表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モケジョの異世界聖女ライフ ~模型神の加護と星降りの巫女の力に目覚めた私~光の王子の距離感がバグっているんですが!  作者: Ciga-R


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/141

第57話 星雫の聖女と、氷の王子、王たちの動かせぬ覚悟



 白い光が、音もなく静まっていく。


 その余韻が消えきるのを待つように、大聖女はそっと星杖を下ろした。


 床に触れた先端が、かすかに澄んだ音を立てる。


「……さて」


 柔らかく、しかし場を逃がさぬ声。


「ユズハが《星雫の聖女》として定められた今――同時に、もう一つの“急務”を明らかにせねばなりません」


 空気が、ぴんと張り詰めた。


 王族、重鎮、将たちの視線が、自然と彼女へ集まる。


「虚邪の穢れに囚われし者。土の大地母神グランテルメスに仕える、聖女候補――ミレフィーオ」


 その名が落とされた瞬間。


 レオハート王の眉が、深く、静かに寄った。


 しかし、その奥で輝く金の瞳は――怒りではなく、燃えるような覚悟を宿している。


「彼女は今、王国の正規の探索網では辿りつけぬ場所にあります」


 大聖女の声が、わずかに低く沈む。


「虚邪の穢れは、もはや自然発生の災厄ではありません。――誰かが“意味を与え”、彼女を“鍵”として扱っている」


 その一言で、空気が張りつめた。


「穢れの濃度、結界の歪み、聖女候補の選定……いずれも偶然ではなく、古き信仰を歪めた者たちの手順が見え隠れしています」


 星杖の先で、淡い光が不規則に揺らぐ。


「下手に大軍を動かせば、彼らは即座に気づくでしょう。穢れは身を隠し、舞台を変え、最悪の場合――」


 一拍、沈黙。


「聖女候補という“器”そのものが、目覚める前の“何か”の糧として、闇に呑まれる」


 それは敵の名を知らされぬまま、“明確な悪意と計画”の存在だけを突きつけられた瞬間だった。


 ざわめきが走る。


 レオハートは拳を、静かに、しかし強く握り締めた。


「……余が動けば、すべてが露見する、ということか」


「はい」


 大聖女は迷いなく頷く。


「王が動けば、世界が動いたと知れ渡る。それは虚邪にとっても、望まぬ刺激となります」


 わずかな沈黙。


「――ゆえに」


 星杖が、再び淡く輝いた。


「必要なのは、“王ではない者”。それでいて、王と同じだけの覚悟と力を持つ者たち」


 レオハートの瞳が、わずかに細まる。


 遠い記憶。


 剣と血と誓いを共にした、あの時代。


「かつて世界の裏側を歩き、名を捨て、役目を終えた者たち……」


 大聖女の声は、あくまで静かだった。


「彼らならば、虚邪は“過去の亡霊”と見なすでしょう。だからこそ――気づかぬ」


 星の残光が、ゆっくりと消えていく。


「ミレフィーオを取り戻す鍵は、王の玉座ではなく――かつて共に戦った“絆”の中にあります」


 レオハートは、深く息を吐いた。


 その表情は、王としてのそれではない。


 一人の男として、かつて剣を振るった冒険者の顔だった。


「……なるほどな」


 低く、噛み締めるような声。


「歯がゆいが……理にかなっている」


 拳を開き、ゆっくりと膝の上に置く。


(動けぬなら……動ける者に託すしか、ない)


 その胸の奥で、すでに“呼ぶべき者たちが、静かに蘇り始めていた。


「レオハート陛下……」


 大聖女は声を強めることなく、ただ深く、穏やかに名を呼んだ。


 その響きに、王は短く息を吐き、わずかに視線を逸らす。


「……わかっておる」


 低く、噛みしめるような声。


「わかっておるが……あの娘を、失うわけにはいかぬ。大地母神の加護は――今の世界にこそ、必要なのだ」


 それは王としての声明ではなかった。


 戦場を知る者が、力の均衡を肌で理解しているがゆえの、率直な本音。


 その隣で。


 第一王子アーシェスは、静かに目を伏せていた。


 整えられた金の髪は肩口で束ねられ、白の軍装に走る淡い青の刺繍が、動かぬ彼の姿を凛と縁取る。


 立ち姿は完璧だった。


 揺らぎのない背筋、無駄のない呼吸――王位継承者として非の打ちどころがない。


 だが、その閉じた双眸の奥には、氷を思わせる硬質な光が沈んでいる。


 ゆっくりと息を整え、彼は口を開いた。


「……イルヴァからの感応は、依然として途絶えたままです」


 低く抑えられた声は、感情を削ぎ落とした報告そのものだった。


 位置反応も、断片的な生命波動も返ってこない――応答なし。


 ただ事実だけを並べ、そこに評価も希望も混ぜない。その語り口は、王子として政務と戦略を預かる者の冷静さを如実に示している。


 彼の肩元には、淡い金色の紋様が静かに漂っていた。


 小型聖獣イルヴァと主を結ぶ“呼応紋”。本来ならば、主の意識に呼応して脈動し、微かな感情や位置の兆しを返すはずのものだ。しかし今は、凍りついた水面のように沈黙し、外界からの刺激を一切拒んでいるかのようだった。


 アーシェスは、その紋様を一瞥すると、ほんのわずかに目を細めた。


 声にも、表情にも、焦りは出さない。王族として、そして実務を担う王子として、感情を表に出すことは許されない――それは彼自身が最もよく理解している規律だった。


 だが、その内側では、確かな圧が静かに積み重なっていた。


 焦燥。怒り。


 そして、聖獣を失うかもしれないという、“王子”ではなく“聖獣に選ばれ、契約を背負う者”としての痛み。


 それらは氷壁の奥に封じ込められ、外へ漏れ出ることなく、ただ静かに温度を上げていく。


「……生きている限り、紋は消えない」


 誰に向けたとも知れぬ低い呟き。


 それは祈りでも、命令でもなかった。ただ、これまでの経験と理に基づく、冷徹なまでの事実確認だった。


「だから――必ず、生きて戻れ。イルヴァ」


 声は静かで、揺らぎがない。


 指先に、わずかに力が込められる。その感触は、剣の柄を握るときと同じ、無駄のない緊張だった。


 氷は、ひび割れない。


 だがその内側で、確かに炎が燃えている。


 ――必ず見つける。


 聖女候補も、聖獣も。


 そして、虚邪の奥に隠れた“答え”も。


 その沈黙こそが、氷の王子アーシェスの覚悟だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ