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モケジョの異世界聖女ライフ ~模型神の加護と星降りの巫女の力に目覚めた私~光の王子の距離感がバグっているんですが!  作者: Ciga-R


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第77話 祝福される契りとは何か? 神殿監察官が見た“あり得ない可愛さ”



 セラフリエル・グラナートに与えられた部屋は、来客用の上等な一室だった。


 質素だが清潔。


 祈りのための小さな祭壇も備えられている。


 だが。


「………………」


 扉が閉まり、完全に一人になるなり、彼女はベッドに腰を下ろしたまま、固まっていた。


(……落ち着きなさい、セラフリエル)


 自分に言い聞かせる。


 神殿監察官として、数多の異端、禁術、禁忌の儀式を見てきた。


 今さら、動揺する理由などない――はずだった。


 だが。


(……でも)


 脳裏に浮かぶのは、フリルとレースに包まれた、気だるげな少女。


 そして、凛とした佇まいの侍装束の女性剣士。


(……許嫁)


 その言葉が、やけに重く響く。


(女性同士……ですよね?)


(しかも、あの二人……)


 思い出すだけで、胸の奥がもぞもぞとする。


 慈しみ合っている、というよりも。互いを当然のように認め合っている、あの距離感。


(……あれは……)


(神殿的に……あり、なの……?)


 思わず、セラフリエルは額に手を当てた。


 神殿の教義は、明確だ。


 婚姻とは、祝福と契約の儀。神に誓い、互いに責を負い、共に生きる意思を示すもの。


 形よりも、血よりも、誓いの“純度”を重んじる。


 それは、今に始まった話ではない。


 人と獣人。

 人とエルフ。

 人とドワーフ。


 種族が異なろうとも、神殿はそれを否定してこなかった。


 大神セラフィードは、光に属する魂の契りであれば、祝福を与える。


 それが神の摂理であり、神殿が守ってきた一線だった。


(……そう)


(ならば……)


 思考が、そこまで辿り着いて――セラフリエルは、はっとする。


(……あれ?)


(では……)


(なぜ私は……)


 今まで、一度も。


 同性という可能性を、神学的に検討したことがなかった?


 獣人と人は良くて、長命種と短命種も良くて、魂の形が異なる者同士ですら祝福される。


 なのに。


(……なぜ……)


(“同じ性”というだけで……)


(無意識に、枠の外に置いていた……?)


 背筋に、ひやりとしたものが走る。


 それは恐怖ではない。


 羞恥でもない。


 気づいてしまった者の、戦慄だった。


(……神殿は)


(摂理に反していなければ、祝福を与える……)


(ならば……)


 静かに、だが確かに。


 思考の地平が、一段、広がった。


(誓いが真実で……)


(互いを欺かず……)


(光に背かぬ生であるなら……)


(……同性でも……?)


 今まで、“考えたことがなかった”。


 それだけの理由で、検討すらしてこなかった問い。


 だが今。


 目の前で、疑いようのない“誓いの形”を見せつけられて。


 セラフリエル・グラナートは、神殿監察官として、そして一人の神学者として。


 新たな極致の入口に、立っていた。


(……これは……)


(試練ではなく……)


(“啓示”なのでは……?)


 胸の奥で、光が、静かに、しかし確かに揺れる。


 ――大神セラフィードは、どこまでを“光に属する契り”と認めているのか。


 その問いに、セラフリエルは、初めて“自分自身の答え”を探し始めていた。


 それが、彼女の神殿人生における、小さくも、決定的な一歩になるとは。


 この時点では、まだ――誰も、知らなかった。


 だが、同時に。


(でも、監察官として……)


(私、今、かなり動揺してません……?)


 セラフリエルは、ゆっくりと椅子に腰を下ろし、背もたれに身体を預けた。


 冷静であるべき立場。感情を挟まず、事実だけを見届ける役目。


 それなのに。


 胸の奥に残っているのは、裁定でも、神学的疑問でもなく――


(……あの子)


(なんで、あんなに可愛いの……)


 ぽつり。


 誰もいない部屋で、神殿監察官は、はっきりと自覚してしまった。


(……まずい)


(これは、まずい……まずいですよ)


 可愛いものが好き。それ自体は、罪ではない。


 神殿も、可憐な聖像や装飾、天使像の意匠を否定していない。むしろ、美しさは神の光の一形態とすらされている。


 だが。


(あの……メイク)


 思い出してしまう。


 目元の、ほんの少し重ためのライン。儚さと主張を同時に成立させる絶妙な濃淡。泣きそうで、でも強気そうな、あの不思議なバランス。


(……反則では……?)


 さらに。


(フリル……)


 揺れるたびに視線を持っていかれる、過剰すぎない量。


 甘すぎない色合い。


 “守られたい”と“触れるな”を同時に主張する完成度。


(……量産型……とか言ってたげど、なにをもって量産?)


(あれ、完全に試作型の専用衣装ですよね……? あのような衣装はじめて見ましたし量産してるなら私も欲しい……)


 神殿監察官としての理性が、必死に割り込んでくる。


(落ち着きなさい、セラフリエル・グラナート)


(あなたは、見届ける立場)


(感情移入は禁止……)


 ――なのに。


 脳裏では、リリアが歩いたときのフリルの揺れが、完璧なスローモーションで再生されている。


(……しかも……)


(あの子……)


(無自覚……ですよね……?)


 可愛いことに、無自覚。


 自分がどれだけ“刺さる存在”かを、理解していない。


 それが、どれほど危険か。


(……神よ)


 思わず、両手で顔を覆う。


(これは……)


(監察官としての試練ではなく……)


(私個人への、誘惑では……?)


 深く、長いため息。


「……神よ」


 今度は、さきほどよりも切実に。


「どうか……」


「どうか……この感情が、判断を曇らせませんように……」


 そう祈りながら。


 脳裏ではまた、あの地雷系メイクと、ふわりと広がるフリルが、どうしようもなく“可愛い”という結論に辿り着いてしまう。


(……だめだ)


(可愛い可愛いゲージ……)


(上がりすぎでは……?)


 神殿監察官セラフリエル・グラナート。


 冷静沈着、理知的、信仰に忠実。


 ――そのはずの彼女は。


 この夜、人生で初めて、“可愛いという概念に敗北しかけている”自分と、静かに向き合っていた。


 ハーゼン領の夜は、静かだ。


 だがその静けさの中で。


 神殿の理性と、個人的嗜好と、そしてとてつもなく“仕上がった地雷系”が。


 確実に、新たな火種を、育てていた。


 ――それが、翌日以降、どれほど厄介で、どれほど愛おしい混乱を生むのか。


 この時点では、まだ。


 誰も、知らなかった。



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