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第27話「イマイ村」

 夕暮れ時。

 ベリウスたちは、当初の予定通りにイマイ村を訪れていた。


 ベリウスは、この村はこれといった特徴がない村だと記憶していた。

 原作ストーリーのチュートリアルで起こる王都で巨大な人工魔獣が暴れる事件(ベリウスが死ぬことになった事件と同一)の煽りを受け、イマイ村は半壊する。


 ゲームスタート時には復興に尽力しなくてはならないほど破壊された村である、というのがベリウスの認識で――だから、目の前に広がる光景に大きな違和感を覚えた。

 麦畑に囲まれた平々凡々な村というには、所々におかしな点があるのだ。


「……なるほど、これは何かがあるな」


 古びた宿屋や、家屋。

 年季の入った農具。

 その中で、輝粒を使った最新式の街灯や、魔具によって浄化作用が付与された井戸、取って付けたような噴水の存在は非常に浮いていた。


「よお、兄ちゃん! 冒険者かい? よかったら、ウチの武器屋に寄ってってくれよ!」

「いい肉が手に入ったんだ、飯はウチで食ってけ? な?」

「もし手が空いてたら麦の収穫を手伝ってくれよ! 分け前はやるからさ」


 村を歩くたびに気安く声を掛けられる。

 その度にティアナディアが「ご主人様に無礼な!」と食って掛かっていた。

 気になったのは村人たちの身なりだった。煌びやかなアクセサリー、上等な布を使った衣服。どれもかなり値の張る代物だ。

 見た感じ広大な麦畑が彼らの主な産業のようだが……。


「シグレ。王都では麦が高騰していたりするのか?」

「ふぇ、へぅ、っと……特にそういう話は聞いたことがないです、多分」


 となれば、益々不可解だ。

 それに金の使い方にしても少し下品だ。


 普段なら特に気になりもしなかっただろうが、問題は転生前のベリウスとこの村に多少なりとも関りがあったらしいことだ。

 いや、村人の反応から関りという単語は適当ではないかもしれないが、どちらにせよ、ティアナディアの談ではベリウスはこの村に何度か訪れていたということだった。


 それらの事実が示しているものはなんだ? ただの偶然だろうか。

 加えて、他にも大きな違和感があるような……。


「少しよろしいでしょうか。旅人様」


 ベリウスの思考を遮って、三十代そこそこと言ったふうの女性が現れた。


「なんですか、ご主人様は今とても忙し――」

「いい、話を聞こう」


 ティアナディアの言葉を遮ると、女性は申し訳なさそうに軽いお辞儀をした。

 この女性も例に漏れず煌びやかなアクセサリーと高級そうな服に身を包んでいた。

 胸元のブローチに嵌め込まれているのはディノタイトという魔石で、観賞用として価値が高いのはもちろんのこと、魔具作成の素材としても超一級品だ。この大きさでも、馬が数頭買えるのではなかろうか。


「なんてことはありません。宿をお探しでしたらご案内しようかと。ベッドも一新いたしまして、快適な夜をご提供できるかと思います」


 少々気になることもあるが、元より宿は取るつもりだった。断る理由はないだろう。


「よし。案内を頼もう」

「恐縮です。では、こちらへ」


 そう言って深く礼をすると、女性は先導して歩き始めた。


 小さな村だが、よく活気に溢れていた。

 大口を開けて笑う男の声が響く。ビアジョッキを掲げて気持ち良く酩酊したり、カードゲームに勤しんだりする農夫らしき男たちがよく目に入った。沈みかけとはいえ、太陽が見える時間に出来上がりすぎではなかろうか。


「随分と景気がいいようだな」

「そ、そうでしょうか……たまに羽を伸ばしたくなる、そういうこともあるかと」

「本当にたまにならな。あなたも随分と羽振りがよさそうだ」


 胸元のブローチに視線をやると、女性は決まりが悪そうに目を伏せた。


「……部屋はいかがいたしましょう。人数分用意することもできますが」

「全員一緒がいいでございます!」


 ティアナディアが食い気味答えた。


「……ティア?」

「し、シグレは馬小屋とか、外で大丈夫です! シグレと同じ部屋なんて耐えられないと思いますし、神様と同室など恐れ多いですし……匂いとか、汚かったりもするし……」


 ティアナディアが抗議しようとすると、どんよりとした空気を纏ったシグレが言葉を挟む。尻尾と耳はしゅんと垂れ、ふぇへへ、と不格好な笑みを零す。


 たしかに、ベリウスはシグレを利用してやるつもりで奴隷にした。必要以上に優しくするつもりはないし、救いの手を差し伸べるつもりはない。


 だが、必要以上に厳しく当たる必要もない。

 元居た世界、少なくとも■■が住んでいた国に明確な身分差というものはない。シグレに対する差別意識も、悪感情も、見下すような気持ちも特にないのだ。


「か、神様……?」


 シグレの頭にぽんと手を置く。


「ふぅわぇうお!? そ、そそそんな神様そんな恐れ多いですシグレなんてテキトーに殴るくらいがちょうどいいというか、供給過多というかぁ」


 すると、目をぐるぐるとさせたシグレの呼吸が荒くなる。


「尊過ぎて尻尾が増えそうですぅ……」


 そのまま訳の分からないことを言って、泡を吹き始めた。

 落ち着かせるつもりでやったのだが、逆効果だったらしい。

 ファーストインプレッションが悪かったのはベリウスの落ち度だが、こうも過剰に崇められるとやりづらいことこの上なかった。


 今もシグレは両手を合わせて何やらベリウスに向かって祈りを捧げている。

 だが、自分は神様ではないと馬鹿正直に説明するのもそれはそれで違う気がする。信じてくれない気がする。コミュニケーションが致命的にズレているのだ。


「はあ……止めだ。こういうのは性に合わん」

「今日もシグレの神様はお美しい……ふえっへ、見つめられるだけで供給過多」


 シグレを見やると、涎を垂らして熱っぽい視線を向けてきた。


「……全員同じ部屋で構わない。案内してもらおう」


 シグレから視線を切ってそう答えると、「ふぇ!?」と間抜けな声が聞こえてきた。

 シグレとの関係性についてはおいおい考えればいいだろう。戦力増強と、ベリウスが死んだ場合にティアナディアを孤独にしないためという目的はこのままでも達成できるのだから。


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