表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/35

第8章『鋼鉄の守護壁』

審判の手が振り下ろされた。


審判「――第一戦、開始!!」


開始の合図と同時に、塗男が踏み込んだ。


刷毛 塗男「“有機溶剤錯乱シンナー”!!」


腰の小瓶を空中で破裂させ、揮発した溶剤が風に乗って組也の視界を包む。


刷毛 塗男「“塗装養生マスカー”展開!」


手首のスナップで透明のシートが空中に走り、鋭角に折れ曲がりながら敵を囲む。


刷毛 塗男「“塗料調合シャッフルペンキ”――全配合ッ!」


背後で塗料を混ぜる音が重なり、瞬時に五色のスプレーが構えられる。


刷毛 塗男「“転がし塗装ローラーペイント”!!」


地響きを立てながら、巨大ローラーが鉄骨の床を削って転がる。


刷毛 塗男「“養生区画マスキングテープ”!」


逃げ場を削り、床を封じる。


刷毛 塗男「“塗料爆破ペイントボム”!!」


塗料が爆発し、一斉に火花が走る――!


そのすべてが、一呼吸のうちに叩き込まれた。

爆煙が咆哮を上げて巻き上がる。


塗男は肩で息をしながら、足元の力が抜けそうになるのを必死に堪えた。


刷毛 塗男「……やったか……?」


誰もが息を呑んだ。


その時だった――。


煙の中から、ゆっくりと一歩、影が現れた。


足鳶 組也「……終わりましたか?」


その声は穏やかで、かすかに微笑んでいた。

視界が晴れていく。


そこには――傷ひとつない、完璧な足場材の“壁”が立っていた。


釘宮 大工「な……あれは……?」


足鳶 組也「“足場材の守護アンチスリップメタル”。

床養生にも使う滑り止め素材でして。衝撃吸収と防御力においては一級品ですよ。」


足元から天井まで届くかのような鉄壁。

塗男のすべての攻撃は、その“壁”に届くことすらなかった。


刷毛 塗男「チッ……だったら、もう一発――!」


塗男が再び技を叫ぼうとした、その瞬間だった。


足鳶 組也「では、こちらも……一撃だけ失礼いたします。」


組也が右手を振る。


足鳶 組也「“長尺支柱のサブロク”――」


空中に現れた、光る一本の足場支柱。

3.6m級の鋼鉄の柱が、唸りを上げて飛ぶ。


――ザクッ!!


刷毛 塗男「うぐッ……!」


その支柱は、塗男の左脚を真正面から貫いた。

地面に倒れ込み、口から鮮血を吐く。


審判が駆け寄る。


審判「ストップッ!! 刷毛 塗男、戦闘不能!!」


足場技研の仲間たちの叫び声が上がる。

組也は微笑を絶やさない。


足鳶 組也「ふぅ……。

さて、あなた方三名のうちで、いちばん経験豊富に見えた彼が倒れてしまいましたが……」


組也は丁寧に首を傾げる。


足鳶 組也「――まだ、続けますか?」


場は静まり返る。


血に染まった床。

倒れた塗男を見て、大工は不安を抱えていた。


そのとき――


金槌 掛矢「……やるしかねぇだろ。」


掛矢が一歩、前に出る。


釘宮 大工「……掛矢……」


金槌 掛矢「やる前から負けること考えてたら、もう職人じゃねぇ。

俺はあいつにやられるかもしれねぇ。でも――この現場の空気を、今すぐ変えてぇんだよ。」


掛矢は塗男の隣をすれ違いながら、ひとこと呟いた。


金槌 掛矢「……見ててくれ、あんたも社長だろ。」


組也はその姿を見て、また笑った。


足鳶 組也「ふふ……やはり、あなたが次ですか。

よろしくお願いいたしますね、掛矢さん。」


次なる戦いの幕が、静かに――だが確実に、上がった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ