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第23話「廃神殿と職業昇進2」

 ベリウスたちは数日間、ウヌクアルハイの岩窟で過ごした。

 ルーメンボアを狩るのも徐々に手慣れてきた。シグレも桁違いに向上した身体能力にすぐに適応していた。職業昇進がまだだから扱えるスキルは多くないのが却って良かったのかもしれない。


 ベリウスはレベルアップに対する要求経験値が多い分苦労したが、無事ノルマは達成。

 シグレはレベル四十四。ベリウスのレベルはカウンターストップ、九十九に達したところで三人は岩窟を後にしたのだった。


 次に向かったのは、アケルナル神殿跡地である。

 目的はシグレのレベルアップであり、それが可能である中で、最も近くの場所がここだった。


 本来ならば、大都市の神殿で専門の神官に頼むのだが、天使ミカエラを信仰する彼らは特に魔族に対しての憎悪が強い。万が一を避ける意味でも、神殿の跡地を使うのは合理的な判断だといえるだろう。


「……え、えっと、シグレ如きの職業昇進クラスアップをしてくださるとのことでしたが」


 シグレは、目の前の廃神殿を見て言葉を詰まらせる。

 崩れた門に、枯れた噴水。折れた石柱には蔦が絡まっており、腰から折れた天使ミカエラの像は祭壇に跪いているようだった。


 魔獣が住み着いていないのは、微かに残った天使の加護の力故か。

 だが、この神殿そのものにミカエラの意志は反映されていない。これは、いくつかの機能を備えた機械のようなものに過ぎない。


「問題ない。神殿として機能はするはずだ」


 祭壇に手を翳すと、職業昇進に必要なウィンドウがポップアップした。反応からして、ティアナディアとシグレには見えていないのだろうが。

 徐々にわかってきた。プレイヤーが当たり前の機能として行使できる力は、ベリウスの体となった今でも使えるのだ。


「そ、その、神殿が生きていたとしても神官様がいないと、職業昇進はできないのではないですか?」

「そうなのか? ティア」

「惰弱な人族はそのようですね。中級職の治癒師プリーストか、上級職の大司祭アークプリーストあたりが儀式を担当するのでございます。彼らが人族の中でも、最も天使ミカエラと近い場所にいるのだとか」


 なるほど。こんなところでも、ゲームとの差異があるのか。

 いや、プレイヤーは勇者だ。直接天使ミカエラから加護を受けている勇者が神殿を動かせるのは設定上おかしなことではない。

 ベリウスが神殿を使える正当な理由があるのだとすれば……。


「どうしたのでございますか? わたしの顔をジッと見つめて。てれてれ」

「いや、なんでもない。来い、シグレ。今から儀式を始めるぞ」


 シグレは当惑しながらも、ベリウスに従い祭壇の前に立つ。

 ウィンドウを弄ると、神殿から銀の燐光が焔のように湧き上がった。

 祭壇の機能は問題なく作動している。確かな手応えに操作を進めると、シグレは有り得ないと目を見開いた。


「こ、れは……やはり天使ミカエラの権能など、神様の手に掛かれば意のままに歪めることができるということでしょうか」

「別に大したことではない。俺にも偉大なる者の加護があったというだけのことだ。さあ、いくぞ、職業昇進だ」


 神殿が淡い光を帯びて脈動する。

 燐光が運河のように流れ、シグレを祝福するように舞う。

 廃墟となった今でもこの神殿は生きている。神殿という外側がどれだけ荒んだとしても、天使ミカエラが与えた機能は衰えることなく、息をしている。


「歩みし者に祝福を。汝、新たなる精霊の導き手にならんことを――此処に契約を成す(アニ・フェイドゥム)


 シグレが纏った燐光は形を変え、馴染み、彼女の潜在能力を引き上げる。

 姿形は変わらず、しかし、シグレは己の変化を実感しているだろう。

 その魔力の質が、細胞の一つ一つが、シグレを全く別の個体に生まれ変わらせた。

 ベリウスの導きにより神殿は機能し、シグレの職業昇進は成った。


「ふぇへ、ああ、神様の一部がシグレに流れ込んでくるようです……尊い、尊いです。少し前なら考えられないことです」


 シグレは信じられないと両手を震わせ、形を変えた魂の革新を読み解く。


「中級職、召喚師サモナーになるなんて」


 そう。彼女は初級職遠術師(メイジ)から、中級職召喚師(サモナー)に職業昇進した。

 低級魔獣の召喚。調教からの使役。索敵、攪乱に長け、少々癖があり不人気だが、使いこなせれば他に代えがたい有能性を発揮するピーキーな職業。


 だが、目的はこれじゃない。


 ベリウスは素早くシグレのスキルツリーを開き、必要最低限の割り振りを済ませる。ベリウスの脳内に叩き込まれた、解放条件を満たす最短距離のポイント分配。


 目指すは召喚師のその先――。


「まだだ。シグレのレベルは四十四。上級職の職業昇進に要求されるレベルとちょうど一致しているな」


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