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モケジョの異世界聖女ライフ ~模型神の加護と星降りの巫女の力に目覚めた私~光の王子の距離感がバグっているんですが!  作者: Ciga-R


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第49話 光の亡骸を追う影、第一王子アーシェスの静かな誓い



 夜の聖都は静かだった。


 宮殿の塔から眺める景色は、昔と変わらない。


 白い石畳、揺れる灯火、遠くに浮かぶ神殿の銀光。


 だが――その景色を“美しい”と思えなくなったのは、十年前からだった。


(あの日を境に、世界は色を失った)


 アーシェスは闇に立ち尽くしていた。


 月光が窓辺を照らし、金の双眸がかすかに揺れる。


 誰もいないはずの自室でも、その表情は変わらない。


 変えることを自分に許していない。


 胸の奥に沈んだ名前が浮かぶ。


 ――セレーネ。


 生まれて初めて“愛情”を教えてくれた人。


 彼女へ向けた言葉はどれも幼く、粗末で、今では後悔ばかりが胸を刺した。


(なぜ……守れなかった)


 何度忘れようとしても、灰のように降り積もる問い。


 幼い自分は言われるがまま奥へ引き下がった。


 逃げる必要などなかった。走って戻れば――と何度も思い、千度悔やんだ。


(あの時、俺はまだ子供だった)


 それが分かるからこそ、いまでも苦しい。


 母の亡骸が奪われたと知ったとき、膝が震えるほどだった。


 それでも、表情は変えない。変えてはならない。


 王位を継ぐ者だから。


 すべての痛みは、内側に押し込めると決めた。


 だが今日――大聖女リディアーヌの言葉が、胸にひびを走らせた。


『黒髪の少女――ユズハ。彼女の加護は、セレーネ様の“失われた光”と共鳴していました』


 心臓がはねた。


 希望か、怒りか、恐怖か――判然としない。


 だが確かに胸が揺さぶられた。


(……似ていた。あの少女の光は)


 黒は夜。闇を象徴する色。


 だが、その瞳に揺れていた透明な兆しは、セレーネが撫でた光に似ていた。


(偶然ではない)


 闇に奪われた光が、新たな形で現れた。


 巡り合わせなどという言葉で片付けられるものではない。


(見極めるしかない)


 アーシェスは窓辺から離れ、大理石の壁に手をおいた。


 冷たい石が掌の熱をうばう。


(もし彼女が光への道を開く存在なら――利用することもいとわない)


 残酷だが正しい判断。


 そして。


(もし“魔”が仕掛けた罠なら――俺が断つ)


 決意は刃のように鋭い。


 その一方で――


(……母上の残した“何か”を抱えているのなら)


 その先を思った瞬間、胸が軋む。


 アーシェスは深く息を吐いた。


(希望など信じない)


 しかし。


(それでも――あの光は、捨てがたい)


 月光が肩に落ちる。


 閉ざした心の奥で十年ぶりの“光の気配”がかすかに灯った。


 謁見の時。


 黒髪の少女が光に包まれた瞬間、アーシェスはただ観察していた――そのつもりだった。


 光が零れ落ちるように黒髪が揺れ、白い肌を淡い輝きが照らした。


 刹那、心臓がはねた。


(似ている……違う。だが――懐かしい)


 あの少女は怯えていた。


 だが、目を逸らさず真正面から光を見据えていた。


 ただ従順なだけの娘ではない。


 そう気づいた瞬間、胸に奇妙な違和感が走る。


(……だから俺は、目を離せなかったのか)


 自覚した瞬間、息がわずかに引きつる。


 十年ふさいでいた心の扉が、音もなく軋んだ。


(危険だ。感情を差し挟むな)


 そう言い聞かせても、一度芽生えた“揺らぎ”は消えなかった。


(ユズハ......その名を俺は、“個”として覚えてしまった)


 それは、最も避けたはずの感情だった。


   

 謁見後、柚葉はルシエルの後を歩いていた。


 緊張と疲労のせいか、足取りはぎこちない。


(背中が……なんか熱い)


 振り返りたい衝動に駆られる。


 分かっている。皆が見守るまえで無作法はだめだ。


 なのに。


(視線に温度がある……)


 冷たい、はずだった。


 それなのに、刺すような熱が混じっていた。


 そんな気がして胸がざわつく。


(考えすぎ……あんな氷像みたいな王子が、私に興味なんて――)


 否定すればするほど、鼓動だけが熱を持った。


   

 ルシエルもまた、異変に気づいていた。


(ユズハは不安定だ……だが)


 違和感は彼女よりも“後ろ”にあった。


 振り返ると、アーシェスがじっとこちらを見ていた。


 冷静で、鋭く、研ぎ澄まされた視線。


 しかし、一瞬だけ揺らぎが混じった。


(……なぜ、ユズハを見る)


 胸の奥に、形にならない痛みが走る。


 焦りとも不安ともつかない。


(ボクは……何に苛立っている?)


 だが兄、アーシェスの眼差しが彼女に向くたび、胸に針が刺さるような感覚が残った。


 理解できない。

 理解したくない。

  

 アーシェスは“観察”の仮面で柚葉を見つめ、柚葉は言葉にならない熱に戸惑い、ルシエルは気づきたくない焦燥に胸を締めつけられる。


 誰も言葉にはしない。


 だが三人の間には確かに静かな波紋が広がり始めていた。


 その小さな揺らぎこそ、後に王国全体を呑み込む渦の始まりだった。



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