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モケジョの異世界聖女ライフ ~模型神の加護と星降りの巫女の力に目覚めた私~光の王子の距離感がバグっているんですが!  作者: Ciga-R


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第75話 王国と神殿の視線が交わる、覚悟の合流地点



 次に、目についたのは青色。


 深い青紺の外套を翻し、一人の男が前に出る。


 金属製の肩章と、儀礼用の装飾剣。

 その装いは、即座に“王国側”だとわかるものだった。


 年齢は三十代前半。

 切れ長の目は感情を抑え、冷静な観察者の光を帯びている。


「王国監査局より参りました」


 簡潔な名乗り。


「王国特別監査官、クラウス・フォン・ハーゼン」


 一礼は最低限。

 敬意というより、必要だから行った動作。


 彼の視線は、まずルシエルへ。

 王子としての立場と、判断力を測る視線。


 次に――ヒジカタ。


 ほんの一瞬。


 視線の“質”が、わずかに変わった。


 過去の戦場。

 剣を交え、背を預けた記憶。


 言葉を交わさずとも、

 互いの動きだけで理解し合えた、あの感覚。


(……相変わらず、立ち方がいい)


 内心の評価は、短く、しかし確かだった。


 そして最後に――リリア。


 視線が、ほんの一瞬だけ止まる。


 フリル。

 レース。

 柔らかな色合い。


 ――情報と、現実が、噛み合わない。


(……は?)


 思考が、わずかに空転する。


(……いや、待て)


(ユーフェミアに……許嫁ができた、とは聞いたが……)


 報告書にあった文言が、頭をよぎる。


 “形式上の縁談”

 “双方合意”

 “問題なし”


(……問題だらけだろう)


 だが、その感情は表に出さない。


 クラウスは、あくまで淡々と告げる。


「王国としては、王子殿下の行動が王法に照らして適切か」


 視線を戻し、声を整える。


「また、同行者が持つ戦力と危険度を確認する義務があります」


 はっきり言えば、監視。


 柚葉の肩が、わずかに強張る。


 ヒジカタが、一歩前に出た。


「某らは護衛でござる。殿下の安全確保、それ以上でも以下でもない」


 その声に、クラウスは小さく肩をすくめる。


「ええ、承知しています」


 だが、ヒジカタを見る目だけは、どこか違った。


 警戒ではない。

 敵意でもない。


 ――むしろ、戦友を見る目。


「だからこそ」


 視線を戻し、言葉を続ける。


「“最強すぎる護衛”は、記録に残さねばならない」


 一瞬だけ。


 本当に、一瞬だけ。


 リリアの方を見て、

 クラウスの眉が、ほんのわずかに動いた。


(……で、その“最強”の横にいる、あれは何だ)


 答えは出ない。

 理解も、追いつかない。


 だが。


(……まあいい)


(戦場で役に立つなら、どんな格好でも構わん)


 そう結論づけた時点で、

 彼はもう、“憎からず思っている側”に足を踏み入れていることに――

 本人だけが、気づいていなかった。


 その瞬間だった。


 張り詰めかけた空気の中心へ――

 セラフリエルが、静かに一歩、踏み出した。


 動きは穏やかで、急ぐ様子はない。

 だが、その一歩が入っただけで、場の主導権が自然と彼女に移る。


「クラウス殿」


 名を呼ぶ声は低すぎず、高すぎず。

 感情を煽ることも、突き放すこともない。


 しかし――

 これ以上踏み込めば、神殿として黙認しない。

 その意志だけは、はっきりと伝わっていた。


「神殿としては」


 彼女は視線をまっすぐに保ったまま、淡々と続ける。


「“結果が正しければ”それで構いません」


 それは、寛容にも聞こえる言葉だった。

 だが同時に――

 結果が正しくなければ、裁くという宣言でもある。


 セラフリエルの瞳が、ヒジカタとリリアを包み込む。


 値踏みではない。

 敵意でもない。


 “確認”だ。


「……もっとも」


 ほんのわずか。

 ほんの一瞬だけ。


 公的な仮面の奥に、個人的な興味が滲んだ。


「噂以上に、興味深いお二人ではありますが」


 その言葉に、リリアは気怠げに片眉を上げる。


「褒め言葉としては、ギリギリ」


 即座に返す声音には、警戒よりも慣れがあった。

 ――こういう大人を、何人も見てきた者の反応。


 ヒジカタは、鼻を鳴らす。


「余計なお世話でござる」


 だが、その声に怒気はない。

 評価されていること自体は、理解している。


 軽く、空気が緩んだ。


 そこで、ルシエルが一歩前に出る。


 王子としてではなく、

 この場の“調整役”として。


「――要するに」


 柔らかいが、芯のある声。


「君たちは“見届け人”」


 セラフリエルとクラウスを見て。


「ボクたちは“仕事をする側”」


 今度は、ヒジカタとリリア、そして柚葉へ。


「立場は違う。でも、目的は同じ」


 一拍。


「そう理解していいかな?」


 その問いかけは、確認であり、

 同時に――線引きだった。


 セラフリエルとクラウスは、一瞬だけ視線を交わす。


 言葉はない。

 だが、互いに「譲るべきところ」を理解している。


 そして。


 二人は、ほぼ同時に頷いた。


「はい」

「その認識で相違ありません」


 神殿と王国。

 異なる価値観を背負う二人の声が、同じ結論に落ち着く。


 こうして。


 王子と聖女。

 訳あり最強護衛の二人。

 そして、神殿と王国の“目”。


 それぞれが異なる理由と立場を抱えながら、

 一つの目的のために並び立つ。


 六つの立場が、ようやく一つの線上に揃った。


 その先に待つのは――

 虚邪に深く汚された村、クンナ村。


 救済か。

 裁定か。

 あるいは――新たな試練か。


 まだ、誰にもわからない。


 ただ一つ確かなのは。


 この場に集った誰一人として、覚悟が足りない者はいないということだけだった。


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