第30章『交差する決意、交わる視線』
鋼製の階段を踏みしめるたび、冷気にも似た緊張が足元から這い上がってくる。鉄と塩の匂いが入り混じる、無機質な現場空間――その“2階区画”は、すでに完全に支配された領域だった。
先頭を歩く釘宮 大工の背中は、言葉以上に重みを帯びていた。その後ろに続く足鳶 組也と上田 鉄太。誰一人として言葉を発しない。
しかし、心は燃えていた。
鉄太は階段を一歩一歩登るたびに、拳を握りしめる。目指すべき敵の姿はまだ見えないが、その気配は奥底に根を張るように、確かにこの空間に存在していた。
(未知の相手……だが、俺の鉄筋は、もう迷わねぇ)
一方、組也は一つ深く息を吐いた。自らが志願して臨んだ修行。それを経て、ようやく“鳶”としての矜持を手にした今、彼はこれまでとは違う。
そして大工は、重なるように胸を打つ鼓動を静かに受け止めながら、目の前の分厚い鉄扉へと手を伸ばした。
ギィィィ……
鈍い音と共に扉が開かれ、冷え切った空間が三人を包み込む。
そこに、待ち構えていたのは――
管田 吉彦。株式会社アルファテックの社長にして、神格者。
そして、その隣に立つのは専務・原田 開先、部長・松本 流斗。3人の眼差しは、すでに戦いを受け入れていた。
管田 吉彦「ようこそ。再び、ここへお越しいただきありがとうございます」
その言葉は穏やかでありながら、底知れぬ圧を孕んでいた。敬語の中に込められた支配者の自信と覚悟。それは、まさしく“上”の存在が持つ気配だった。
釘宮 大工「……あぁ。今回は、はっきり“戦い”に来た。逃げも隠れもしねぇ。こっちは三人。それぞれ、一戦ずつ受けてくれ」
管田は目を細めたまま、柔らかく首を傾げた。
管田 吉彦「なるほど。つまり、勝ち抜き形式ではなく、三戦それぞれで力を尽くすと?」
釘宮 大工「あぁ。それが、俺たちの覚悟だ」
組也と鉄太が一歩前に出る。
原田 開先「では、私が先に行かせてもらいましょう」
組也はその言葉に、わずかに目を見開き、口元を引き締める。静かに首を縦に振った。
足鳶 組也「お言葉、ありがたく……頂戴します」
その一歩に、迷いはなかった。体を貫くような重圧を真正面から受け止めるように、彼はゆっくりと原田に向かって進み出る。
原田も、静かに右手を胸に当てたあと、構えを取る。
その姿は、まさしく“迎え撃つ者”の余裕に満ちていた。
釘宮 大工「――さあ、ここからが本番だ」
緊張と静寂を裂いて、今戦場が開かれる。




