表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モケジョの異世界聖女ライフ ~模型神の加護と星降りの巫女の力に目覚めた私~光の王子の距離感がバグっているんですが!  作者: Ciga-R


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/141

第51話 白月の聖域が揺れる時、誰より優しい指先に胸の奥がほどけていく


 そして――馬車が止まる。


 外の世界が息をひそめるように静まり、扉がゆっくりと開く。


 聖なる光が、溢れ落ちる水のように流れ込む。


 ルシエルは柚葉の手を離さない。


 むしろ、導くようにそっと指を絡め、微笑む。


「行こう。君の“始まり”の場所へ」


 その言葉は、光と同じ温度で胸に染みた。


 柚葉は小さくうなずき、馬車を降りる。


 ――そして。


 視界のすべてを奪われた。


 そこに広がるのは、圧倒的な白金の世界。


 大地から天へ吸い込まれるように伸びる巨大な大階段。


 ひとつひとつの段が淡く輝き、踏めば音ではなく“光の息”が返ってくるようだった。


 ふれる風すら、祝福の粒子を含んでいる。


 両脇にそびえる柱は古の聖句を刻み、柚葉が視線を向けるたび、文様が光を返して脈打つ。


――生きている。


 そんな錯覚すら抱くほど、大神殿全体が呼吸していた。 


「……すご……」


 

 溶けるような小さな声が、白金の空気に消えていく。


 隣で、ルシエルが微笑んだ。


 光を受けた金糸の髪が、星の欠片みたいに揺れる。


「うん。ここは――世界の“中心”だから」


 その声音には、聖域への敬意と……彼女をここへ連れてこられた喜びが混じっていた。


 光は彼の周囲に寄り添い、まるで彼自身がこの場に選ばれた存在であるかのようにまとわりつく。


「ユズハ、行こう」


 そっと伸ばされた手。


 それは儀式のための導きというより――彼だけの願いが宿る誘い。


「君を迎えるために……この大神殿はずっと息を潜めて待っていた」


 静かな声なのに、胸の奥を震わせるほど深かった。


 握られた手の温度が広がる。


 その温度に引かれるように、柚葉の足が自然と前へ出た。


 大階段の光が、二人の影を淡く重ねる。


 胸の奥がじんわりとふくらむ。


 怖さでも不安でもない――もっと静かで、あたたかいもの。


(……ここから始まるんだ)


 光の世界へ踏み出すその瞬間、柚葉は確かに、自分の未来が動き出したのを感じていた。


 大扉がゆっくりと開いた瞬間、清冽な光の空気が流れ込み、大聖堂全体がほんの少し呼吸したように揺れた。


 白の大理石が光を返し、荘厳な柱が影を落とす。


 静まり返った空気の中、数多の視線が一斉にユズハへ注がれた。


 名門貴族たち、大商会の代表、神殿騎士団――王国を支える者たちが整然と並び、その場には一点の曇りもない緊張が漂っていた。


 だが、その中心にルシエルが足を踏み入れた瞬間――


 空気が、確かに変わった。


 光をまとって立つ王子。


 澄み切った気品と、冬の空気のように凛烈な静けさ。


 彼が一歩前へ進んだだけで、列はわずかに波のように揺れ、その場の呼吸までが控えめなものへ変わる。


「殿下……! あのルシエル殿下が……?」


「お姿が……まるで光そのもの……」


 驚愕の声は例外なく抑えられていたが、その震えは隠しようもなく各所からにじみ出ていた。


 特に貴族令嬢たちは、揃って息を呑んだまま固まっている。


「な、何かの見間違いでは……? 殿下が……“誰かと並んで”歩いているなんて……」


「冗談よね……? 触れられるどころか、手を……握って……?」


 ざわめきが波紋のように広がり、震えが混じる。


 ――ルシエル・レガリア・ヴァルハイト。


 王子の中でも特に冷ややかな兄アーシェスを思わせる光の剣のような人。


 王家主催の舞踏会ですら令嬢に触れられることを嫌い、軽く手を取られそうになっただけで、流れるような笑みと優雅な距離で触れさせない――その徹底した姿勢で有名な人物。


 そんな彼が。


 いまはただ一人の少女の、小さな手を包むように握っている。


 その“ありえない”光景に、令嬢たちは互いに袖をつかむほど動揺し、思考が追いつかず、誰も声を大きくすることすらできなかった。


 それなのに今――


 彼はユズハの手を、まるで触れれば砕けてしまう宝石でも扱うかのように、そっと、けれど決して離す気のない確かな力で包んでいた。


「大丈夫。ボクが導く。……ユズハは、ただボクと歩けばいい」


 静かで、深くて、迷いのない声音だった。


 指先が軽く絡められる。


 その仕草に一片の気まぐれもない。


 そこにあるのは――揺るぎない意志と、守りたいという想い。


 あまりにも自然に手を取ったその瞬間、周囲の貴族たちは一斉に息を呑んだ。


「い、今の……見た……? 殿下が……殿下が“触れた”……!」


「うそ……あれほど令嬢の手すら避け続けてきた方が……?」


「異界の客人(まれびと)だからって……説明がつきませんわ……あれは……その……慈しむ……?」


「ちょ、ちょっと待って……あの子、髪が……黒よね? 黒って、神殿でも滅多に……」


「やだ……まさか“黒の加護”……? ありえるの……? 黒=星の聖女候補って、昔の文献に……」


「やめてやめて! そんな話をここでしないで! 心が……心が持たない……!」


「でも黒髪で、しかも殿下があんな風に……あれ、“選ばれた者”への接し方じゃ……?」


「無理、ほんとに無理……わたくし、今日帰ったら倒れる……」


 小声なのに必死な令嬢たちの動揺は収まらない。


 口元を押さえる者、目を潤ませる者、“星の聖女”という単語に青ざめる者、現実を受け止められず固まる者――反応は実に様々。


 だが、ひとつだけはっきりしている。


 彼女たちは皆、今ここで“とんでもない特別”を見てしまった。


 ――黒髪の少女と、ルシエル殿下。


 その並びが意味するものを、誰も軽視できなかった。


 だがルシエルは、そんなざわめきなど存在しないかのように、ユズハの掌に意識を向けていた。


 ユズハの緊張がわずかに強まる。


 その気配を感じた瞬間――彼は指を絡め直し、そっと親指で安心を落とすように触れる。


 たったそれだけの仕草なのに、胸のざわめきが不思議と静まっていく。


 ――まるで、魔法。


 ユズハは息をひそめた。


 周囲の驚愕も、重苦しい視線も、言葉にならない憶測さえも。


 彼の手に触れているだけで、遠い世界のものに思えた。


 ルシエルは一歩前へ進み、ユズハを自然に庇うようにして視線を上げる。


 その瞬間――大聖堂の空気が、研ぎ澄まされた透明な刃のように張り詰めた。


 貴族も騎士も令嬢も、誰もが悟る。


 ――ルシエル殿下にとって、この少女は“ただの客人”ではない。


 その事実が、光のように会場を駆け抜けていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ