表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モケジョの異世界聖女ライフ ~模型神の加護と星降りの巫女の力に目覚めた私~光の王子の距離感がバグっているんですが!  作者: Ciga-R


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/141

第104話(前パート) 神の心臓が晒された時、英雄と狂信の最終決戦が始まる



 あの中にあるものが、王家の記録にも記されていない“禁忌”であることを。

 

 血の奥底に刻まれた、理屈では説明できない“恐怖”が、アーシェスに警鐘を鳴らしていた。だが、それ以上に――彼の胸を締めつけたのは、別の気配だった。


 ほのかに漂う、あの人だけがまとう、忘れがたい香気。


 幾度となく、夜の回廊で交わした言葉。王家の者として、聖女として、決して交わることのない立場でありながら、それでも心の奥底で、互いを理解しようとした、あの時間。


「……リディアーヌ……?」


 呟いた名は、誰にも聞こえなかった。けれど、彼の中では確かに、何かが崩れ落ちていた。


「やめろ、ルーグ……それを開けるな!」


 アーシェスが声を荒げ、踏み出そうとする。


 だが、ルーグはその叫びを愉悦の笑みで受け流し――棺の封印を解き、蓋を開け放った。


 その瞬間――


 空気が、凍りついた。


 棺の中に横たわっていたのは、白銀の法衣をまとい、まるで眠るように目を閉じた女性。


「……っ!」


「うそ……」


「まさか……!」


 一同が、言葉を失う。


 それは、かつての“陽光の聖女”セレーネと並び称された、もう一人の大聖女――白月の巫女リディアーヌ。


 聖王国の信仰の象徴にして、ミレフィーオが“母に近い姉”と慕う存在。


 その姿が、まるで“捧げ物”のように晒されていた――


 まるで眠っているかのように無表情に見えるが――どこか、何かに必死で耐えているような、張りつめた静けさの表情。


 その胸元には、禍々しい鈍くよどめく真っ黒な杭が深々と打ち込まれていた。


「……っ……!」


 ミレフィーオが、膝をついた。その肩が、大きく震える。


「うそ……です……そんな……リディアーヌ様が……どうして……」


 彼女の声は、かすれていた。


 普段は誰よりも気丈で、誰よりも強くあろうとする彼女が――今、崩れ落ちそうなほどの絶望に、呑まれていた。


「ふふふ……いい顔だ、大地母神の聖女よ。その絶望こそが、我らの糧となる。さあ、始めようか――“神の心臓”を迎える、最後の儀式を」


 ルーグの声が空間に響いた瞬間、場を包んでいた不気味な静寂が、さらに深く沈み込んだ。


 そのときだった。


「……ぅ……つぁ……っ……」


 微かに、ほとんど聞き取れないほど、かすれた呻き声が響いた。


 それは、誰のものでもない――杭に貫かれ、まるで人形のように横たわっていた“彼女”のものだった。


「リディアーヌ様……!?」


 ミレフィーオが顔を上げる。その瞳に、希望の光が宿る。


 だが、ルーグはそれを見逃さなかった。口元を歪め、喉の奥でくぐもった笑いを漏らす。


「くくくっ……抗っているな。さすがは“神の代理人”と称される大聖女……いや、“心臓の鞘”と呼ぶべきか」


 彼はゆっくりとリディアーヌのもとへ歩み寄り、胸元に突き立てられた黒き杭を、愛おしげに撫でた。


「この呪われた神の楔 (くさび) 《アバドン・スパイク》は、魂と肉体を分断し、神の心臓を封じた“鞘”としての器に変えるためのもの。今の彼女は、ただの入れ物に過ぎん。だが――まだ、完全ではない」


 彼の瞳が細められる。


「魂が、抗っている。だが、どこまで持つかな? この楔が完全に根を張ったとき、“神の心臓”は目覚め、そして我らが主の本体もまた、完全なる蘇りを果たすのだ」


 その言葉とともに、杭が脈動し、黒い瘴気がリディアーヌの胸元からじわりと広がっていく。


 ミレフィーオは、震える手で祝福を捧げようとするが、その加護は、またしても空間に吸い込まれていった。


(お願い……どうか、どうか……!)


 彼女の祈りは、届かない。だが、それでも――リディアーヌの目ぶたが、わずかに震えた。


 ルーグの狂笑が、白金の空間に響き渡った。


 光と闇。

 信仰と狂信。

 守護と再定義。


 希望と絶望――すべてが、今、この場所に集約されていた。


 白金の空間に満ちるのは、神代の残響。その中心で、教祖ルーグが両腕を広げ、恍惚とした声を漏らす。


「……ああ、壮観だ」


その瞳は、狂気と歓喜に濡れていた。


「英雄、聖女、聖獣、ハイエルフ、大賢者……これ以上ない供物が揃った。さあ、始めよう。世界を書き換える導きを――神の心臓を、我らの理で染め上げるために」


 ルーグはふと、わずかに視線を逸らし、思案するように指先を唇に当てた。そして、愉快そうに肩をすくめる。


「……とはいえ、一番厄介な“影の監視者”――あやつリュウゲツは…あえて転移には加えず、あの洞窟に置き去りにしてきたがな」


 その声音には、警戒と侮蔑、そしてほんの僅かな“恐れ”がにじんでいた。


「――黙れ」


 鋭く、氷のような声が空気を裂いた。


 アーシェスが、一歩、前へ出る。


 その足取りは静かだが、全身からにじみ出るのは、確かな決意――そして、怒りだった。


(……まだ、生きている……!)


 杭に貫かれながらも、わずかに震えるリディアーヌのまぶた。その微かな動きが、彼の胸に一瞬、安堵の光を灯す。


 だが同時に、その命が“邪な神の心臓”の器として弄ばれているという現実が、彼の内側に煮えたぎるような憤りを呼び起こしていた。


「聖機アストラル・コードは、世界を守るためのものだ。お前たちの狂気の器じゃない……ましてや、リディアーヌをそんな風に扱っていいはずがない」


 その声は低く、鋼のように冷たかった。


 だがその奥には、彼女の尊厳を踏みにじられたことへの怒りと、彼女を“人”として見ていない者たちへの、抑えきれない憤りが込められていた。


「守る……? それはただの停滞だ。変化を拒み、崩壊を恐れ、ただ現状に縋るだけの弱さにすぎん」


 即座に応じたのは、灰の賢者カディスだった。


 その声は静かで、まるで凪いだ湖面のように穏やか――だが、その奥底には、底知れぬ深淵と冷酷な理が潜んでいた。


「世界は、常に“試される”べきだ。神であろうと、人であろうと、例外はない。変化なき守護など、死と同義だ。滅びを恐れるな。恐れるべきは、進化を止めることだ」


 その言葉は、理屈としては整っていた。


 しかし、そこには“命”への敬意も、“痛み”への理解もなかった。ただ、冷たく研ぎ澄まされた“淘汰”の思想だけが、静かに響いていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ