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模型女子の異世界聖女ライフ ~推し活するつもりが、気づけば私が推されてたんですが!?  作者: Ciga-R


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第25話 異世界の食文化レベル、想定外にハイすぎて柚葉の野望が爆散した件


 離宮のダイニングに足を踏み入れると、天井は満天の星のように光り、テーブルは豪華に飾り付けられていた。


 静かに控える侍従たちの気配はあるが、二人だけの空間を乱さない配慮がそこかしらに施されていた。


「ここが僕の離宮だよ……君と一緒に食事ができるだけで、十分幸せだ」


 ルシエルは柚葉を優しくエスコートし、椅子に座らせる。


 月明かりを模した照明が柔らかく差し込み、柚葉の頬や唇を淡く照らす。


 ルシエルは、一瞬まばたきすら忘れた。


「……綺麗だ」


「へっ!?」


「いや、“綺麗だ”じゃ足りない……」


 彼は吸い寄せられるように半歩、距離を詰める。


「まるで……星の精霊かなにかかと思った」


「えっ、えええ!? ほ、褒めすぎ……!!」


「褒め足りないよ。だって、見た瞬間に息が止まった」


「止まっ……!? やめて、死なないで!!」


 柚葉の必死なツッコミに、ルシエルは小さく笑った。その目元はどこか照れたようで、でも限りなく優しい。


 そこで彼は、ようやく気づいたように言った。


「これ……ニャルディアの手によるものだね。彼女が君に化粧も髪も……全部したのかな?」


「う、うん……すっごく丁寧に、頑張ってくれて……」


「分かるよ。ユズハがこんなに綺麗だから、彼女張り切ったんだね」


(ちょ……!!"綺麗だから"を、当然みたいに言わないで!? 心臓が……こっちの寿命が……!!)


 柚葉の耳が真っ赤になるのを見ても、ルシエルは気づかないふりをして優しく微笑む。


 その自然体の王子らしさが、さらに心臓に悪い。


 ルシエルは椅子を引き、柚葉が座りやすいよう手を添えた。


「緊張しなくていいよ。ここは僕の離宮だし……君と食事ができるだけで、僕は満足だから」


「そ、そんな……」


 静かに、穏やかに距離を近づけてくる。けれど圧はなく、ただ心地よい。


 彼は同じテーブルの向こう側に座ると、少しだけ身を傾けて微笑んだ。


「さ、食べよう。ユズハが緊張してるなら……ゆっくりでいいよ?」


 その声色が、優しい灯りのようで。


「ユズハ......正直に言うよ。今夜、食事が喉を通らない気がしている。君が綺麗すぎて......もう満たされてしまったみたいだ」


(ああもう……なんなのこの王子ムーブ……! 落ちない方が、無理すぎるでしょ……!!)



 お品書き一品目:スープから始まる異世界食の衝撃(日本食無双計画――開始、秒で爆散)


 ルシエルの合図で、侍従が静かに皿を置く。


 湯気は薄く、香りは……なんとも高貴。


 金色のスープ。表面には細かな光がきらきらと揺れている。


「こ、これ……光ってない!? 食べ物って光るの!?」


「うん。月草のエキスが入ってるからね」


 ルシエルが微笑む。


「疲労回復と美肌にいい。ユズハに合うと思って」


(ちょ……美肌ってさらっと言わないで……! なに、今日のルシエル……好感度の攻撃力、高すぎ……!っていつも......だけど)


 おそるおそるスープを口に含むと――


「…………えっ、なにこれ」


 味が深い。めちゃくちゃ深い。コクがあるのに重くなくて、優しいのに複雑で……デパ地下の高級スープ専門店が泣いて土下座するレベル。


「どう、かな?」


「おいしすぎる……! え、なに、どこの……どこの企業コラボ……!?」


 ルシエルが笑う。


「ユズハはこちらには無い単語をよく使うね。だけど最近ニュアンスでなんとなく判るようになったよ。それは王国の宮廷料理。でも本場はルーンディナス帝国だよ。あっちは“食の化け物”が多いからね」


「化け物!?」


「“スイーツ貴族”と呼ばれる一族がいたり、一度食べたら二度と忘れられない極上スイーツを作るパティシエや商会がいくつもある。王国も負けてはいないけど、ね」


(ス、スイーツ貴族!? なにその天国すぎるワード!! ちょっと待って……これは……)


 柚葉に電流が走る。脳内で異世界”食”無双計画の崩壊音が聞こえた瞬間――


(む、無理ぃぃぃぃ!! 食もスイーツも化粧品も電化製品関係も水洗も全部ある!! しかも上位互換で!! この世界、完成度高すぎ!!)


 手に持っていたスプーンが、カチャンと小さく震えながら皿に触れた。


「ユ、ユズハ? 大丈夫?」


「だ、大丈夫……じゃない……心が……折れた……!」


 柚葉は慌てて背筋を伸ばしつつも、肩をぷるぷる震わせながら小声で嘆くという“晩餐会マナーぎりぎりセーフ”の混乱モーションで訴える。


(なにこれ!  無双どころか開始、秒で再起不能!! 異世界商売、夢も希望もない!!)


 侍従たちは目をそらして、


「……今の音だけで何か察した」みたいな空気を作り、ルシエルだけが柔らかく微笑んだ。


「ユズハ、落ち込まなくていいよ」


 彼はそっと柚葉の手元のナプキンを整え、目線を合わせて安心させるように語りかける。


 侍従たちがびくっと震える。


 ルシエルだけが静かに笑っている。


「この世界に“ユズハが持ってきた視点”は、僕たちにはないものなんだ。だから、君が無双しなくても……」


 優しく視線を合わせる。


「ここで君が笑ってくれるだけで、僕には十分だよ」


「っ……!」


 柚葉の心臓が跳ねた。


 その声が、柔らかくて、あたたかくて、なんかもう“素で甘い”のだ。


「無理に何かを作ろうとしなくていい。君が興味を持ったものを、僕が全部案内するからね」


「ル、ルシエル……」


 同じテーブルなのに、距離が近く感じる。いや、実際、ちょっと近い。


 彼はほんのり照れたように笑う。


「それに……僕としては、ユズハと一緒に食べるだけで幸せなんだ」


(だめだ……この王子……いちいち心臓に良くない……!! 甘々さの破壊力が限界突破してる!!)



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