表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モケジョの異世界聖女ライフ ~模型神の加護と星降りの巫女の力に目覚めた私~光の王子の距離感がバグっているんですが!  作者: Ciga-R


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

118/141

第108話 苦悩こそが糧、虚邪の教祖が微笑む聖域の崩壊



「……シスター、さん……?」


 柚葉が、震える声で呼びかける。だが、返事はなかった。


 彼女たちの瞳は、虚ろで焦点は合わず、まるで“内側の何か”だけを見つめているようだった。


 口元が、ゆっくりと動く。


「……あ……ああ……」


 その声は、かすれていた。だが、確かに聞こえた。


「……捧げ、もの邪な……神に……祝福を……」


 その言葉は、誰に向けたものでもなかった。


 まるで、遠いどこかにいる“何か”へと捧げる、儀式の一節。その背後に、見えざる“悪意”の存在が、じわじわとにじみ出ていた。


 空気が、再び重くなる。


 希望の光が差し込んだはずの戦場に、新たな絶望の影が、静かに忍び寄っていた。


 その瞬間――


「ッ、止めろ!!」


 ヒジカタが、即座に踏み出した。その眼は、すでに“最悪の未来”を見据えていた。


 だが――


 間に合わない。


 巨人の胸元。露出した“核”が、不気味な音を立てて開き始める。


 それはまるで、口。いや、“神の胎”とでも呼ぶべき、異形の器官だった。


「くっ……!」


 ヒジカタが刀を抜こうとする。


 だが、空間が歪む。瘴気が渦を巻き、彼の足元を絡め取るように揺らめいた。


 アンバーリーフの光が、強く脈動する。その輝きが、警鐘のように戦場を照らす。


 ――危険だ。近づくな。

 ――だめ……干渉できない……!


 その思念が、鋭く響いた瞬間――


「やめろッ!!」


 ブレンナが叫び、ハンマーを振り上げる。


 ニャルディアも、傷を押さえながら跳び出そうとする。


 だが、彼女らの動きよりも早く――


 シスターたちが、まるで糸に引かれるように、虚ろな瞳のまま、ゆっくりと歩み出した。


 その腕に抱かれた子どもたちは、まだ意識を取り戻していない。まるで夢の中にいるかのように、ぐったりとしたまま。


「やめて……お願い、やめて……!」


 柚葉が叫ぶ。


 だが、シスターたちの足は止まらない。


 そして――


 巨人の“核”が、完全に開いた。


 禍々しい瘴気が渦を巻き、その中心に、黒い虚無のような空洞が口を開ける。


 シスターたちは、まるで祝福を捧げるように、子どもたちを抱いたまま、その中へと―― 虚邪の巨人の胸へと、呑み込まれていった。


「――――ッ!!!」


 柚葉の喉から、言葉にならない悲鳴が漏れる。


 ルシエルが駆け寄ろうとするが、瘴気の壁がそれを阻む。


 巨人の身体が、再び膨張を始める。


 瘴気の表面に、子どもたちとシスターたちの輪郭が、まるで“刻印”のように浮かび上がった。


 助けを求める小さな手。

 恐怖に歪む顔。

 そして、動かぬ唇。


 ――生きている。


 確かに、まだ。だが、その命は、今まさに“神の器”の一部へと変貌しようとしていた。


「……盾に、しやがった……!」


 ブレンナが、奥歯を噛みしめながら呻く。その拳は震えていた。怒りか、悔しさか、それとも――無力感か。


「攻撃したら……中のガキやシスターまで……!」


 ニャルディアの耳が伏せられ、尻尾がぴたりと止まる。その瞳に宿るのは、焦りと絶望。


「……そんなの……斬れるわけないにゃ……!」


 彼女の声は、かすれていた。普段の軽口も、戦場の冗談も、今はどこにもなかった。


 その場に、重苦しい沈黙が落ちる。


 有効な一撃は、存在しない。強く斬れば、子どもが死ぬ。弱めれば、巨人は倒れない。それは魔法も同じ。


 ――完璧な罠。


 それは、戦術ではなく“悪意”そのものだった。


 そのとき。


 どこからともなく、嗤う声が、空間に染み込んだ。


『ふふ……実に、美しい』


 それは音ではなかった。だが、確かに全員の意識に、直接“染み込んだ”。


『守る者ほど、壊れやすい。命を盾にされてなお剣を振れるなら――それはもう、英雄ではない。ただの殺戮者だ』


 その声は、甘く、冷たく、そして狂っていた。まるで慈しむように、破滅を語る。


『安心しろ。子どもやシスターたちは“まだ”生きている。だが、決断が遅れれば……どうなるかは、想像に任せよう』


 声の主――虚邪の教祖、ルーグ。


 その存在は、姿を見せずとも、空間そのものに“染み込んで”いた。


『さあ、どうする? 光の英雄たちよ。その手に握るのは、救いか、破滅か。選べ。選び続けろ。その苦悩こそが、我らが主の糧となるのだから』


 嗤いが、空間を満たす。それは音ではない。だが、耳を塞いでも、心の奥底にまで届く“毒”。


 仲間たちの顔に、苦悶が走る。剣を振るう者ほど、心を抉られる。守る者ほど、選択を迫られる。


 そしてそのすべてを、ルーグは“愉悦”として味わっていた。


 柚葉の身体が、かすかに震えた。


 その瞳は、いまの惨状を信じられないまま巨人を見つめている。だが、その奥で――確かに、何かが揺れていた。


 ――守りたい。

 ――助けたい。

 ――でも……どうすれば……?


 子供たちを失うかも知れない恐怖と無力感が、胸を締めつける。


 足がすくみ、声が出ない。それでも、心の奥底で、何かが静かに灯り始めていた。


 そのときだった。


 胸の奥が、熱を帯びた。それは炎ではなく、光でもない。もっと根源的な、“構造”そのものへの共鳴。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ