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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ようせいかくし

作者: 蝶夏


 ちょっと。そこの、ざんぎり頭の。


 君のことだ、そう、そこの小僧。

 こんな夜更けにこんな所で、どうしたんだい?


 はあ、肝試し……ねえ。

 なるほど、そういうことをやりたがる年だろうなあ。だが、感心しないねえ。

 お前さんみたいな小さい子供が、こんな時間に森の奥深くに来るなんて。


 え? (おれ)も似たような年だろうって? はは、人を見かけで判断しちゃいけねえ。こう見えても(おれ)は結構な年だぞ。何歳か当ててごらん? 十八歳? ハッ、外れ。もっと上だ。ま、女性に何歳に見えると聞かれて、実際の年より若く答えるのは対応としちゃあってるがな。


 ……本当は何歳かって?


 さあな? 二百を越えた辺りで数えるのを止めちまったよ。冗談でしょって——まあそうだよ。はは、二百なんてありえねえよな。


 ま、(おれ)の年なんてどうでもいいんだよ。話を戻そうか。こんな夜更けに小さな子供が、森の奥深くにいるってのは感心しねえ。(おれ)が森を抜けるところまで送ってやるから、今日はお家に帰んなさい。


 はあ? さっき転んでケガしたぁ? 動けねえって?


 情けねえな。それでも男か、お前は? 今、そういうの良くないんだって……ああ、何だっけ。膳だ差別、ええ? じぇんだー差別? すまねえな、横文字は苦手なんだ。

 とにかく、動けねえなら(おれ)がおぶっていってやる。さ、乗れ乗れ。

 ああ、そうだ。森をでるまで少し時間がかかるから面白い話をしてやろう。

 この森にはなあ、妖精が出るんだ。海を越えて、どっかの国から迷い込んできた妖精、そ、『ふぇありー』って奴。稲穂色の髪に、小さな体躯、整った顔立ち、蝶々の翅、本当に想像通りの『妖精』さんだ。


 嘘だろうって、そうかもな。でも、こんな言い伝えがあるんだってよ。





 今から二百年以上前、江戸時代と呼ばれていた頃の事だ。

 この辺りでは、鬼が出るって噂があった。

 定期的に子供の神隠しがおこってな。最初は、そこら中の神様を鎮める祭りだとか、お偉い陰陽師様の祈祷だとか色々やったんだがついに収まらなかったんで、結局神隠しは鬼の仕業だろうという結論になったんだ。

 この辺りに住む子供達は「一人で夜歩きしてはいけない」と言い聞かせられていたもんだ。

 ほとんどの奴らは言いつけをきちんと守っていたが、中には破る奴もいた。お前みたいにやんちゃな奴だな。

 その少女も、そんなやんちゃ者の一人だった。


 仮に……そうだな、『お花』とでもしとこうか。


 お花は、いつものように親兄弟の目を盗み亥の刻ごろに遊びにでた。

 夜遅くにこっそり抜け出して、家の近所を探検するのが彼女の日課だった。

 が、その日は何を思ったのか、満月だから安全だと思ったのか、少し遠くへ行ってみようと思ったのだ。


 探検に夢中になっている間に結構遠くまで進んでしまったようで、気が付くとそこは深い森の中だった。帰り道は分からねえ。途方に暮れていると、誰かに、小さな声で話しかけられた。


「迷ってるの? 助けてあげる」


 そこにいたのは何と、蝶の翅を持つ、一尺ほどの小さな少女だった。髪は稲穂色、瞳は紅、話に聞く海の向こうの服を着ている彼女を見るやいなや、お花はひぃと悲鳴を上げた。あまりに見なれない物だらけだったので、物の怪の類いだと思ったのだ。小さいから、鬼とは思わなかったが。


「悲鳴を上げるなんて失礼ね。わたくし、こーんなに可愛らしいのに」


 そう言うと彼女はその場でくるりと一回転して、お辞儀をした。

 確かに、よく見ると彼女は可愛らしくはあった。不気味だったが。

 助けてあげると言ったのは本心だったようで、彼女についていくと——いやまあ、言いたいことは分かる。でも道が分からなかったから、どんなに怪しくてもついていくしかなかったんだ。

 とにかく、お花は家に帰り着くことができた。何と、無断外出もバレなかった。


 次の日。お花は妖精さんにお礼の品を持っていった。友達になった二人は、その後毎日のように遊んだ。もちろん、子供は出歩くなと常々言われていた夜にこっそり抜け出して、だ。


 そうして三年くらい経っただろうか。その間も、やはり村の子供は何人か行方知れずとなっていた。お花は、愚かなほど怖い物知らずだったから夜歩きを止めなかった。

 いつものように遊んでいた、満月の夜。ふと、妖精さんはこんな事を口にした。

「わたくしのお家に遊びに来ない?」

 もちろんお花は行くと答えた。断る理由は無かった。


 妖精さんについていくと、たどり着いたのは一本の大木だった。

 そこにつくなりお花は驚いて腰が抜けた。


 大木の周りには子供の物とみられる人骨が沢山散らばっていたのだ。

 どういうこと、と震える声でお花は尋ねた。

「ああ、この子達はね。ちょっと強引に遊びに来てもらったの」

 彼女はあくまで普通の声色で言った。

「わたくし、たくさんの子と仲良くしたいの。だからたまにさらって連れてくるのよ」

 さらっと、何でも無いことのように彼女は言う。

「あなたみたいに毎日遊びに来てくれる子、他にはいないわ。ありがとう、あなたは一番の友達よ」


 どうして、とお花は声を漏らした。


 どうしてこんなひどい事できるんだと、お花は妖精さんに言った。


「ひどいこと……? 『これ』ってひどいことだったのね。ごめんなさい」

 これからは止めてくれるか、とお花は尋ねた。

「うーん、気を付けるけど、寂しいと我慢できないかも……あ、そうね!」


「あなたがいつも一緒にいてくれれば寂しくないわ! ねえ、夜だけと言わず朝も昼もずーっと一緒にいましょ! そしたらわたくしも誰もさらわなくないでも大丈夫になるから!」


 その提案にお花は乗った。

 お花は行方知れずになり、それっきり神隠しはおさまった。





 ん、何震えてんだ? ああ、一ヶ月前の行方不明事件? 妖精さんはもう人をさらわないはずじゃって?

 ああ、まあ、普通に人間の誘拐犯だろう。大丈夫、大丈夫。ちょっとやんちゃ坊主を怖がらせようと思って話しただけだから。妖精さんなんていないよ。

 嘘だって? 本当にいないなら、今通り過ぎた大きな木の根元にある「何か」は何なのって? ……今夜は月が暗い、見間違いだ。そもそもお前さんは肝試しに来たんだろう? そんなに怖がりでどうする。



 今日話したことは、まあ……ほら話だが、夜は危険だ。森に一人で来るなんてもう止めろよ。









 ああ、そうだ。やっぱり本当のことを伝えておこう。お前さんには色々と話しすぎた。

 妖精さんは、我慢できなかったんだ。二百年以上経って新しい友達がやっぱり欲しくなってきて、もう一人さらってきてしまったんだ。

 ああ、怖がらなくてもいいよ。妖精さんはいない。もういない。間違いを犯しすぎたからね。この辺が潮時だったのさ。

 妖精さんはもういないけど、やっぱり夜は危険だ。怖い人も人じゃない奴らもたくさんいる。

 さ、森の出口だ。(おれ)が送れるのはここまで。

 家にお帰り。そろそろ痛みも引いただろう。歩けるな?

 まっすぐ帰って、次はお天道さまの高い時分にたくさん遊びなさい。




 ……………………決して、(おれ)みたいにならないように。気を付けなさい。


ここまで読んでくださりありがとうございます!

夏なので突発的にホラーを投稿したくなりました。かなり前に書いたワンライ(を目指そうとして五分オーバーしたもの)を推敲した短編です。


ちょっと分かりづらかったかもしれないので……以下作品の補足です。

 ↓

作中でおれと言っているのは女の子です。昔々は「おら」が変化して「おれ」という一人称を使う女性もいたらしいとどこかの民話集で読んだのでこのお話では一人称をおれにしてみました。

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