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モケジョの異世界聖女ライフ ~模型神の加護と星降りの巫女の力に目覚めた私~光の王子の距離感がバグっているんですが!  作者: Ciga-R


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第46話 星降る巫女の光すら拒む闇、王子との共鳴は奇跡の始まり


 

 陽が沈みかけ、そろそろおいとまする時間となった。


 子どもたちは名残惜しそうに片付けを手伝い、柚葉は微笑みながらその様子を見守っていた。


 こんな穏やかな時間が、ずっと続けばいいのに――そう思った矢先だった。


 そのとき。


「お、おねえ……ちゃ……っ! た、助けてぇっ!!」


 ひしゃげたような、泣き叫ぶ声。


 胸を締めつける悲鳴とともに、扉が弾ける勢いで開いた。


 振り返った瞬間、柚葉の息が止まる。


 子どもたちが蒼白な顔で駆け込み、その腕には――


 小さな体を血に染め、ぐったりとした子キツネが抱かれていた。


「な、なんで……!? どうしたのっ!」


 駆け寄りながら、心臓が跳ねる。


 手足の先が冷たくなっていく。


 間に合わなかったらどうしようという焦りが、頭の片隅で冷たい声に変わり始める。


 子どもたちは涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしながら、必死に言葉をつなぐ。


「ご、ごめんなさい……っ!」

「もり……入っちゃダメって……言われてたのに……!」

「姫さまに……めずらしい花……あげたかったの……!」

「そしたら……この子が……たおれてて……血が……いっぱいで……っ!」


 声が震え、途切れ、嗚咽が押し出される。


 小さな肩が震え、握る手は痛いほど力がこもっていた。


 柚葉の胸に、痛みが走る。


(どうして……こんな小さな子たちが、こんな顔しなきゃいけないの……? 怪我をしたこの子を助けられずに、泣きながら戻ってきて……こんなの、つらすぎるよ……)


 腕の中の子キツネは呼吸が浅く、今にも途切れそうだった。


 冷えきった体が、子どもたちの抱く腕の中で小さく震えている。


 琥珀色だった毛並みは血に濡れ、見るだけで胸がきゅっと痛んだ。


(こんなの……放っておけるわけない……!)


「……大丈夫。もう大丈夫だから……!」


 自分が震えているのがわかる。


 でも、子どもたちがしがみつくその必死さが、背中を押した。


「助けて、お姫さま……! お願い……っ!」


 その言葉に、胸がちくりと痛む。


 ――お姫様じゃないよ。


 いつもなら微笑んで否定するのに、今は言えなかった。


(こんな顔で頼まれて……断れるはずないよ……頼ってくれてる。信じてくれてる。なら、応えなきゃ……応えたい……!)


 ここで救わなければ、後悔は一生消えない。


 胸の奥で、そんな確信がゆっくりと根を張る。


 柚葉は深く息を吸い込み、そっと黒い髪を揺らしながら、覚悟の光をその瞳に宿した。


「……うん。任せて。絶対に助ける!」


 静謐な森の空気が息吹きをおくり、“星降る巫女の黒の加護”が、柚葉の指先へ、かすかな光として集まり始めていた。


 柚葉の指先に集まる光――それは淡く、黒い蝶の翅のように揺らめきながら、静かに温度を帯びていく。


「……お願い。生きて……」


 震える声で紡がれた祈りに呼応するように、柚葉の黒髪から一羽、また一羽と黒い蝶が舞い上がった。


 蝶たちは光の粒を散らしながら子キツネへ降りそそぎ、まるで夜の星が小さな命へ寄り添うかのように、そっと触れていく。


 子どもたちは息を呑み、泣きはらした目を見開いた。


「……すごい……」

「姫さま、ほんとに……星の巫女さまみたい……」


 蝶たちが触れた傷口からは、じんわりと血の色が薄れ、裂けた毛皮が縫われるように閉じていく。


 弱々しかった呼吸が、少しずつ、少しずつ――確かな温もりを取り戻した。


「う……きゅ……」


 小さな鳴き声が漏れた瞬間、子どもたちが同時に涙をはじけさせた。


「生きてる……!」

「ほんとに……助かったんだ!」

「姫さま……ありがとう……!!」


 抱えていた腕が震え、子キツネはまだ弱いながらも、子どもの手に額をすり寄せた。


 蝶たちは役目を終えると、そっと空に溶けるように消えていき、かすかな星の軌跡だけを残して消えていった。


 柚葉は、胸に手を当てながら微笑む。


「よかった……ほんとうに、よかった……!」


 その安堵の横顔を、ルシエルは静かに、けれど深い愛情を隠しきれずに見つめていた。


 彼の瞳に映っているのは――傷ついた小さな命を救った彼女の、揺るぎない優しさ。


 そして、彼の胸の奥にはひとつの確信が生まれていた。


(……やっぱり君は、光だよ。誰よりも、美しい輝きの……人々を照らす光)


 子キツネの体がふるりと震えた。


 治ったはずの毛皮の下で――黒い、ねっとりとした影がうごめき始める。


「……え……?」


 柚葉が息を呑む。


 蝶の癒しが届いたはずの場所が、じわじわと禍々しい闇に染まっていく。


 ルシエルが顔を険しくした。


「これは……あのオークジェネラルの時より悪化している……虚邪の穢れと呼ばれる、すべての生き物の“根”を喰う呪い……王国のここ最近の気象悪化の根元とされているものだ」


 子キツネが細く痛々しい泣き声を漏らすたび、影が脈打って体を食い破ろうとする。


「でも……黒の加護なら……!」


 柚葉は震える手をもう一度子キツネへ伸ばす――


 だが。


 ふれても、黒蝶の光は生まれなかった。


 まるで拒まれているみたいに。


「いや……嫌だよ……たすけたいのに……!」


 眉を歪める柚葉の視界が揺らいだその瞬間。


 柚葉の胸の奥で、何かが「コツ」っと鳴った。


 皮膚に、薄い紋様がふわりと浮かび上がる。


 淡い金と黒の幾何学――まるで小さな設計図のような連なり。


「ゆ、柚葉……その紋様……!」


 ルシエルの声が震える。


 子キツネの背にも同じ紋が浮かび、さらにルシエルの胸元にも薄い紋様が呼応するように光を放つ。


 神紋――模型神の意志が、三者をつなぐ。


 文字ではない。


 言葉でもない。


 “直感”として想いが流れ込んでくる。


 ――つながれ。

 ――抱き、形に還せ。

 ――三位の環が命を再構築する。


 柚葉は気づけば、子キツネを抱き寄せて、腕の中へ、そこにルシエルがそっと手を添える。


 気づけば二人と一匹は自然と寄り合い、抱き合う形になっていた。




お読みくださり、ありがとうございます。

何かリアクションを頂けると元気がわきます!

土、日は複数回更新しますので、よければ、

また続きを読みに来てくださいね。


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