第47話 癒せずに泣いたら神獣進化と王子と魂のリンク始まりました
気づけば二人と一匹は自然と寄り合い、抱き合う形になっていた。
「……怖くないよ、大丈夫だよ……」
柚葉の声に呼応するように、三つの紋様が同時に強く輝きを放った。
虚邪がまるで断末魔の音を残して弾け飛んだ。
空間そのものが震え、子どもたちが悲鳴を上げて尻もちをつく。
柚葉とルシエルの腕の中で――子キツネの身体が白い光に包まれ、輪郭がほどけていく。
黒い影が完全に吹き飛ばされる。
代わりに、純白の尾がふわりと揺れ、金の紋様が尾先を飾った。
「……神獣……!」
ルシエルの声が震えるほどの、清浄な輝きだった。
目を開いた子キツネ――いや、神獣となった小さな存在は、ゆっくりと柚葉の指先を舐めた。
その仕草は、守り手への感謝そのもの。
そして柚葉の胸に、ルシエルの胸に、神の加護が置き土産のように染み込んでいく。
光が収まる。
柚葉は、まだ子キツネを抱いたまま、安堵の涙をこぼしていた。
「よかった……ほんとうに……よかったぁ……!」
気づけば――その涙を拭おうとしていたルシエルの胸に、柚葉が思いっきり抱きついていた。
完全に無自覚で。
柔らかくて、温かくて、必死で、ぎゅうっと。
ルシエルの脳内で何かが弾けた。
(近い……! 近い近い近い……!!!)
顔が爆発しそうなほど真っ赤になる。
「る、ルシエル……? どうしたの……?」
「ど、どうもしてないっ……ッ!! いやしてる、してるけど!! いや違う、違わないけど!?!?!?」
普段の冷静沈着なルシエルからは、考えられないほどの慌てぶりで崩れ落ちる。
柚葉も、やっと抱きついていたことに気づいた瞬間、真っ赤になってその場で固まる。
「えっっっ……ちょ……ちが……えっ……!?!?」
二人して、同時に尊死。
後ろで子どもたちがぽかん、としている。
そして。
神獣となった子キツネだけが、ちょこんと柚葉の膝に座りながら尻尾をゆらし、「きゅん」と誇らしげに鳴いた。
まるで――“ぼく、柚葉を守るお役目になったよ”と告げるように。
神獣となった子キツネは、柚葉の膝の上からそっと降りると、森の奥――夕ぐれの陽光が輪のように差し込む小さな空間へ向かった。
風が止まる。
色彩が静まり返り、鳥さえ息を潜める。
「……始まる……」
ルシエルが澄んだ声で呟いた。
柚葉は、胸の奥がふわりと熱くなるのを感じながら、子キツネの背を見つめる。
小さな神獣は、こちらを一度だけ振り返り、柚葉と目を合わせたまま、そっと首を垂れた。
まるで、「見ていて」と告げるように。
子キツネの体から金砂のような光が舞い上がる。
ひとつ、ふたつ、数を増す粒子たちが、夜空の星々みたいに渦を描き、音もなく“環”となりキツネを囲んだ。
「これ……模型神様の環……?」
柚葉が息を呑む。
ルシエルがそっと説明する。
「神獣が真名を得る時だけ現れる光だよ。……この子はまだ幼いのに、こんなに澄んだ光を……」
まるで祝福そのもののような黄金。
その輝きに、森の草木までもがわずかに背を伸ばして応えた。
光の環が落ち着いた瞬間――
子キツネの二尾ある内の一尾が、すうっと伸びた。
その先端から、淡い琥珀色の光が溢れ、まるで分裂するように“尾がもう一本”生み出される。
「……っ!」
柚葉が思わず手を口元に当てる。
尾は二本に。
次の瞬間、一瞬だけ“影”のような尾が後ろに揺れた。
三本……四本……影は九つまで広がり、ゆらりと揺れて、すぐに元の二本尾へおさまる。
「ほんの一瞬……九尾の相が……」
ルシエルが震える声で言う。
「本気を出した時、この子は九尾に至る。それは、ただの神獣じゃない。きっと“地を護る大御神”へと成長する」
柚葉はその言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
尾の先が小さく光って――森に、静かで温かい風が吹いた。
黄金の粒子がまとまって、柚葉の胸の奥へそっと吸い込まれた瞬間――意味としての “名前” が静かに流れ込んできた。
言葉ではない。
けれど確かに“名”だと分かる。
柚葉は思わず口にした。
「……アンバーリーフ……?」
その一言で、子キツネがぱあっと光に弾けるように跳ね上がり、尻尾をぶんぶん揺らして喜びを爆発させる。
「きゅ、きゅいぃん!!」
琥珀色の瞳がきらきらと潤み、柚葉の指先へ小さな鼻先をすり寄せた。
ルシエルが柔らかく微笑む。
「……良い名だね。この子の色にも、気質にも、ぴったりだよ」
森の光が、祝福するように揺れた。
儀が終わる直前、アンバーリーフの額から小さな光球が生まれ、柚葉の胸へ――そしてもうひとつはルシエルの胸へ吸い込まれた。
「え? ぼ、ボクにも……?」
「ルシエル……あなたも……?」
困惑する二人の胸の奥に、同じ温かな“きずな”が灯る。
そこへ、アンバーリーフが二人の足もとに、とてとて歩いてきて、ちんまりと座った。




