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モケジョの異世界聖女ライフ ~模型神の加護と星降りの巫女の力に目覚めた私~光の王子の距離感がバグっているんですが!  作者: Ciga-R


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第117話 絶望の地下神殿に芽吹く、星の救済



 血に濡れたアーシェスのもとへ、戦場の奥から風を裂いて駆ける影があった。


 白銀の長い毛をなびかせ、蒼き瞳に怒りと悲しみを宿す聖獣――イルヴァ。


 かつてアーシェスと契約を交わした、信義の獣が、虚邪の兵を蹴散らしながら彼のもとへと辿り着く。


「……イルヴァ……来てくれたか……」


 アーシェスがかすかに微笑む。


 その背には、ルーグの刃が突き立った傷痕から血を流したままだった。


「吠えるな……まだ、終わってはいない……」


 イルヴァは低く唸りながら、その小さな体でアーシェスを守るように立ちはだかる。


 そして、もう一人――聖なる光をまとい、大地の祝福をその身に宿した少女が、静かに歩み寄ってきた。


 ミレフィーオ。


 かつてはただの癒し手だった彼女が、今や“大地母神の聖女”として目覚めていた。


 だが、この地――虚邪の穢れに満ちたこの空間では、大地の力は封じられ、彼女の神聖力もまた、ほとんど届かない。


 それでも、彼女は歩みを止めなかった。


「……ミレフィーオ……」


 アーシェスが、血の中から彼女を見上げる。


 ミレフィーオは静かに頷き、その視線を、ふと別の方向へと向けた。


 そこには、力尽きて倒れた柚葉とそれを守護する神獣の姿。


「……あの子……」


 ミレフィーオの視線が、倒れ伏す柚葉に吸い寄せられる。


 その身体から、かすかに――けれど確かに――神聖な光が、脈のように脈打っていた。


(この感覚……まさか……)


 彼女の中に、聖女としての本能がざわめく。それは、同じ“選ばれし者”にしかわからない、魂の共鳴。


(彼女も……私と同じ、聖女……? いいえ……この力……この輝き……まさか……創造神に連なる、“星の聖女”――!?)


 その瞬間、ミレフィーオの中に確信が芽生えた。


(ならば……この子なら、この局面を塗り替えられる。私の力では届かなくても……彼女なら、きっと……!)


 ミレフィーオは、そっと柚葉のもとに膝をつき、自らの神聖力を、すべて託す覚悟を決めた。


「お願い……あなたに、託すわ。この世界を、光で包んで……!」


 彼女の手から、柔らかな光があふれ出す。


 それは、大地の女神の祝福を宿した、命の雫。


 柚葉の胸元に触れた瞬間、その光は静かに、しかし確かに、彼女の中へと溶け込んでいった。



 その一方で《アバドン・スパイク》は、アーシェスの血を吸い上げながら、黒の繭へとゆっくり沈み込んでいく。


 杭の黒が、繭の闇と溶け合い、やがてそのまま、空間の裂け目へと吸い込まれていった。


 次の瞬間――


 慈光院から転移してきた動かぬはずの“神の心臓”が、突如として脈動を始めた。


 ドクン……ドクン……ドクンッ!


 その中心に、黒の繭が転移してくる。


 そして、杭は心臓の中心へと突き刺さり――融合する。


「くはははっ……! 見よ、見よ……!」


 ルーグの狂気が、ついに頂点に達する。


「これで揃った……“器”も、“血”も、“心臓”も……すべてはシナリオ通り……! 始まる……ついに、始まるぞ……! 我らが主の、完全なる復活が!!」


 大神殿の地下に広がる虚邪の空が、軋むように震えた。



 黒の繭の中――そこは、音も光もない、深い深い闇だった。


 その中心に、二つの存在が浮かんでいた。


 ルシエルと、セレナーデ。


 互いに向き合いながらも、どこか遠く、まるで水面越しに見つめ合っているような距離感。


「……ここは……?」


 ルシエルが呟く。その声は、闇に吸い込まれることなく、静かに響いた。


 セレナーデは、ゆっくりと顔を上げる。


 その瞳には、もはや敵意も使命もなかった。ただ、どこか懐かしさと、哀しみが宿っていた。


「あなた……やっぱり……光の……」


「……君は……影、なのか?」


 二人の言葉が交差する。


 それは、まるで“始まり”の記憶をなぞるような、光と影の邂逅だった。


 一方、戦場――


 柚葉の胸元に宿った光が、静かに、しかし確かに脈動を始める。


「……ん……」


 まぶたが震え、柚葉がゆっくりと目を開けた。


「……ここは……」


 その瞬間、彼女の中に流れ込んでくる、ミレフィーオの大地の神聖力と祝福。


「よかった……目覚めてくれて……」


 ミレフィーオが、ほっと微笑む。


 しかし、その顔は青ざめ、膝が崩れそうになっていた。


「だ、だめだよ、あなた……!」


 柚葉が慌ててミレフィーオを支えようとしたそのとき――ふわりと、琥珀色の毛並みが風を切って駆け寄ってくる。


 それは、小さな神獣――アンバリーフ。


 柚葉に寄り添う、言葉を持たぬ、けれど確かな心を通わせる存在。


「……アンバリーフ……!」


 柚葉がその名を呼ぶと、アンバリーフは静かに頷くように尾を揺らし、ミレフィーオのもう片方の手に、そっと鼻先を触れた。


 その瞬間、柚葉の胸に、アンバリーフの思念がやさしく流れ込んでくる。


 ――力を貸す。


「……うん、ありがとう……あっ……この娘……!」


 柚葉の瞳が見開かれる。


(この人……よく聞く名前……癒しの奇跡を起こすって……まさか……“ミレフィーオ”って……!)


「……ごめんね……もう、力が……」


 ミレフィーオの声がかすれる。


 柚葉は微笑み、ミレフィーオの手をしっかりと握る。


「大丈夫、今度はあたしたちの番だよ」


 柚葉の掌から、やわらかな光があふれ出す。


 その光は、まるで夜空の星をすくい取ったように澄んでいて、触れた空気までもが、静かに震えた。


 アンバリーフの毛並みもまた、淡く輝き、その光がミレフィーオの身体へと注がれていく。


 そして――


 ふわり、と。


 柚葉の周囲に、蒼く輝く蝶が舞い始めた。


 それは星の粒を羽に宿したような、幻想的な蝶たち。“蒼星の蝶”――星雫の聖女が癒しを行うとき、その力に呼応して現れる、神聖の象徴。


 蝶たちは静かに舞いながら、ミレフィーオの身体をやさしく包み込むように漂う。


 その羽ばたきは、まるで祈りのように、あたたかな光を降り注いでいく。


 その光は、ただの癒しではなかった。


 この地では届かぬはずの“命の力”が、柚葉の中からあふれ出し、ミレフィーオの身体へと流れ込んでいく。


「……この感じ……」


 ミレフィーオの目が、驚きに見開かれる。


「これは……癒しじゃない……命そのもの……まるで……陽光の大聖女様のような……!」


 彼女の胸の奥に、力が満ちていくのを感じた。


 弱っていた身体が、内側からあたたかく満たされていく。


 そして――


 この地では感じられなかったはずの、大地母神の気配が、かすかに、けれど確かに、彼女の中に戻ってきていた。


「……力が……戻ってくる……!」


 ミレフィーオの頬に、ふわりと笑みが浮かぶ。その姿を見て、柚葉もまた、ほっと息をついた。


「……ありがとう……」


その言葉に優しくほほ笑みを返した柚葉が、ふと辺りを見渡した。




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