第24話 猫耳メイドの甘々お世話タイム 、恋バナしてたら少女力が爆増したんですがっ!?
湯上がりの柚葉は、薄手のふわふわローブに包まれて、鏡の前の椅子へ腰かけていた。
温まった肌がほんのり桜色で、自分でも少し恥ずかしい。
背後では──
「動かないでにゃ〜。今、髪を乾かしてるところにゃ〜」
ニャルディアが尻尾をゆらりと揺らしながら、魔晶石の“温風ドライヤー”を手にしている。
青白い魔光がふわりと広がり、濡れた髪が柔らかな風に包まれた。
指先が髪をすべるたび、黒い髪が宝石のように光を返し、まるで夜空が動いているみたいに揺らめいた。
「にゃんだか……ユズハ様の髪、乾かすの楽しいにゃ。つやつやで、指がするっと通って……ぽっかぽかの気分になるにゃ〜」
「え、えへへ……ありがとう……」
「照れるとこが、また可愛いにゃ〜」
ほんのり甘い空気が漂う中、ニャルディアが、ぬっと、顔を近づけてきた。
「ところで、ユズハ様?」
「ん?」
「……殿下のこと、どう思ってるにゃ?」
「ぶっ!!?」
柚葉は変な方向に跳ねた温風に驚いて、椅子から落ちかけた。
「な、ななな、なんで急に!?」
「女子トークにゃ。さっきお風呂で言ってたにゃ。“女子会みたいで楽しい〜”って」
「い、言ったけども!!」
「だから聞くにゃ。殿下のこと……かなり、気になってるにゃ?」
「…………」
(気になってるもなにも、心臓の60%……いやいや80%くらい占有されてる……!でもそんなの言えるわけない!!)
「ユズハ様、無言は肯定にゃ〜?」
「ち、違うのっ……ただ……優しすぎて……その……う、嬉しいな、って……」
「ふふっ、顔が真っ赤にゃ。可愛い〜」
「や、やめて! ニャルディアの方が何倍も可愛いしスタイルよすぎだから! あ、そういえば……何歳なの?」
ニャルディアは誇らしげに胸を張った。
――その仕草だけで、ふわりと揺れる豊かな胸元と、引き締まった細腰、しなやかな太ももが一瞬で目に入る。
「うち、十二歳にゃ!」
「…………」
「…………」
「じゅ…………十二……?」
「十二にゃ! 猫獣人は成長が早いにゃ。ユズハ様も、うちと同じぐらいだと思ってたにゃ?」
「がっ……は……っ!!」
柚葉はソファへ倒れ込んだ。
(十二でこのスタイル!? 健康的で、しなやかで、モデルみたいで、可愛くて……いやいやいやいや!! 最近の地球の子だって大人びてる子いたし……うん、いるし……!! こ、これは世界が違うとかじゃなくて……時代の進歩……成長の個人差……そう、個人差……!)
自分で言い訳しながら、逆に心が折れそうになる。
「ユズハ様……? 息してるにゃ……?」
「……だ、大丈夫……。ちょっと文明差に……脳が追いついてないだけ……」
「よくわからないけど……」
ニャルディアはふわりと微笑んだ。
耳がほんのり傾き、長い睫毛が影を落とす。
「ユズハ様の“今の姿”が好きにゃ。それ以上、うちは聞かないにゃ」
「っ…………」
(優しい……可愛い……スタイルよくて……猫耳なのに女神みたい……!!)
柚葉は思わず、彼女の手をそっと握った。
するとニャルディアは一瞬びくっとして、しっぽの先をそわそわ揺らし──
なぜか、急に声がしおらしくなる。
「ユ、ユズハ様……よ、よろしければ……化粧、始めるにゃ……」
「どうしたの? やっぱり必要?」
ニャルディアは慌てて手を離し、パフを手に取って深呼吸。
猫耳が “気合い入ってます!” と言わんばかりにぴんと立つ。
「もちろんにゃ! 殿下との大事な晩餐会だにゃ。ユズハ様を……いちばん綺麗にするにゃ!」
(いやもう……可憐すぎる……この子……ほんと破壊兵器……)
ふわりとパフが頬に触れた。
その指先は羽根のように柔らかく、くすぐったいのに心地よくて、胸の奥がじんわり温かくなる。
「お肌……お風呂上がりもあるけど、すっごくつるつるにゃ……。うち、うらやましいぐらいにゃ……」
褒めながら、しっぽはふりふり。
たぶん無意識。
(まっ、待って……その無自覚しっぽふりふりは……攻撃力が高すぎる……!!)
眉を整え、頬に淡い色をのせ、唇に上品な艶をちょんと置いて──
最後に前髪を軽く整えた。
「……できたにゃ!」
ぱっと顔を上げ、目をきらっと輝かせる。
「とっても素敵に仕上がったにゃ……にゃ、にゃんというか……見惚れるレベルにゃ……!」
自分の言葉に照れて、耳をぺたんと折り、しっぽがくるんと円を描く。
「ユズハ様の仕度を任せてもらえるの……ほんと、光栄で……うち、すごく嬉しいにゃ……」
(やめて……その仕草……ニャルディア保護団体できちゃう……!)
柚葉の“かぁいいゲージ”はついに限界突破した。
「……む、無理。ニャルディア、可憐可愛すぎて……心の容量オーバーしたぁぁぁ!!」
こうして──
ルシエルに、超強力な“柚葉争奪戦参加者”が誕生したのであった。
柚葉が椅子から立ち上がり、鏡越しに自分の姿を確認する。
ニャルディアに仕上げてもらったお化粧と髪型は完璧で、鏡の中の自分はまるで魔法のように輝いていた。
「ユズハ様……準備、ばっちりにゃ……?」
ニャルディアはふわりと微笑み、しっぽを優雅に揺らす。
その様子を見て、柚葉は自然に胸が温かくなる。
(ニャルディア……って、本当に私のことを考えてくれてる……!)
その時、広間の扉の向こうから小さくノックの音がした。
「失礼するよ、ユズハ──」
ルシエルの声。扉がゆっくり開き、静かに礼服姿の彼が現れる。
金色の刺繍が揺れるその姿は、まさに貴族の晩餐会にふさわしい威厳と優雅さ。
「ユズハ……今夜、世界で一番輝いているのは......星でも宝石でもない。君だ......二人きりの夜にしてくれて、ありがとう」
その言葉に、柚葉の心臓は突然大きく跳ねる。
(あ……ルシエル様……こんな近くで……!)
緊張で声が震え、頬は熱くなる。
でもその時、ふんわり後ろからニャルディアの視線を感じる。
「ユズハ様……嬉しそうにしてるにゃ……」
ニャルディアは微笑んで、しっぽを軽く揺らして、二人の幸せを喜んでいるのが伝わる。
(ニャルディア……やっぱり優しい……!)
柚葉は深呼吸して、意を決してルシエルの手をそっと取った。
「行きましょう、ルシエル様……」
ルシエルは微笑み、優しく手を握り返す。二人の指先が触れ合うだけで、心臓は限界に近い。
(ああ……二人きり……このまま、どうやって落ち着けば……!)
ニャルディアはそれを見守り、微笑みながらそっとその場を離れる。
晩餐会の舞台は、今や柚葉とルシエルだけの特別な時間──心臓が高鳴る、甘くてドキドキの二人だけの世界だった。




