第110話 個性の暴力が揃った時、可愛いが戦場を凍らせ、鋼が未来を守る
そして――
「ふふ……これが聖女さまの噂にきく模型神の加護なんだね」
リリアが、ひとつ大きく、くるりとターンしてから一歩、前へ。
その足取りは軽やかで、どこか舞台のセンターに立つアイドルのようだった。
「じゃあ、私も――そろそろ本気、出そっか」
指を鳴らす、軽快な音。その瞬間、足元に魔法陣が展開された。
それはただの魔法陣ではない。
ハート、星、リボン、チェーン、そして謎の文字が入り乱れた、“量産型地雷系”の意匠が詰め込まれた、極彩色の魔法陣。
「さあさあ、始まるよ~! 地雷系魔法少女、変身実況タイム!」
カラフルな光がリリアの身体を包み込み、量産型地雷衣装――過剰なフリル、アクセサリーとなったクロス、透け感満載のブラウスが、光のリボンの乱舞に巻き込まれて、派手に爆散!
「さよなら、量産型! こんにちは、個性の暴力!」
光の中心で、リリアがくるくると回転するたびに、新たな衣装が編み上がっていく。
フリル! リボン! 星の紋章! 絶対領域とハイヒール、そして背中には謎の天使ウィング!
完成したその姿は――まさに“地雷系魔法少女”と呼ぶのがふさわしい夢と理想を詰め込んだ、戦場のアイドル。
「第七研究院式・人格最適化戦闘形態」
リリアがウインクひとつ、指先でハートを描きながら高らかに宣言する。
「――コードネーム、《マギア・リリア》、いっきまーす♪」
その刹那、魔法陣が爆ぜるように輝き、戦場にピンクと紫の光が降り注ぐ。
瘴気が一瞬たじろぎ、仲間たちの顔にも、思わずこわばった笑みと困惑が浮かぶ。
だが、誰もが理解した。この姿のリリアは――“本気でやばい。それも”なんだか解らないけど”とんでもなくやばい”と。
魔法陣の光が収まり、《マギア・リリア》がポーズを決めたその直後――
柚葉が、ぽつりと呟いた。
「……こんな可愛いのに、本当に男の娘……?」
その声は小さかった。
けれど、戦場にいた全員の耳に、なぜかクリティカルに届いた。
「にゃ!? にゃにゃっ!? そ、それって、えっ、えっ、そうなのにゃ!?」
ニャルディアが耳は、せわしなくぴくぴく。
「はぁ? これで男の子!? いやいやいや、どこをどう見たらそうなるんだよォ!?」
ブレンナが目をひん剥き、ハンマーを肩に担いだまま、リリアを二度見、三度見。
「いや! いまはそこ言わないで!? 戦闘中なんだから、空気読んで!」
リリアが顔を真っ赤にしながら、スカートの裾を押さえてくるくる回る。だが、その動きがまた可愛さを加速させてしまうという、地雷系の罠。
「……でも、ほんとに可愛い……」
「……いや、だからって……」
「……え、ちょっと待って、混乱してきたにゃ……」
戦場の空気が、ほんの一瞬だけ和らいだ。
だが、その中心にいるリリアだけは、「もうっ、戦いに集中しよ~!」と、頬をぷくっと膨らませて困惑ぎみ。
その姿がまた一段と可愛く、虚邪の巨人ですら一瞬、動きを止めるほどの“謎の沈黙”が戦場に流れた。
誰もが言葉を失い、「……え、今、何が起きているの?」という空気が、瘴気の中にすらほんのり漂う。
その“ほんわかしすぎる”空気を、柚葉がそっと塗り替える。
彼女の手元に、またひとつの構造体が浮かび上がった。
それは、猫のようなフォルムを持つ、鋭利な装甲片の集合体。
「ニャル、これ――あたしが昔、猫型アーマーのフィギュア作ったときのやつ。うちの近所にいた野良猫がモデルでね、すっごく気が強くて、でも子猫には優しくて……“戦う猫”って、こういうのかなって思って、ずっと形にしたかったんだ」
その声に、ニャルディアの耳がぴくりと動く。
「ユズハ様……本当にうちにも、くれるの、にゃ?」
柚葉は、にこっと笑って頷いた。
「うん。今のニャルに、ぴったりだと思うから」
機械音が、低く唸った。
「《キャットアーマー》――展開にゃ」
首輪が砕けるように分解し、黒鉄と蒼銀の装甲片が、ニャルディアの身体を包み込んでいく。
肩から背中へと伸びるのは、獣の脊椎を思わせる可動フレーム。
脚部は逆関節構造となり、跳躍力と着地衝撃を極限まで吸収する設計。
前腕部には、展開式のクロー・ブレードが収納され、指先から肘にかけて走るラインが、淡く青く発光する。
そして――兜。
猫耳を模したシルエット。だが、そのフォルムには一切の可愛げはない。鋭く、無骨で、完全に“狩るため”の形。
「……ごっつい、にゃ?」
自分でそう言って、ふっと笑う。その笑みは、どこか誇らしげだった。
「でも――これでいいにゃ。うちは、前に出て、斬って、引き裂く役にゃ」
その瞳が、虚邪の巨人を真っ直ぐに射抜く。
「子どもたちを助けだすにゃ。――それが、うちの戦い方にゃ」
次の瞬間――
「ハッ! ならよォ……オレも黙ってられねぇよなぁ!!」
ブレンナが、豪快に笑った。その声は、戦場の空気を震わせる雷鳴のように響き渡る。
背中の巨大ハンマーを、地面に叩きつける。
ゴォン!!
重低音が地を揺らし、円状の衝撃波が地面を走る。瘴気が一瞬たじろぎ、空気が震えた。
「オレまで変身する日が来るとは思わなかったけどなァ……!」
彼女は、腰に巻いたベルトのバックルを引き下げる。その動きに、柚葉がそっと呟いた。
「……それ、あたしが昔作った“戦う鍛冶師”のフィギュアが元なんだよ」
誰に言うでもなく、ただ懐かしむように。
「火花を散らしながら戦う、巨大ハンマーの職人。“守るために叩く”っていうコンセプトで、何度も設計やり直して……最後は、大好きなアニメのキャラを思い浮かべながら、完成させたの」
その想いが、今、形になる。
瞬間――
地下から、金属音がせり上がる。床が割れ、噴き上がる蒸気の中から現れたのは、巨大な装甲ユニット。
分厚い鋼鉄。無数のリベット。魔導炉を内蔵した、完全な重装甲戦闘アーマー。
「《フォージド・コロッサス》――フルドライブ!!」
装甲が、ブレンナの身体を包み込み、脚部は地を砕く杭のように太く、胴体は城壁のごとき厚みを誇り、両腕は、もはや人の腕ではない。
それは、攻城兵器そのもの。
右腕には、巨大な打撃用ハンマー・ユニット。左腕には、衝撃波拡散用のシールド・ブレイカー。
全身から立ち上る蒸気と魔力の奔流が、戦場の空気を一変させる。
兜の奥で、ブレンナの目が光る。
「オレはよォ……守るってのは、壊されねぇ壁になることだと思ってんだ」
装甲が、ギシリと鳴る。その音は、まるで“決意”そのものの咆哮。
「だから――」
巨人を睨み据え、拳を握りしめる。
「ここから先、一歩も通さねぇ!!」
その声は、まるで鋼鉄の宣言。“守る者”としての魂が、今ここに、完全武装で立ちはだかった。




