第29章『再起する3人の職人』
1階。釘宮工務店占領区画。
まだ日が昇りきらぬ空の下、薄明かりの差し込む一角に、一つのテーブルが置かれていた。
その席に――
釘宮 大工、足鳶 組也、上田 鉄太。
三人の男が静かに座り、それぞれの前に置かれた缶コーヒーの湯気が、微かに揺れていた。
誰も、最初に口を開こうとはしなかった。
鉄筋、足場、大工。
三者三様の職能と矜持を背負いながら、今まさに彼らは“次なる戦い”へと歩み出そうとしていた。
釘宮 大工
「……やれる事はやった。」
ようやく発せられた声に、組也と鉄太がそれぞれ目線だけで応えた。
釘宮 大工
「正直言えば……怖ぇよ。管田にやられた時の、あの無力感、今でも忘れられねぇ」
拳を握る。
あの夜、管田に届かなかった“玄能”の手応えが脳裏をよぎる。
釘宮 大工
「でもな。あの時からずっと、自分を磨いてきた。修行して、じいちゃんの言葉を追って、ようやく少しだけ……“本物の職人”に近付けた気がする」
その言葉に、組也が静かに息を吐いた。
足鳶 組也
「私も……同じです。前は、自分が強いと思い込んでた。足場を自在に操れる自分が、誰よりも上だって……」
彼は、握っていた軍手をゆっくりと膝の上に置いた。
足鳶 組也
「でも……管田さんの圧に負け、自分の“空っぽさ”を思い知りました。だから、空鳶組の米森さんと、重原重量の原さんに、頭を下げて……叩き直してもらってきたのです。」
そして、わずかに目を伏せて続ける。
足鳶 組也
「前回は“勝てた”けど……それが、実力だったのか、まぐれだったのか……今も正直、不安はあります」
だが次の瞬間、組也は顔を上げた。
その瞳には確かな光があった。
足鳶 組也
「それでも……あの修行の日々が、“無駄じゃなかった”って信じてます。俺はもう……あの頃の俺じゃない」
その言葉に、大工も微笑んだ。
釘宮 大工
「わかるぜ。その気持ち……すげぇ、わかるよ」
そして、二人の視線は自然と――鉄太へと向いた。
無言のまま、缶コーヒーを一口。
しばしの沈黙のあと、上田 鉄太はゆっくりと語り出した。
上田 鉄太
「……」
言葉を発さなくとも伝わる、上田の真剣な想い。
彼の手が、ポケットの中で拳を握った。
上田 鉄太
「俺は鉄筋屋だ。構造の骨を組むのが俺の仕事。だけど……戦う中で、“骨”だけじゃ足りないと思った。“意志”がなきゃ、どれだけ強い鉄筋も崩れる」
その眼差しは、遥か遠くを見つめていた。
上田 鉄太
「未知の敵――松本。どんな奴かも分からねぇ。けど、俺はもう、あの頃の自分とは違う。だから、むしろワクワクしてる。今の俺なら、“やれる”ってな」
釘宮 大工
「……あんたらしいっすね」
大工が静かに笑った。
釘宮 大工
「俺も、まだ新しい技は使えねぇ。でも……手応えは感じてる。ほんの少しでも、自分自身の成長ってやつを、確かに掴みかけてる気がするんだ」
上田 鉄太
「不安と自信は、同時に抱えてこそだ。」
足鳶 組也
「……ええ。前に進む時に、“怖さ”がないなんて、きっと嘘ですから」
釘宮 大工
「でも、その“怖さ”を乗り越えてこそ、職人だ」
三人の間に流れるのは、静かな熱だった。
派手な拳も、誓いの叫びもない。
けれどそこには、確かに“信念”があった。
釘宮 大工
「行こうぜ、2階へ。……あの時はバラバラだったけど、今の俺たちは――“仲間”だからな」
上田 鉄太
「……よし……」
足鳶 組也
「……あの上で、必ず証明してみせます」
三人は同時に立ち上がる。
それぞれの想いを胸に迷いなく歩き出す。
鉄の階段を上る音が、現場に響いた。
カン……カン……。
その音は、仲間たちの耳に深く刻まれていた。
小手屋 学
「……行ったな」
刷毛 塗男
「ああ。今のあいつらなら――やれる」
緑山 葉太
「私もすぐ後を追います。必要になったら、どこででも治療します」
水上 雫
「よし。行くか。」
誰もが、信じていた。
そして2階――
戦場の静寂の奥で、“神格者”たちは、その訪れを待ち構えていた。
次の戦いが、今、始まろうとしている。




