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モケジョの異世界聖女ライフ ~模型神の加護と星降りの巫女の力に目覚めた私~光の王子の距離感がバグっているんですが!  作者: Ciga-R


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第71話 全否定なのに相性抜群、正体バレで距離ゼロの最悪で最高の許嫁



 柚葉は、その微妙な空気に気づき、心の中でそっと突っ込んだ。


(……いや、否定の内容はひどいけど)


(……でも、好きこそだよね、絶対……)


 全力の喧嘩の中に、二人だけが共有する、奇妙で温かい“理解の証”が確かにあった。


 ヒジカタとリリアの否定合戦は、王城の回廊にリズムのように響き続けていた。


「それ布、多すぎ」


「厚底ブーツとか、動きにくいの極みでござる!」


「趣味の問題ではござらん!」


「効率無視してるだけでしょ、それ」


 声の応酬に、柚葉は両手を軽く挙げて、少しでも空気を和らげようとする。


「えっと、あの……二人とも、落ち着こう……?」


 だが、声のトーンは控えめすぎて、二人には全く届かない。


「拙者は譲れぬ!」


「いや、譲る必要もないし」


 それでも柚葉は、ひたすら微笑みながら割り込む。


「ねえ、ヒジカタさん、リリアさんも、きっとお互いのこと、ちゃんと見てると思うよ……?」


 その言葉に、二人は一瞬だけ動きを止める。


 ヒジカタの勢いが、微かに止まった。


 リリアも、眉を上げてちらりとヒジカタを観察する。


「……え、あ、いや、別に」


「……拙者も、いや、違う……」


 否定の言葉は続くが、どこかぎこちなく、先ほどまでの全力の拒絶とは違う。


 柚葉はほっと息をつく。


(……ふふ、効いたみたい)


 短い沈黙の後、リリアがふわりとため息をつく。


「ま、でも……ちょっと面白いかもね、この人」


 ヒジカタは照れ隠しに肩をすくめる。


「……面白い、かもしれぬ……」


 口では否定しても、微かに互いを認めている――そんな空気が、回廊にほんの少し柔らかさをもたらした。


 柚葉はその様子を見て、胸の中で静かに微笑む。


(……やっぱり、この二人、相性悪くないんだろうな……)


 だが、その中心で、ルシエルだけが静かに二人を見つめていた。


 どこか――懐かしげな目。


「……まあ」


 柔らかく、しかし確かな距離感を保った声。


「こう見えて」


 一拍置く。


「実は、ものすごく仲がいいんだよ」


 その言葉に、二人は即座に反応する。


「「よくない!!」」


 またしても、寸分違わぬ同時否定。


 柚葉は思わず息を呑んだ。


(……これ、周囲が疲れるタイプの関係だ……)


 ルシエルの穏やかな微笑みは変わらず、けれどその瞳には確かな理解と余裕が宿っている。


(……でも、この人は)


(絶対、この二人を離す気はない……)


 王城の回廊に、今日も新たな事実と、これから続く騒がしさだけが静かに刻まれていった。


 柚葉はぽかんと口を開けたまま、心の中で呟く。


(……え、これ本当に大丈夫……?)


 だが、二人が同時に言い返し、同時に相手を睨み、同時に舌打ちをするその光景を見ているうちに――


 不思議なことに。


 胸の奥に、ひとつの確信が浮かんだ。


(……うん)


(仲、いいな……これ)


 ――奇妙で、騒々しくて、けれど確かに温かい。


 そんな“関係の形”が、目の前にくっきりと浮かび上がってしまったのだった。


 そして――その時、ふと、重大な違和感が柚葉の胸に走った。


(……あれ?)


(でも、許嫁って……)


 視線は自然とヒジカタへ向かう。


 あの侍口調、厳めしい態度。しかしどう見ても、女性的な輪郭。


(ヒジカタさんって……令嬢、だよね?)


 次に視線はリリアへ。


 フリル、レース、量産型地雷の完成形。その華やかさは異世界の王城にも馴染みすぎている。


(リリアも……もちろん女の子、だよね?)


 柚葉の脳内で、思考の歯車が回り――そして、とんでもない方向へと噛み合った。


(……まさか)


(この世界、同性同士でも結婚できる……?)


(え、最先端のジェンダーレス異世界……!?)


 感心と驚嘆が入り混じったその瞬間、ルシエルの視線が柚葉に向けられる。


 怪しげな微笑み。王子らしい優雅さの裏に――「全部わかってて黙ってた人」の顔がある。


「……ふふ」


 柔らかく、とても楽しげに。


「ユズハ、勘違いしているみたいだけど」


 きょとんと首を傾げる柚葉。


「え……?」


 ルシエルは、視線をリリアに向ける。


「リリアはね」


 間を置いて、言葉を紡ぐ。


「ヒジカタ・ソウシと同じで――」


 その瞬間、リリアの顔色がぱっと変わった。


「――っ!?」


「自分で、そう名乗っているだけなんだ」


「いわないで!!!!」


 叫び声は王城に響き渡る。完全な素。これまで見た中で一番本気の焦りだ。


 リリアは両手をぶんぶん振って、ルシエルを制止しようとする。


「それ以上はダメ!!」


「今はそのフェーズじゃないから!!」


「人格的にも立場的にも色々ややこしくなるから!!」


 だが、時すでに遅し。ルシエルはにこやかに――しかし慈悲なく告げる。


「本名はね」


 一拍置き、言葉を続ける。


「ちゃんとした、男らしい貴族令息名なんだよ」


 ――沈黙。


 柚葉の思考は、完全に停止した。


(…………え)


(……男……)


(……令息……)


 目が、ゆっくりと白くなる。


 そして――何も言わず、そのまま白目で固まる。


 ヒジカタとリリアが、同時に柚葉の方を見た。


「……あ」


「……やっちゃった?」


 ルシエルは満足げに微笑む。


(……この世界)


(情報量、多すぎない……?)


 柚葉の意識は、ゆっくりと遠のいていった。


 ――沈黙は、しばらく続いた。


 白目で固まった柚葉。


 気まずく視線を逸らすヒジカタ。


 そして――


「……っ、だから言わないでって言ったのに……!」


 リリアは頭を抱えてしゃがみ込む。


 フリルが揺れ、量産型地雷の完成形が、完全に崩壊した瞬間だった。


「……はぁ……」


 深く、深くため息をつき、やっとのことで身体を起こす。


 眠たげだった瞳が、わずかに真剣な色を帯びる。


「……仕方ないか……ここまで来たら……」


 その声には、かすかな覚悟が滲んでいた。


「わたしが……本名を名乗りたくない理由ね」


 柚葉は、恐る恐る口を開く。


「……やっぱり……男の人、なんですか?」


 リリアは即答する。


「うん」


 その声に迷いはなかった。


「生まれた時から、戸籍上も、血筋的にも、ちゃんとした“貴族令息”」


 自分の身体を、そっと見下ろす。


「でもね」


 小柄な体。

 色白な肌。

 中性的を通り越した、柔らかすぎる顔立ち。


「この見た目で、“男として”“跡取りとして”“貴族の顔として”生きるの、無理だった」


 あっさりと語るその声は、乾き切った諦念の色を帯びていた。


「剣はからっきし」

「体力もない」

「声も低くならない」


「名前だけは、やたら立派だったけど」


 視線を、ほんの一瞬逸らす。


「……ものすごく男らしい名前」


 柚葉の背筋が、ぞくりと震えた。


(どんな名前……)


「呼ばれるたびに、“期待”を突きつけられる感じがしてさ」


 苦笑が零れる。


「だから、捨てたの」


 名も。

 役割も。

 “そうあるべき姿”も、すべて。


「幸い、うちには完璧すぎる兄がいたから」


 淡々と語るその口調に、後悔は混じらない。


「剣も政治も社交も、全部こなす天才」

「家を継ぐのは、最初から兄って決まってた」


「わたしは――余り物」


 だが、声はわずかに強くなる。


「でもね」


「魔法だけは、別だった」


 その言葉が空気を震わせる。


「属性適性、理論理解、詠唱短縮、魔力容量」

「全部、異常値」


 ルシエルは静かに頷く。


 ――王立魔導研究院・第七分室。


 そこは、才能だけで選ばれる、特別な場所。



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