表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モケジョの異世界聖女ライフ ~模型神の加護と星降りの巫女の力に目覚めた私~光の王子の距離感がバグっているんですが!  作者: Ciga-R


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/141

第54話 秘された真名に触れる者、星が許した唯一の隣は光が静かに満ちていく

 

 

 大聖女は静かに杖を掲げた。


 星紋が応えるように光を放ち、銀砂のような粒子がゆっくりと空間を舞う。


「――ユズハ。星の聖女として歩む者には、その魂に刻まれる“真なる名”が必要です」


 その声は優しいのに、空気の奥で何かが深く震えた。


「真なる名とは、星があなたを識るための鍵であり……“闇”と対峙するとき、魂を守る護りでもあります」


 大聖女はユズハの前に歩み寄り、杖先をそっと額へ向ける。


 触れずに、光だけがそっと触れた。


「ユズハ。感じなさい。……この名は、あなたにだけ届くものです」


 次の瞬間――


 光の奥から直接、心へ声が落ちてきた。


(………)


 ユズハの瞳がかすかに揺れる。


 だがその“名”は、彼女以外の誰にも届いていなかった。


 ルシエルでさえ、光の揺らぎを感じただけで言葉は聞こえない。


 大聖女は静かに続けた。


「真なる名は、神獣アンバリーフとあなたの魂に刻まれたものと同じ“秘される名”。決して他者に明かしてはなりません」


 その声は穏やかだが、絶対の戒めだった。


「もし――よからぬものにその名が知られれば、魂の座を奪われる危険すらある。虚邪は“名を奪う者”。ゆえに、真なる名は秘匿されねばならないのです」


 ユズハは胸に手を当て、真名の余韻を抱きしめる。


 大聖女は杖先にもうひとつ光を灯す。


「しかし、公に示す名は必要です。それが――あなたの通称となります」


 星光が円を描き、ユズハの足元に降り立つ。


「あなたの通称は――《星雫のユズハ・スターリィティア》」


 その響きとともに、大聖堂の空気が静かに変わった。


 世界がユズハを“星導”として認めたかのようだった。


「真なる名はあなたの魂だけが知ればよい。通称は、世界があなたを識るための“表の名”」


 ユズハの胸の奥では三つの光が柔らかく脈動する。


 アンバリーフの息吹。

 星のきらめき。

 模型神の小さな律動。


 それらが、ひとつの運命として結びつき始めていた。


 大聖女の声は柔らかいのに、空気が震えた。


 世界の真理が、ほんの少しだけ顔をのぞかせるような感覚。


「星雫の聖女、そして星導――道を導く者。その名は、やがて“闇の源流”に触れたとき、必ず力となるでしょう」


 柚葉は静かに問いかける。


「闇の源流……虚邪、ですか……?」


 一拍の沈黙。


 危険な真実へ踏み込む前のためらい。


「虚邪とは、単なる怪異ではありません。世界の外縁に触れ、星に選ばれなかった“無名のものたち”。名を持たぬため、この世界に位置づけられず――ゆえに“奪う”のです。名前を。形を。意味を。そこにあるもの全てを穢し、呑み込むことで」


 その説明に、柚葉の胸にひやりとした冷気が落ちる。


 その手を、ルシエルがそっと取った。


「恐れなくていいよ、ユズハ。……ボクがいる。星も、神獣も、きみの光を支えてくれる」


 その声が触れた瞬間、胸の緊張がふっとほどけた。


 大聖女は、ふたりの絆を確かめるように頷き、祈りを捧げる。


「――星雫のユズハ・スターリィティア。その名は、あなたが虚邪の核心へ至る道を照らすでしょう」


 ユズハの胸に刻まれた真なる名の光が落ち着き始めた、その瞬間――。


 ふっ……と、空気が震えた。


 大聖堂の中心部に、金の粒子がひとつ、またひとつと生まれる。


 それは風に揺らぐ祈り火のように揺れ、ゆっくりと形を帯びていった。


 大聖女がそっと目を見張る。


「……これは。慈光院に留まっているはずの神獣が……」


 粒子が集まり――小さな獣の姿へと結ばれていく。


 アンバーリーフの“魂の光姿”だった。


 ユズハが息を呑む。


「リーフ……!」


 それは実体ではなく、遠く離れた本体が“魂の通路”を通して投影した光。


 淡い輪郭はゆらぎ、床に影は落とさない。


 けれど瞳だけは、いつもの琥珀のように深く、温かくユズハを見つめていた。


 魂のリーフは音もなく近づく。


 そして――ユズハとルシエルの胸元、真なる名が刻まれた“魂の中庭”へそっと鼻先を寄せた。


 触れていないのに、胸の奥を優しく抱かれたような温かさが走る。


 大聖女が静かに言う。


「真なる名によって結ばれた魂同士が強く反応しています。“魂の来訪”――神獣のみが行える、極めて希有な現象です」


 リーフの光がふわりと揺れ、こう告げるようだった。


『ちゃんと……三人を見守ってるよ』


 ユズハの瞳が潤む。


 その横で――ルシエルはしばらく言葉を失っていた。


 青い瞳に映るのは、ユズハと魂のリーフ。


 そして、自分の胸の奥にもわずかに灯る“同じ光”。


「……やっぱり。ボクも……ユズハの“真名の響き”に触れているんだね」


 ユズハが驚いて振り向く。


 ルシエルは静かに微笑む。


 その表情は優しいのに、どこか切なさがにじんでいた。


「聞き取れたわけじゃない。でも……“意味”が、魂の奥でかすかに震えた。あのときリーフがくれたもの……ユズハと同じ“魂の糸”を、ボクにも結んでくれたんだ」


 まるでそれを肯定するように、リーフはルシエルの胸元にも尾の光をふわりと触れさせた。


 大聖女が息を呑む。


「神獣が……二人の魂を対等に“結び合わせている”……? なんという……前例がありません……!」


 ルシエルは軽く肩を震わせ、こぼれる声で言う。


「……そんな顔で寄り添われたら……離れられないよ、君たち二人には」


 魂のリーフがそっと寄り添い――ユズハ、ルシエル、そして神獣の三つの光が重なり合う。


 その中央で、リーフの尾が星のように瞬いた。


 ユズハの手をルシエルがそっと握る。


「真名を言葉にできなくても……魂が触れられただけで十分だよ。ボクは、君の隣で“この糸”を守る力になる」


 リーフがそれに応えるように、柔らかい光を二人へ広げる。


 大聖女は目を閉じ、祈りを捧げた。


「――三つの光を分かち合う者たちよ。星を導く魂よ。どうか、深い闇を越えんことを……」


 魂のアンバーリーフは、その祈りを受け取るように一度だけユズハへ頬を寄せ――


 次にルシエルへも同じ仕草をやさしく触れさせた。


 その後、光の粒子となって静かに消えていく。


 慈光院へと帰る、“三つの魂を結ぶ光路”を残しながら。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ