表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モケジョの異世界聖女ライフ ~模型神の加護と星降りの巫女の力に目覚めた私~光の王子の距離感がバグっているんですが!  作者: Ciga-R


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/141

第97話(前パート) 世界が選び、光が導き、運命は円環に収束する



 白金の光が、なおも天を貫いていた。だが、その奔流はもはや暴力的ではない。


 世界に刻みつけるための叫びを終え、今はただ――在るべき場所に還った光として、静かに揺らめいている。


 その根元。


 大地が割れ、古き地脈が露わになった円環の中心に、ミレフィーオは立っていた。


 その前に、フィデス・イルヴァ。


 彼女を守るように、半歩だけ前へ。その姿は、もはや瀕死の影ではなかった。


 静かな威厳を纏い、大地と同じ呼吸でそこに在る。まるで、世界そのものが彼を通して彼女を守っているかのように。


 闇は、まだ消えていない。


 だが、虚邪の穢れは光に押され、円環の外周へと追い詰められていた。まるで、獲物を囲うために残された影のように。


 光と闇が、いま、ひとつの円の中で拮抗している。その中心に立つ少女と、彼女を守る獣。


 ふたりの静けさが、世界の均衡を保っていた。

 

 そして――


 最初に、その場へ辿り着いたのは、氷の王子だった。


 空間が、ひときわ冷えた。


 王家にのみ伝わる、次元を裂く短距離転移のアーティファクト。


 使用には代償として“冷却の刻”――クールタイムが発生する、切り札中の切り札。


 それを、迷いなく使った。


 現れたアーシェスは、膝をつくことも、息を整えることもなく、ただ真っ直ぐに視線を前へ向けた。


 そして――見た。


 白金の光の中心に立つ、ひとりの少女を。


「……ミレフィーオ」


 その名は、呼びかけというより、確認だった。


 生きているか。まだ、そこにいるか。そして――彼女の隣に、イルヴァの姿があるか。


 視線が交わる。ミレフィーオは、ゆっくりと振り返った。


 その瞬間。


 張り詰めていた何かが、ほんのわずかに、ほどけた。


「……アーシェス……様?」


 声は震えていたが、立っている。逃げも、崩れもしていない。


 その背に、イルヴァが静かに寄り添っている。


(……無事か。おまえも……)


 契約獣としてではない。あの時から、ずっと共にあった存在。


 彼の冷たい理性の奥に、唯一寄り添っていた焔。


 そのイルヴァが、今も彼女を守っている。それだけで、胸の奥に凍りついていた氷が、静かに軋んだ。


「……よかった」


 それ以上は、言わなかった。だが、その一言に込められた安堵は、剣よりも鋭く、確かだった。


 そして、彼の中の焔が、静かに灯りを取り戻していた。


 次いで――地を砕くような足音。


 魔剣《グリム=バルムンク》を肩に担ぎ、ガルディウスが歩み出る。


その足取りは、まるで地そのものに確かさを刻むように、重く、力強かった。


「……ったく」


 光と闇が交錯する中心を見渡し、舌打ちひとつ。


 だが、その声音に怒気はない。むしろ、胸の奥に溜め込んでいた何かを、吐き出すような呼吸だった。


「どんだけ派手にやりゃ気が済むんだよ、お前は」


 その口元は――笑っていた。不器用で、照れ隠しで、でも確かに、心からの笑みだった。


「……無事で、なによりだ。ミレフィーオ」


 その名を呼ばれた瞬間、ミレフィーオの胸の奥に、何かが込み上げた。


 懐かしくて、あたたかくて、でも涙に変わってしまいそうな感情。


「ガルディウス……兄様も……来てくれたんだ、ね」


 声が震える。


 けれど、彼女は必死にそれを押し留めた。今は、泣く時じゃない。


 でも――


 戦友だ。何度も、背中を預け合った。絶望の淵で、互いの命を託し合った。あの深淵の底で、誰よりも近くにいてくれた、大切な仲間。


 そして、彼はいつだって、彼女が崩れそうになるその瞬間に、まるで当然のように、隣に立ってくれた。


「……遅れて悪かったな。けど、もう大丈夫だ」


 その言葉に、ミレフィーオは小さく頷いた。


 涙は、まだこぼれない。けれど、その瞳には、確かに光が戻っていた。


 そして――


 風が変わる。


 森と岩原の境から、三つの影が現れる。


 六花の金獅子。


 ドルガンの重盾が地に触れた瞬間、地脈が低く応えた。

 アウロアはすでに弓を構え、視線は闇の濃い方向を射抜いている。


 そして、オーヴェルス。その老いた足が、ひとつ、前へと踏み出す。


 視線の先――白金の光の根元に、彼女はいた。


 ミレフィーオ。


 その名を、心の中で呼んだ瞬間、老賢者の瞳が、わずかに揺れた。


「……立っておるな」


 その声は、かすかに震えていた。


 理を極めた者の声が、感情に染まる。それだけで、彼の胸にどれほどの想いが渦巻いていたかがわかる。


 セレーネの血を引く孫娘が。命を賭して信じ、世界に肯定されたその姿で、ここに立っている。


「……よく……耐えたの……」


 その言葉は、称賛ではなかった。


 叱責でもなかった。ただ、祖父としての、あふれ出た想いだった。


 その背に、長い時を生きた者の重みがあった。そして、失った者への悔いと、今ここにある命への祈りがあった。


ミレフィーオは、深く息を吸い、そして――頭を下げる。


「……来てくれて……ありがとう……ございます」


 その声に、震えが混じっていた。けれど、確かに届いた。


 その言葉に、六花の誰も、軽口は返さなかった。ただ、静かに、彼女の存在を受け止めていた。


 影の中で、リュウゲツがその光景を見守っていることを、誰もが知っていた。


 だが今は、言葉も気配も要らない。ただ、再会の奇跡を――この瞬間だけは、誰もが胸に刻んでいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ