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モケジョの異世界聖女ライフ ~模型神の加護と星降りの巫女の力に目覚めた私~光の王子の距離感がバグっているんですが!  作者: Ciga-R


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第63話 王は託す――次代の王子たちと金獅子の六花へ



 影が彼の輪郭を呑み込み、存在の境界がさらに曖昧になる。


「縁、というやつでしょう」


 低く、淡々とした声。


 だが、その一言には、迅月衆として数え切れぬ因果と別離を見届けてきた者の重みがあった。


「それに――あの方の名が絡むなら、なおさら」


 名は出されなかった。


 だが、その場にいる全員が、同じ人物を思い浮かべる。


 沈黙が、ゆっくりと落ちてくる。


 重く、深く、抗いようもなく。まるで過去そのものが、再び彼らの前に立ちはだかったかのように。


 その沈黙の中心で、レオハートは静かに拳を握り締めた。


 王としての顔ではない。


 軍を率いる指揮官としてのそれでもない。


 ただ、一人の男として。


 かつて剣を振るい、仲間と背を預け合って戦っていた頃の自分として。


「……俺は、王だ」


 低く落とされた声は、揺るぎなく、逃げ場のない現実を突きつける。


「表立っては動けない。国を背負う身として、軽率な真似もできねぇ」


 一瞬の間。


 だが、その先に続く言葉は、迷いを断ち切る刃のようだった。


「だが――止めるつもりもない」


 視線が、ゆっくりと仲間たちを巡る。


 一人ひとりを確かめるように、そして信じ切っていることを隠しもしない眼差しで。


「虚邪の闇へ踏み込む者が必要なら……それを任せられるのは、お前たちしかいねぇ」


 短い沈黙ののち、ドルガンが口角を吊り上げた。


 その笑みは、かつて無数の戦場で仲間を守り抜いた、鉄壁の前衛のそれだった。


「最初から、そのつもりだ」


 言い切りに、迷いはない。


 アウロアは何も言わず、静かに弓の弦を指で確かめる。


 その仕草は祈りのようであり、同時に死地へ赴く覚悟の確認でもあった。


「帰ってこられるかは、運次第ね……」


 そう前置きしながらも、彼女の声に恐れはない。


「でも、行くわ。それが私の役目だもの」


 オーヴェルスは杖を床に預け、深く息を吸った。


 紫雲がわずかに脈打ち、室内の魔力の流れが整えられていく。


「道は、儂が開こう」


 老いた声だが、その芯は揺るがない。


「光が届く限り――いや、届かぬ闇の底にまでな」


 そして最後に。


 影が、音もなく一歩、前へ出る。


 リュウゲツだった。


「……では」


 短い言葉。


 だがそこに含まれるのは、迅月衆が背負ってきた無数の死と任務。


「夜は、我らが引き受けます」


 その瞬間、蝋燭の炎が、静かに揺れた。


 ――かつて世界を救いかけた者たちが、再び、闇へ向かうための準備を整えた瞬間だった。


「……お前ら」


 レオハートが、低く呟く。


 その声音には、懐かしさと、抑えきれぬ感情が混じっていた。


「まるで――《金獅子の六花》が、また揃ったみてぇじゃねぇか」


 一拍の沈黙。


 そして、それを破ったのは――腹の底から響く、豪快な笑い声だった。


「ははっ! 何を今さらだ、レオ!」


 ドルガンが肩を揺らし、大盾を背負ったまま笑う。


「俺たちはまだだ。誰一人、剣も盾も置いちゃいねぇ」


 その笑みが、次の瞬間、鋼のように引き締まる。


「セレーネを取り戻して――それでようやく、六人が“完成”だろうが」


 アウロアは何も言わず、静かに目を伏せた。


 金の髪がさらりと揺れ、その唇に、柔らかく、確信に満ちた微笑が浮かぶ。


「六人で一つ……」


 囁くような声。


「ええ。きっとセレーネも、そう言うわ」


 オーヴェルスは杖を強く握り締め、低く言葉を落とした。


「時は満ちた」


 紫雲が、確かに脈打つ。


「虚邪の穢れを討つ刻が来たのだ。あの子を踏みにじった者ども――決して、許してはならぬぞ。レオ」


 最後に、影が前へ出る。


「我ら迅月衆は」


 リュウゲツの声は静かだが、刃のように鋭い。


「いつでも、あなたの“刃”です」


 その言葉を受け、レオハートは深く息を吸った。


 胸の奥で、獅子が吼える。


 ――もう一度、戦う時が来たのだと。


 蝋燭の火が、大きく揺らいだ。


 それは風の仕業ではない。


 この部屋に満ちた意思と決断が、空気そのものを震わせたのだ。


「行くぞ」


 短く、だが一切の迷いを許さぬ声。


「妻を取り戻す。虚邪の穢れを――根こそぎ、叩き潰す」


 一拍の間。


 獅子王レオハートの眼に、金色の光が鋭く宿る。


「そして――」


 その声は低く、重く、世界へ叩きつける誓約だった。


「俺の“家族”に手を出した報いを、思い知らせてやる。この国にではない――世界そのものにな」


 次の瞬間。


 何の風もないはずの部屋で、蝋燭の火が、ふっと掻き消えた。


 闇。


 そして――


 五つの影は、すでにそこにはなかった。


 闇が去った後、私室には、深い静寂だけが残る。


 ……残ったはずだった。


 だが、獅子王レオハートは動かなかった。


 玉座に戻ることも、剣を取ることもせず、ただ深く、長く息を吐く。


 戦場に向かわぬ者だけが背負う、別種の重みを抱えながら。


「……俺は行かない」


 その一言は、苦渋ではあるが、迷いではなかった。


 王である以上、国を空けることはできない。


 虚邪が動き出した今、王都は“最後の砦”となる。


 それを守る者が必要だ。


「代わりに――“頭”は、アーシェスが担う」


 その名を口にした瞬間、空気が、ぴんと張り詰める。


「冷静さ、判断力、全体を見渡す目。あいつは……もう、俺の代わりができる」


 誇りと信頼が、そこにはあった。


「現場は――ガルディウスだ」


 最も危険な場所へ、最も危険な男を放り込む。


「突っ込ませて、壊させる。あいつには、それが一番似合う」


 まるで盤上に駒を置くような采配。


 だがそれは――父が、息子たちを信じきった証でもあった。


 そして、レオハートはさらに言葉を重ねる。


「ルシエルとユズハは、別動だ」


 癒しと再生、そして星光。


 戦場とは異なる“戦い”を担う二人。


「二人だけでは行かせん」


 低く、断じる声。


「――お前たちが育てた、とっておきの弟子を付けろ」


 闇の縁で、気配が揺れる。


「……承知しました」


 静かに姿を現したのは、リュウゲツだった。


「”侍”と、研究馬鹿の魔法使いですな」


 わずかに、苦笑が混じる。


「融通は利かぬが、忠義は本物。片や生活能力皆無で、変人ですが……魔術の腕は折り紙付き」


 レオは小さく息を吐き、目を伏せる。


「命を預けるには、十分だ」


 一瞬、過去がよぎる。


 自分もまた、そうして守られ、育てられてきた。


「……頼む」


 短い言葉。


 だがそこに籠められたのは、王ではなく、父としての想い。


 リュウゲツは深く一礼した。


「必ず。若と、その仲間たちを。そして柚葉殿とルシエル殿を――影から守り抜きます」


 沈黙。


 やがて、レオハートはゆっくりと顔を上げた。


「アーシェスには“道”を示せ。ガルディウスには“敵”を任せろ」


 獅子王の声が、低く、重く、室内に響く。


「――俺はここで、王として戦う。お前たちは前線で、“家族”を取り戻せ」


 その言葉を合図に、再び灯りがともった。


 次に動くのは――氷の知略と、炎の咆哮。


 そして、星光を抱く巫女と、それを守る若き剣と魔。


 夜の影が、すべてを支える。


 虚邪の闇へ向かう“次代の刃”は、すでに抜かれていた。



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