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モケジョの異世界聖女ライフ ~模型神の加護と星降りの巫女の力に目覚めた私~光の王子の距離感がバグっているんですが!  作者: Ciga-R


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第62話 沈黙を破る誓約――英雄たちは再び名を連ねる



 ――王でなければ。


 だが、王であっても。


 運命は再び、彼らを同じ場所へと、否応なく集めてしまったのだった。


 レオハートは、胸の奥から込み上げる熱を意志で押し留め、ゆっくりと息を吐いた。


「……どうやら、揃ってしまったらしいな」


 返答の代わりに、杖がもう一度、床を打つ。


 とん、と。


 その乾いた音ひとつで、部屋を満たしていた魔力の乱れが正される。


 蝋燭の炎は揺らぎを失い、空気に残っていたざらついた緊張が、嘘のように消え去った。


「無駄に気を張るでない。儂はもう、前線に立つ年ではないからの」


 紫雲をまとい、穏やかに佇む老人――大賢者オーヴェルス。


 その背に剣も盾もない。


 だが、彼が杖を握るだけで、場は自然と“戦場に耐えうる形”へと変わっていく。


 光魔術を理論として完成させ、結界・回復・浄化を同時に編み上げる存在。


 ルミナリア史において、その名を越える魔導士はいない。


 魔力そのものが、彼の呼吸に合わせて整っていく。


「……セレーネの香りが、虚邪に混じっておった」


 低く、噛みしめるような声。


「あれほど澄んだ光……儂が、間違えるはずもない」


 一瞬だけ、老人の瞳に影が落ちる。


 それは怒りではない。ましてや恐怖でもない。


 積み重ねた年月の末にしか宿らぬ、取り返しのつかなさを知る者の沈痛だった。


「亡骸が弄ばれているだけでも、胸が裂ける思いだというのに……」


 言葉が、わずかに詰まる。


「その血を引く娘までが、虚邪に囚われているとはな」


 ミレフィーオ。


 ルミナリア家に連なる聖女候補。次代へ光を繋ぐ存在。


 オーヴェルスは杖を握る手に、ほんのわずかだけ力を込めた。


「祖父としてであれば……怒りに任せてでも、あらゆる理を焼き払いたいところじゃ」


 だが、と。


「――儂は、長老であり、魔術師じゃ」


 その声は、再び静けさを取り戻す。


「感情に呑まれれば、虚邪の思う壺。ミレフィーオを救う道は、必ず理の先にある」


 それでも。


 老人の胸の奥に沈んだやるせなさだけは、完全には消えなかった。


「……光を継ぐ者ほど、闇に狙われる。なんとも、皮肉なものよ」


 それは嘆きではない。


 ただ、長く家を見守ってきた者だけが漏らせる、重い吐息だった。


 その沈黙を、低く荒い鼻息が破った。


 壁際に腕を組んでいたドルガンが、わずかに口の端を歪める。


「……相変わらずだな、大賢者殿」


 嘲るというより、確かめるような声音。


「前線に立てねぇくせに、こうして場の空気だけは、きっちり支配しやがる」


 言葉だけを聞けば挑発に近い。だがそこに、侮りはなかった。


 オーヴェルスは、杖に体重を預けたまま、ふっと喉を鳴らす。


「ほう。まだ儂を“守りに籠もった老いぼれ”と思うておるか」


 紫雲の奥で、老人の瞳が静かに光った。


「儂がいつまでも、結界と治癒だけで虚邪をやり過ごすとでも?」


 くく、と短い笑み。


「光魔法とは、本来“拒む”ための力ではない。“暴く”ための力じゃ」


 杖先に、かすかな輝きが灯る。


「穢れを照らし、隠された理を引きずり出し、逃げ道そのものを焼き払う。守りとは、攻めを成立させるための形にすぎぬ」


 ドルガンは一瞬だけ目を細め、やがて小さく肩をすくめた。


「……なるほどな。爺さん、まだ牙は抜けてねぇってわけか」


「褒め言葉として受け取っておこう」


 オーヴェルスは穏やかに応じた。


 その声は柔らかく、場を和ませるものだったはずなのに――次の瞬間、空間そのものが、わずかに“欠けた”。


 言葉にするなら、静寂が削り取られたような感覚。


 魔力でも、殺気でもない。


 ただ、「本来そこにあるはずの余白」が、忽然と消え失せた。


「……集まると思っていましたよ、レオ殿」


 声は、すぐ背後からだった。


 誰かが近づく気配は、なかった。


 床を踏む音も、空気の揺れも、事前の予兆すらない。


 気づいたときには、すでに“そこにいる”。


 灯りの届かぬ位置。


 視線を向けようとすると、意識がわずかに逸らされる。


 確かに人の形をしているのに、輪郭だけが曖昧で、現実から半歩ずれたような存在感。


 黒装束に身を包み、存在の境界線だけを残して立つ男――


 迅月衆頭領、リュウゲツ。


 足音はない。


 衣擦れもない。


 呼吸の微かな上下すら、感じ取れない。


 だが彼がその場に立った瞬間、この部屋に存在していたはずの“逃げ道”と“死角”が、同時に消え失せた。


 背後を取られているはずなのに、背後が存在しない。


 正面も、側面も、天井すら――


 どこから動こうとしても、すでに読まれているという確信だけが残る。


 ここから先、何かが起きれば――それは偶然でも、不測でもない。


 すでに、彼の掌の内で選び取られた結果だ。


 斥候。

 諜報。

 暗殺。


 そして撤退支援。


 迅月衆は、戦の裏側を専門とする集団。


 だが、リュウゲツはその中でも異質だった。


 かつて北境戦役で、敵将三名と補給拠点二箇所が、同じ夜に“消えた”ことがある。


 戦闘の痕跡はなく、警鐘も鳴らなかった。翌朝、敵軍は指揮系統を失い、戦わずして崩壊した。


 その夜、迅月衆が動いたことを知る者は、王都にも数えるほどしかいない。


 そして――その作戦を束ねていたのが、リュウゲツだった。


 戦が始まる前に、勝敗の“形”を決める者。夜と影を束ね、敵の未来そのものを刈り取る、裏の指揮官。


「虚邪の動き。禁忌の神殿跡。そして――セレーネ殿の痕跡」


 低い声が、感情を削ぎ落としたまま、事実だけを並べていく。


 そこに私情はない。


 あるのは、積み上げられた情報と、すでに選択された行動だけだ。


「どれ一つ取っても、迅月衆が関わらぬ理由はありません」


 それは志願ではない。


 許可を求める言葉でもない。


 報告であり、同時に――不可逆の宣言だった。


 ――すでに、動いている。


 レオハートは、ゆっくりと息を吐く。


 重く、深く、王として状況を受け止める呼吸。


「……そうか」


 短い返答。だがそこには、迷いも動揺もなかった。


 集まったのではない。


 呼び寄せたのでもない。


 必要とされた者たちが、それぞれの場所から、それぞれのやり方で――必然として“揃った”だけだ。


 そしてそれは、もはや引き返せぬ段階に入ったことを、静かに告げていた。


 アウロアが、ふっと小さく肩をすくめた。


 その仕草は軽やかで、どこか冗談めいているようにも見えたが――


 瞳の奥には、避けがたい運命を受け入れた者だけが宿す、静かな覚悟が滲んでいた。


「本当に……声をかけなくても、勝手に集まるのね。まるで、そうなると決まっていたみたいに」


 その言葉に、誰もすぐには応えなかった。


 リュウゲツは感情の起伏を一切見せぬまま、わずかに目を伏せる。



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