表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モケジョの異世界聖女ライフ ~模型神の加護と星降りの巫女の力に目覚めた私~光の王子の距離感がバグっているんですが!  作者: Ciga-R


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/141

第59話 星雫の聖女の灯を守るため、氷と炎、そして光は動き出す



 張りつめた空気の只中で、大聖女が静かに星杖を床へと下ろす。


 澄んだ音がひとつ響き、それは水面に落ちた雫のように、広間全体へと波紋を広げていった。


「……星々は、すでにその配置を示しておりました」


 声は柔らかく、しかし抗うことを許さぬ重みを帯びている。


 人の判断を超えた“理”が、そこにあると誰もが理解させられる響きだった。


「氷は道を描き、炎は前を拓く。静と動――その二つが揃ってこそ、闇へ至る径は崩れぬのです」


 言葉とともに、アーシェスとガルディウスの間を結ぶ見えない線が、ほんの一瞬だけ星光として浮かび上がった。


 それは指示でも命令でもなく、もとよりそこに在った関係性を、天がなぞったに過ぎないかのようだった。


「王の采配は、神託と矛盾しません」


 大聖女は穏やかに微笑む。


「これは“選択”ではなく……最初から定められていた“役割”。星は、ただそれを映しただけです」


 その言葉が落ちると同時に、広間に迷いの消えた空気が満ちた。


 誰もが理解したのだ。今ここで語られているのは、人が決めた作戦ではなく――世界の流れそのものなのだと。


 レオハートは小さく息を吐き、覚悟を定めた声で頷く。


「よし。ならば話は早い」


 王の声が、静かに、しかし確かに広間を支配する。


「ミレフィーオ奪還を最優先とする。虚邪の動きがあれば、即時対応――」


 その言葉の端で、柚葉はふと、胸の奥に灯る小さな星を感じていた。


 氷が道を示し、炎が進む。ならば、自分は――その道を照らす光。


(……みんな、本気だ)


 逃げ場は、もうない。


 だがそれは恐怖ではなく、信頼という名の重さだった。


 星杖の先で、淡い光が静かに揺れる。


 そして誰もが悟る。


 ――事態は、動き出しているのだと。


 大聖女は星杖を軽く地に突くと、三人の王子に柔らかくも鋭い眼差しを向けた。


「――では、それぞれの力をもって、ミレフィーオの行方を追いましょう」


 その声は柔らかく、それでいて逃げ場を許さぬ確かさを帯びていた。


「アーシェス殿下。あなたの聖獣イルヴァが残した痕跡は、星道せいどうにより追えます。氷の理で全体を読み、捜索の要となりなさい」


 アーシェスは一歩も動かず、静かに首肯する。


「レオハート陛下。王都および周辺領の結界強化と、不要な情報の遮断を。虚邪は混乱を好みます」


「承知している」


 王の声は短く、重い。


「そして――ガルディウス殿下」


 大聖女の視線が、最後に炎の王子へ向く。


「虚邪の濃い地帯へ踏み込む先遣を。力で道を切り拓く役目は、あなたに最も相応しい」


「任せな」


 ガルディウスは口元を歪め、楽しげに笑った。


 王の瞳には覚悟の炎が。


 アーシェスの胸には、言葉にしない焦燥と誓いが。


 ガルディウスの笑みには、戦場へ向かう獣の昂ぶりが。


 それぞれ、確かに灯っていた。


 やがて星光の陣が静かに消える。


 それぞれの役目が告げられ、広間に静かな緊張と覚悟が満ちていく。


 星光の陣が、ゆっくりと淡さを失い始めた、そのとき。


 大聖女は、ふと視線を巡らせ――最後に、柔らかな光を宿す王子へと向けた。


「……そして、ルシエル殿下」


 名を呼ばれ、彼はわずかに姿勢を正す。


「あなたは剣でも、策でもありません」


 一瞬、広間の空気がどよめく。


「されど――星雫の聖女が“折れぬ光”で在り続けるために、あなたの存在は欠かせない」


 大聖女の声は、静かで、慈しみに満ちていた。


「支えなさい。導こうとせず、背負おうとせず、ただ……隣に在る者として」


 ルシエルは、驚いたように一瞬目を瞬かせ、それから深く、確かに頷いた。


「はい。ボクは……ユズハの光を、曇らせません」


 誓いは大きな言葉ではなかった。


 だがその声音には、揺るがぬ決意が宿っていた。


 その余韻の中で――大聖女は、ゆっくりと歩み寄り、そっと柚葉の肩に手を置いた。


 触れた指先から伝わるのは、星光の温もりと、逃げ場を与えぬ確かな意思。


「ユズハ。あなたの“光”は、いずれこの捜索にも必要となるでしょう。ですが今は……その時に備え、力を整えておきなさい」


 その言葉に、柚葉は自然と背筋を伸ばした。


 聖女として名を刻まれた瞬間から、ただ守られる存在ではいられないことを、すでに理解していたから。


 だが、大聖女は続ける。


「ですが……あなたには“備える”だけではなく、今この国に必要な務めがあります」


 柚葉の瞳が、わずかに見開かれる。


 胸の奥で、星の光が小さく脈打った。


「かつて、あなたが初めて模型神の加護を呼び出した地――オークジェネラルが暴れ、虚邪に汚された村を覚えていますね」


 その名を聞いた瞬間、胸の奥が、きゅっと音を立てた気がした。


 炎に包まれた景色。恐怖に震える声。泣き叫ぶ子どもたち。


 そして――守りたいと願ったあの時、初めて光が応えてくれた瞬間。


「はい……忘れていません」


 小さく、だがはっきりとした返事だった。


「今もなお、あの周辺には虚邪の残滓が澱み、ここ近年の冷夏と不作が人々を苦しめています」


 大聖女の声は、過去を責めるものではない。


 ただ未来へ導く者の、それだった。


「ユズハ。あなたの“星降る巫女”としての再生の力――そして、聖女として世界を癒す力を、そこで試しなさい。虚邪の穢れを鎮め、大地と季節を、本来あるべき流れへと戻すのです」


 その言葉に、王族たちの視線が一斉に柚葉へ集まる。


 期待、試す眼差し、そして確かな信頼。


 一瞬だけ、迷いが胸をよぎった。


 だが柚葉は、深く息を吸い込み、そのすべてを胸の奥に受け止める。


「……わかりました」


 声は決して大きくない。


 けれど、そこに揺らぎはなかった。


「必ず、やります。ミレフィーオさんを助けるためにも……この国で、今も苦しんでいる人たちのためにも」


 大聖女は、その答えを聞いて満足そうに微笑んだ。


「ええ。それでこそ――星雫の聖女」


 その瞬間、柚葉の胸の奥で、三つの光が静かに共鳴する。


 互いを確かめ合うように、しかし確かな強さをもって。


(……始まるんだ)


 それは戦場ではない。剣を振るうことも、敵を打ち倒すこともない。


 それでも――確かにこれは戦いだ。


 虚邪に歪められた世界を、取り戻すための。


 星の光が、彼女の内でそっと瞬いた。


 それは、聖女ユズハ・スターリィティアが歩み出す、新たな(ともしび)だった。


 そのかすかな輝きに、すぐ傍でルシエルは気づいていた。


 誰よりも近くで、誰よりも慎重に――


 光に手を伸ばすのではなく、光が歩む道を整える者として。


 彼は声を張らない。


 ただ、柚葉の背後に立ち、静かに息を吸った。


(……決めた)


 星雫の聖女としての名も、三つの光を宿す奇跡も、そのすべてを背負わせるつもりはない。


(君が世界を照らすなら――ボクは、その影になろう)


 誰にも気づかれぬよう、けれど確かに誓うように、ルシエルは一歩、彼女の側へ近づいた。


 剣に手を置くこともなく、王子としての威光も示さず、ただ“支える者”として。


(怖い時は、ボクを見るといい。迷った時は、手を伸ばしていい)


 その決意は言葉にならない。


 けれど、柚葉の背中に寄り添うように、確かに在った。


 それは、聖女ユズハ・スターリィティアが孤独な光にならぬための――もうひとつの、やさしい光だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ