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第15話「ケモ耳奴隷少女との出会い4」

「ぐ――ッ」


 ジボランは信じられないと言わんばかりに、目を剥いて硬直した。


「いや、すまない。意地の悪い言い方をした。中級職である、斧撃士。レベルは三十五。屍人種はSTR値が高い傾向にあるから、近距離超パワー型というべきか。実際、なかなか素晴らしい攻撃力だ」


 ベリウスは《真眼》でステータスを確認しながら、言葉を重ねる。


「そのレベルにしてはな」

「なァにそれ」


 ジボランの声音には、怒気と恐怖が入り混じっていた。


「そこらの王国騎士相手には苦戦もしないだろうが、俺は文字通り格が違うのでな」

「そう、わかった。後悔させてあげるぅ――我は鉄。重鈍なる鉄。硬く鋭い鉄。万物を砕き、打ち勝つ、孤高の――」

「――《グラビティ・フォール》」


 魔法のために詠唱を始めたジボランに重ねて、ベリウスはスキル名を唱える。

 ベリウスにとってはそれだけで十分だった。【加速クイック】を使用したベリウスは、MP消費量を上げる代わりに無詠唱にて、魔法を行使できるのだ。


 魔法の打ち合いでベリウスは常に先手を取ることができる。

 詠唱から察するに、他のステータスを下げることでSTR値を上げる魔法だったようだし、撃たせたところで問題はなかったのだが、格の違いを見せるのに、これほどわかりやすい方法もない。


「く――うくっ」


 一定範囲内に重力の檻を展開するスキルに成す術なく、ジボランは墜ちるように這いつくばらされた。


「は……? 詠唱なし、とかぁ」


 首を持ち上げてこちらを見ようとするが、石畳にめり込むほどの負荷に、その姿勢を保つのが精一杯といった様子だった。

 ジボランは歯を食いしばり、ギロリとこちらを向いて反抗心を露にした。


「存外聞き分けが悪いのだな。ならば、貴様が絶対に俺に勝てない理由を丁寧に説明してやろう」


 ベリウスは【グラビティ・フォール】を継続したまま、仕方なしと口を開く。


「【魔禍のアブソリュート・クラウン】――ダメージをMP……いや、魔力が肩代わりしてくれる、俺の固有スキルだ」


 最終的に受けるダメージ量と、同じ値が代わりにMPから惹かれる。簡単に言えば、ベリウスにとっての実質HPは本来のHPとMPを合算した数値になる。


 ジボランは「それがなんだっていうの」と恨めし気に呟く。


「俺の魔力量は86512。貴様が通常攻撃で俺に与えるダメージ量が620。そして、俺が魔纏オーラによる、被ダメージ時MP回復量が703だ」


 このダメージ量というのは、ベリウスのPDEFまで参照した数値になる。

 本来なら割り切ってもいいステータス項目だが、単独での戦闘も視野に入れてある程度の強化はしてある。


 また、MP関連の数値に関しては、スキルツリーを再編成するときに優先的に上げた。

《魔禍の冠》を最大限に活かすために。


 余程攻撃力に自信があったのだろうが、彼女がベリウスに与えるダメージよりも、ベリウスのMP回復量の方が多いのが事実である。あのまま、どれだけ攻撃を続けていても、ベリウスを討ち倒す未来などやってこなかった。


「は……?」


 彼我の戦力差に絶望したというよりは、言葉が理解できないといった調子だった。

 王都の騎士と対したときもそうだったが、この世界の住人はゲーム世界では数値として換算できる項目の全てを把握しているわけではないようだった。いや、それを参照する方法も存在するらしいから、一般的に普及していないと言うのが正しいか。


「ああそうか、ならば貴様にもわかる尺度で話してやろう、俺のレベルは八十八だ」


 絶句。

 ジボランから、絞り出したような声が漏れるのが聞こえた。


 抵抗する気力がなくなったらしい。重力の枷により馬車に引き潰されたカエルのように、べしゃりと地面に押し付けられる。みしりみし。不穏な音がして、地面が蜘蛛の巣状に割れた。


「八十八……? 嘘でしょお、わたしいの二倍以上、とか」


【グラビティ・フォール】が解除されるが、それでも、ジボランが起き上がってくる様子はなかった。現実が受け入れられないと、ぶつぶつ呟いている。


「……ぁ、あなた、まさか」


 それから、何かに気づいたようで。

 顔を上げたジボランは顔面を蒼白にさせ、口をぱくぱくと動かす。


「それ、その紋章……」


 ジボランの視線はベリウスの首元――赤い紋章に注がれていた。

 ああ、そうか。これを見せつければ話は早かったのか。


「改めて名乗りを上げよう。俺の名はベリウス。七魔皇が一人、ベリウス・ロストスリーだ」


 魔族の中の上位七名と認められたものに、赤き竜の紋章が刻まれ――それを七魔皇と呼ぶ。


 魔族にとって人族を滅ぼす手段としての赤き竜復活は悲願である。赤き竜とのパスが繋がり直接魔力を注げるようになるというのは非常に特別なことで(ベリウスはそんなことに興味はないが)、魔族にとって七魔皇とは絶対的な存在に他ならない。


「た、大変な失礼をしました……ベ、ベベリウス様」


 慌てたジボランは平伏し、声を震わせる。


「あなた様に逆らおうとは思いません。集めた魔力も全て捧げます。どうか、かの赤き竜に納めてくださいませ」

「なぜだ」

「……な、なぜと申しますと」


 ジボランは当惑して首を傾げる。

 本当はわかっている。魔族と人族は元々一つだった。赤き竜の魔力に強く惹かれ、その姿を変えたのが魔族の始まりであり、赤き竜復活は魔族の本能に近い部分に刻まれた使命のようなものである。


 だから、魔族は皆、赤き竜の復活を掲げ、人族を襲う。

 交戦的で、仲間意識には乏しく、しかし、力の強い者は正義だ。


「俺の魔力は俺のものだ。俺の目的のために使う。赤き竜など知らん」

「…………」


 それはジボランの埒外の価値観だったのだろう。

 口をあんぐりと開け放心する。

 が、すぐに方針を切り替え言葉を続ける。


「わ、わかりました。では、その目的が無事達成できるよう、わたしいも協力させていただきます。あなたさまの軍勢の末端にどうかわたしいを加えていただければと」


 だが、それでも答えは変わらない。


「なぜだ」

「若輩者の身ですが、あなたさまの盾くらいにはなりますう! だから!」


 顔色を変えないベリウスに旗色の悪さを感じたのだろう。

 立ち上がったジボランは、必死に自分の有用性を訴えようとする。


 別にジボランが弱いとは思わない。レベルの問題はどうとでもなるし、近距離物理に特化した育成は正直悪くないと思う。

 だが、それだけだ。


「何人もの人族を手にかけてきたのだろう? 今日はお前の番だった。それだけの話だ」


 わざわざ手を差し伸べる理由もなければ、仲間に引き入れるほどの価値もない。

 それならば、目的の邪魔を――ティアナディアを救う邪魔をする可能性があるのならば、殺してしまうのがいい。


 ベリウスは奴隷の少女の位置を確認してから、杖を掲げる。


「詠唱破棄――【プロミネンス・ピラー】」


 初級、中級、上級の次――超級を冠する、魔法。ベリウスは杖を掲げ、次は一撃でHPいのちの全てを刈り取る灼熱の魔法を唱える。


 髪を逆立てさせ、大地を震わせるほどの魔力が滾り、それは放たれた。


「……な、にそれ。やだ、嫌だ、嫌だ」


 呼吸をすれば肺が爛れ、瞬きをすれば網膜が焼かれるほどの熱波。

 轟々と燃えるそれは黄金の炎の光線、いや、柱だった。

 景色を歪ませ、辺りの建造物を熱で溶かし、ジボランを包んで柱が立つ。

 ひとたび触れれば体が黒々とした墨と化すほどの熱がいきり立ち、天を突いた。


「ま、待って。どうか慈悲、お慈悲ああああああぁぁああ――ッ」


 王都中に絶叫が響く。

 その絶叫ごと飲み込んで、赫灼の熱柱はジボランを跡形もなく消し飛ばした。


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