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モケジョの異世界聖女ライフ ~模型神の加護と星降りの巫女の力に目覚めた私~光の王子の距離感がバグっているんですが!  作者: Ciga-R


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第42話 黒い蝶の癒しが発現した瞬間、王子の“守りたい衝動”がさらに強まった件


 その日の午前。


 柚葉は子供たちと本気で遊び倒し、気づけば太陽はまもなく天頂。


 慈光院の中庭は、戦場――いや、もはやテーマパークと化していた。


 砂場の城は、柚葉監修によりミニチュア都市へ進化し、滑り台は長蛇の列、ブランコは順番待ち。


 子供たちの笑いが朝の光を震わせ、花壇の蝶がその輪を舞う。


 柚葉は肩で息をしながら、両手を膝についてふにゃりと笑う。


「はぁ……はぁ……み、みんな元気だね……!」


「ユズねえちゃんの方が元気だったけどな!」

「姫さま、がんばったー!」

「わたしもう一回滑りたい!」


 きゃっきゃと跳ねる声。


 その明るさが、慈光院の空気をほんの少しだけ“光の聖域”のようにする。


 そんな中、柚葉はぽん、と手を叩いた。


「そうだ! せっかくだから――みんなでお昼ごはん作ろうよ!」


「「「えっ……」」」


 子供たちの空気が、しゅん……と萎む。


 さっきまで太陽みたいに輝いていた目が、まるで曇り空。


「え……? もしかして、嫌……?」


 困惑する柚葉の隣で、ルシエルが静かに答えた。


 その声は、慈光院の空気を壊さぬように丁寧に選ばれている。


「……ここ数年、王国は冷害に見舞われているんだ。上層貴族は蓄えでなんとかなるが……」


 言いかけた彼の言葉を、子供の小さな声が引き継ぐ。


「野菜も麦も育たないの。だから、材料は……そんなにないよ?」


 胸がぎゅうっと締め付けられた。


(そ……っか……)


 思い返す。


 自分は最近、離宮で“異世界すぎる豪華ディナー”を満喫していた。


「おお……珍しいお肉がいっぱい!」

「スイーツの並びがファンタジー!!」


 なんてはしゃいでいた自分が――急にすごく、恥ずかしく思えた。


 けれどルシエルは優しく続ける。


「慈光院はボクが支援しているから、他よりは食材がある方だよ……でも、決して贅沢はできない。だから、子供たちは慣れてしまったんだ」


 その声の奥に、“理想では救いきれない領域”を知る者の静かな痛みがあった。


 柚葉は深く息を吸った。


「うん……! ある材料で一番おいしいの作ろう! こういうのこそ腕の見せどころだからっ!」


 その言葉は、魔法のように場を明るくした。


「じゃあ、おいもむく!」

「ぼくはにんじん!」

「わたし玉ねぎ!」


 一斉に駆け出す子供たち。


 その背中を追いながら――柚葉は胸の奥で静かに決意する。


(……何かひとつでも、この子たちに“満たされる時間”をあげたい)


 ――しかし。


「……包丁……大き……っ!」


 柚葉はぴしっと固まった。


 大人の腕ほどある巨大包丁を、小さな手がぷるぷる震えながら握っている。


 そして――切れない。


「こ、これ……刃が鈍すぎる……ッ!」


 ブレンナが鼻を鳴らす。


「この辺じゃ普通だぜ。鋼も高くてな。研ぎに出す金なんざねぇ」


「でも使えないほど鈍いよね!? えっ、これ、食材よりみんなの指のほうが危ないってば……!」


 柚葉が慌てて駆け寄った、その瞬間だった。


 皮をむこうとしていた小さな手が、ぐらりと包丁を滑らせ――


「っ、いた……!」


 か細い声。


 子供の指先が、赤く滲んだ。


「あっ!!」


 反射より早く、柚葉はその子の手を包み込むように抱えた。


「ちょっ、動かないで……!」


 短く息を吸った次の瞬間――


 柚葉の黒髪の間から、ふわりと黒い蝶が一羽、零れ落ちるように顕れた。


 室内の光を受け、蝶の翅は星銀の微光をぱら、ぱら……と散らしながら舞う。


 まるで“夜空の破片”が命を持って羽ばたいているような、美しい光景だった。


「……わぁ……」


 子供が痛みも忘れて、ぽかんと見上げる。


 黒い蝶は子供の指先へ寄り添うように降り立ち、その星銀の光を、そっと怪我した指へ沈ませる。


 光は水面の波紋のようにひろがり、傷口が柔らかく閉じてゆく。


 痛みは一瞬のうちに消え、指は元どおり。


「す、すごい……!」

「おねえちゃんの蝶、きれい……!」


 子供の目が、驚きと憧れで輝く。


 柚葉自身も、胸がじんわり温かくなる。


「よかった……もう痛くない?」


「うんっ!」


 ぱぁっと笑顔が咲いた途端――黒い蝶はふわりと空を一巡りし、柚葉の黒髪にとけ込むようにして消えた。


 跡には、星銀の余韻のような微かな光粒だけが、静かに舞い落ちていた。


 黒い蝶が柚葉の髪にとけ込むように消えていった、その直後だった。


 ほんの一瞬の静寂。


 そして――


「あ、あれは……」

「黒い……蝶……?」

「光の加護ではなく……まさか、癒し……?」


 厨房の奥で野菜を刻んでいたシスターたちが、手を止めてこちらを振り返っていた。


 喧噪にまぎれて気づかなかったのか、皆が驚いたように息を呑む。


 年配のシスターが胸元の簡素な聖紋石のペンダントを握りしめながら、震える声でつぶやく。


「……十数年前、先代の“大聖女”さまがここに光の蝶を降ろされた時と……よく似ております……。けれど、黒い蝶など……初めて……」


 別の若いシスターが、涙ぐんだように微笑んだ。


「でも……あんなふうに、優しく傷を癒すなんて……まるで奇跡そのものです……」


 こそこそと囁きが広がる。


「新しい加護……?」

「光ではなく……闇でもない……?」

「子供の傷が、一瞬で……」


 ざわ……ざわ……。


 しかしその空気は、不安ではなく――敬意と、静かな感激が満ちる温かなざわめきだった。


 治ったばかりの子供が誇らしげに胸を張る。


「ゆずねえちゃん、蝶の魔法すごかった!」


「えっ……いや魔法っていうか……その……!」


 柚葉は頬を真っ赤にしながら両手をぶんぶん振る。


 ルシエルはそんな彼女を見つめ、穏やかに息を漏らした。


「……慈光院で“癒しの奇跡”を見られる日がまた来るなんて。母上が知ったら……喜ぶだろうな」


 言葉には、静かな敬愛と、未来への願いが滲んでいた。



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