかった。


 勇者。それは魔王を打ち倒す存在である。

 自分が魔王になる呪いをかけられたのは、勇者に打ち倒されるためだったのだろうか。

 これから先一体何が起こるのか分からない。そんな久しぶりの展開に、心が躍った。

 彼女の成長を見守ることだけが、彼にとっての楽しみとなった。


 成長した彼女は、魔王の支配する世界に対して異を唱えるようになった。

 魔王の圧政に従うだけの家族に、こんなのおかしいと説いた。

 友人に対して、おかしいと説いた。

 そんなことを言ってはいけないと諭されても、彼女は変わらなかった。


 自分に対して異を唱える存在など、この百年、一人も現れなかった。

 まさに勇者。

 彼女のそんな姿に、魔王の心は踊った。

 自分の支配する世界に現れた、一点の不確定要素。

 彼女の口にする言葉はどれもが彼の心を揺らした。


 この百年間、決して聞くことのなかった、人の真の心に思えた。

 心地よかった。彼女の言葉の一つ一つが、とても嬉しかった。

 

 そして、勇者が魔王を打ち倒しに来る日を渇望した。


 彼女のレベルアップに最適な軍勢を差し向けた。

 彼女は、何があってもくじけなかった。誰一人彼女のなそうとしている偉業に理解を示さなかったが、それでも彼女は研鑽を積み、敗れた相手にも何度も何度も挑戦した。

 敵を倒すごとに彼女はレベルアップした。


 確実に、勇者として、成長していった。

 その様子を、魔王は、水晶玉を通じてずっと見ていた。彼女の成長だけが楽しみであった。

 

 心痛むのは、彼女もまた孤独な存在であったことであった。

 魔王の圧政に異を唱える特異点。

 民衆を救おうとしているのに、誰も彼女を理解しなかった。そんなことをしてはいけないとしか言わなかった。

 いや、次第に民衆の敵意は彼女に向いた。


「お前がいるから、この国には魔王の軍勢がやってくるんだ」


 そんな言葉とともに、彼女が民衆から石を投げられ国を追われた日。

 魔王は心の底から怒り、そして自らの行いを悔いた。

 彼女の孤独は、自分に起因するものであった。魔王が存在するから彼女は魔王に立ち向かおうとしているのだし、魔王が軍勢を差し向けていたから、彼女は生まれ故郷を追われてしまった。


 なんと憐れな女であるか。


 そんな境遇にも挫けず、魔王を目指す彼女の、なんと愛おしいことか。


 彼女に打ち倒される日を心待ちにした。

 彼女に殺され、永遠の命から解放されること、そして彼女が民衆に受け入れられ、英雄として讃えられ、その労が報われるだけの賞賛を浴びる日を、渇望していた。


 今に、今に見ていろ。

 お前が石を投げた、その女こそが、お前たちの英雄なのだ。

 理解せよ。

 彼女の偉業を理解せよ。

 そうして訪れた世界の解放に、歓喜するがいい。


 魔王は、ただただ、勇者の来訪を渇望していた。



 ああ、それなのに。

 彼女が世界を救済することを、誰よりも心待ちにしていたはずなのに。


 彼は魔王であり、魔王としての役割から逃れることはできず。

 彼のもとまでようやくたどり着いた彼女を、数刻の戦闘ののちに、葬ってしまったのであった。



 *********



「くくく……ははは……ははははは」


 一人残された玉座で、男は嗤った。


「悪魔よ、見ているか。お前の道楽だったのだろう。俺に希望を見せて、心躍らせて、期待させて、挙句このざまだ、満足か、悪魔よ!!」


 誰も聞いていない言葉を、語る。


「俺は勝ちたいなどと思っていなかった。彼女に負けるつもりでいたのだ。ただ束の間の打ち合いを楽しみ、それだけで、彼女に身をゆだねるつもりだったのだ。

 それが、どうだ、どうして彼女を殺してしまったのか。俺の刃はどうして彼女を貫いてしまったのか。

 ーーーーお前の仕業だろう。悪魔よ、お前が俺の刃を動かした、そうだろう!!」


 声を張り上げても、誰からも返答はなく。



「ああ、魔王に打ち破られる勇者の一生の、なんと不毛なことか。この女は、俺を倒すためだけに生まれてきたのだ。ただの一人の理解者も、ただの一人の仲間もなく。生まれながらに背負った使命に縛られ、それに疑問を思うこともなく、今まで生きてきたのだ。ああ、これからだったのだ。彼女の人生は、これから始まるところだったのだ。

 これからだった。皆に受け入れられ、労われ、それから恋をして、家族をもって、幸せな人生を送るのは、これからだったのだ」


 ただ、静寂だけが、そこに横たわっていた。


「それを、俺が奪った。俺が奪ってしまったのだ。この俺の手が……命など惜しくもないというのに、この俺が!!」

 

 刃が彼女の体を貫いた感触が、まだ手のひらに残っている。


 男は嗤い、嘆き、そうして、ただ一人。

 再び訪れた永遠の孤独の中に、いた。


 そうして、ああ、どれだけの時間そうしていただろうか。

 魔王は、女勇者の亡骸に目をやった。

 憐れな女。愛おしい女。

 即死であったのが、救いであっただろうか。彼女は魔王に勝てると思ったまま刃を交え、勝利を渇望するその瞳を一切曇らせることなく、死んだ。

 彼女の苦しむ姿も、命乞いも、見ることはなかった。

 彼女は勇者として散った。それが彼女にとっての救いであっただろうか。

 

 このまま、安らかに眠り、朽ちていく。役目から解放され安らかに眠る。


「ーーーー嫌だ」


 嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。俺を置いて一人朽ちてなどいかせるものか。

 お前の一生は、最初から最後まで、俺のものでなければ許さない。

「俺を置いていくな、俺を置いていくな」


 魔王は、玉座から立ち上がり、駆け寄り、泣いた。

 勇者を抱き寄せる。

 幾度となく見てきた寝顔と同じ、安らかな顔が、そこにあった。


 この顔が今宵で見納めだなどと、そんなことは許さない。

 俺から逃れることなど、許しはしない。



 嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


「お前を、この牢獄から逃すものか」


 呪文を唱える。


「お前は、俺のものだ」

 

 それは氷化の魔法。


 死体が朽ちぬように。永遠に美しいまま、そこで眠っていられるように。


 彼女が死んでなお、その魂はまだそこにあった。魔王にはそれが感じられた。

 今はまだ、そこにある。魂が肉体から離れるには数日を要するのだ。


 ーーーーだから、その魂ごと、ここに縛り付ける。


 言葉を交わすことはできないとしても。

 彼女にとっての救いにはならないとしても。


 彼女を失わないために。

 この永遠の牢獄に、彼女を道連れにするために。


 呪文を唱える。


 ああ、彼の目論見は成功するだろう。そうして彼女の一生は、死んでなお、魔王に捧げられる。


 かわいそうな花嫁。


 涙が、頬を伝ったような、そんな気がしたが、全ては残酷な氷に飲み込まれる。

 それだけだった。


この小説は、彩崎あすなんによるオリジナル曲「慟哭」のセルフノベライズです。

楽曲のMVはこちらです。小説と楽曲どちらを先にご覧になっても楽しんでいただけます。

慟哭/Doukoku feat.GALENAIA&HXVOC【彩崎あすなん】

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面白かったです! 魔王になってしまった男の悲哀と、うまく倒される事もできない絶望が、一種の恋みたいになってしまうなんて。 音楽もマッチしていて素敵でした。歌詞の裏にこんな物語があるなんて、驚きました。
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