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モケジョの異世界聖女ライフ ~模型神の加護と星降りの巫女の力に目覚めた私~光の王子の距離感がバグっているんですが!  作者: Ciga-R


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第84話 終焉の器、起動――生を導く星と、終わりを包む夜葬の巫女



 虚邪の教団は、すでに配置を終えていた。



 表の神殿。

 裏の王都。


 境界に点在する“穢れの溜まり場”。それらは無秩序に見えて、一本の線で結ばれている。


 光が集まる地点に、必ず闇が先回りする構図。


 それが、教祖ルーグ・ヴェルミオンの描いた迎撃陣だった。


「……来るぞ」


 誰に言うでもなく、教祖は呟く。


 王家が隠し続けた“光”。その存在を知った以上、もはや放置はできない。


 かつては“封印を壊すため”に聖女を殺した。


 今度は――“封印される前に、光そのものを折る”。


 教団の奥、黒水晶の器の中で、別の“何か”が目を覚まし始めていた。


 それは神ではない。そして人でもない。


 光を喰らうためだけに作られた、虚邪の最終構成体。


 聖女の魂を棺に変えたように、今度は――“聖王の血”を砕くための器。


「迎撃段階、最終位相へ移行する」


 その宣言とともに、穢れが世界に染み出す。


 黒はまだ、前面には出ない。だが確実に、“その時”に向けて準備を整えていた。


 光が強まるほど、影は深くなる。


 そして――


 影が極まった時、闇は“兵器”となる。


 遠く、まだ何も知らぬ王都の空に、見えぬひびが、音もなく走った。


 それは、決戦の予兆。


 虚邪は、すでに――最終兵器を、起動段階へと進めていた。


 それは、“誕生”ではなかった。祝福も、祈りも、産声すらない。


 ただ――世界から“削り取られた空白”が、かたちを与えられただけの存在。


 大神殿の地下、さらにその下。


 星の光も、地の鼓動も届かぬ深層で、黒い棺が静かに開かれた。


 中に横たわるのは、一人の少女。


 どこまでも白い髪。


 閉じた瞼。


 そして、かつて“大陸一の聖女”と称された面影。


 だが――そこに“光”はなかった。


 代わりに満ちていたのは、吸い込まれるような虚無。


 祈りを拒み、救済を拒み、生そのものを静かに終わらせる“夜”。


「起動を確認」


 教祖ルーグ・ヴェルミオンの声が、儀式空間に落ちる。


「個体名――セレナーデ・モルテフォール、その(あざな)ディクリート・オブ・サイレン」


 夜葬の巫女。


 星で“生”を導いた者に対し、夜で“終わり”を包む側の存在。


 彼女は――セレーネの亡骸そのものを核として、教団が封じ、名を口にすることすら忌んだ禁術の連なりを、十年という歳月を費やし、血と祈りと狂気を重ねて編み上げられた、この世に二度と在ってはならないはずの、唯一の複製体だった。


 そして同時にそれは――滅び去ったはずの邪神を、再びこの世界へ“呼び戻す”ための器。


 神性を拒む肉体に、神を縫い留めるためだけに用意された素体。


 復活の儀において彼女が息をし、血を巡らせる限り、邪神は名を得、形を得、再び現世へと爪を掛ける。


 彼女自身の意思や存在価値など、最初から計算にはなかった。


 彼女は人ではなく、信仰でもなく、ただ――神を蘇らせるためだけに用意された、鍵そのものだった。


 肉体は完全。


 魂は――不完全。


 否、正確には“削ぎ落とされた”のだ。


 慈愛。

 希望。


 他者を想う祈り。


 聖女セレーネを“聖女たらしめていたもの”だけが、徹底的に除去されている。


 その代わりに注ぎ込まれたのは、邪神の穢れ。


 そして――死を恐れぬ意志。


 セレナーデは、ゆっくりと瞼を上げた。


 その瞳は、夜の色をしていた。


「……ここは」


 声は澄んでいる。だが、そこに温度は感じられない。


 生者の声ではなく、死者の祈りでもない。


「目覚めたか」


 教祖が一歩、棺へ近づく。


「お前は“終わらせる者”だ。光が集う場所へ赴き、そこに訪れる未来を――夜で包め」


 セレナーデは、わずかに首を傾げた。


「光……?」


 その問いに、教祖は微笑む。


「そうだ。お前には“兄妹”がいる」


 その瞬間、空間がかすかに軋んだ。


 遠く、王都の方角。


 まだ名も知らぬ“光の王子”の存在に、虚無が反応する。


 ――ルシエル。


 光を極めて強く宿す魂。生を導く星の系譜。


 セレナーデ・モルテフォールは、彼の鏡写し。


 生まれながらに愛され、守られ、未来を託された存在に対し、彼女は――奪われ、削られ、終焉だけを与えられた存在。


「……終わらせれば、いいのですね」


 問いではなかった。


 それが、自分の“役割”だと理解している。


「そうだ」


 教祖は告げる。


「お前が歩いた場所には、祈りは残らない。希望は芽吹かない。だが――確実に“終わる”」


 セレナーデは、ゆっくりと棺から身を起こした。


 その背に、黒い布がかけられる。


 夜葬の装束。


 光を悼むためではない。


 光を葬るための衣。


「では……行きましょう」


 その声には、怒りも憎しみもない。


 ただ、避けられぬ宿命を受け入れた者の、静かな確信だけがあった。


 星が生を導くなら。


 夜は、終わりを包む。


 光と闇ではない。

 生と終焉の対立。


 そして――


 ルシエルが“希望の象徴”として歩み出すその時、必ず、彼の前に立つ存在。


 それが、虚邪の穢れが投入する――


 最終兵器。


 セレナーデ・モルテフォール。


 聖女の名を持たぬ、もう一人の“聖女”。



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