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第2章『異国の3兄弟』

――立体駐車場の奥、ヤードの出口に朝の光が差し込む。


元「よし、大工。出るぞ。」


釘宮 大工「ああ。」


親父、俺、そして副棟梁の鑿。三人は“有限会社 釘宮工務店”として、今まさにガテン国の戦場へと足を踏み出す。


重い空気が、地を這うように漂っていた。

そこには、コンクリートの破片。折れた足場。剥がれた養生シート――戦場の残骸が静かに転がっている。


釘宮 大工「……ここが、現場の中か。」


元「……なあ、大工。ガテン国の中でも、ここは“フロントライン”だ。」


歩きながら、親父がぼそりと呟く。


元「日本政府はな、和解を装って、たまにタバコや食い物を郵便で送りつけてくる。

だけどよ、それがクソみたいに足りねぇ。

何日分あるって? 一日だよ。3人で分けても足りねぇレベルだ。

それでも、どこの会社もギリギリの物資で耐えて、毎日生き残るために他社と殴り合ってんだ。」


釘宮 大工「……そんな状況で、なんで誰も外に出ないんだ?」


元「……それが職人ってもんだ。

この“現場”は、俺たちが命をかけて築いた砦だ。誰にも渡さねぇ。

……それに、ここでしか生きられなくなった奴らも多い。」


その言葉は重く、静かに胸に沈んだ。


――そして、その“空気”を切り裂くように、笑い声が響いた。


???「ヘイ、そこのシンジン! ナニ、ヨソモノ、キテル!!」


目の前に現れたのは、色違いのペンキまみれの作業着を着た三人組。

顔立ちからして外国人研修生。左胸の社名ロゴには――


『株式会社 塗装戦隊』


元「……あいつらは“ペーンキ三兄弟”。塗装戦隊の技能研修生だ。」


ペーンキ・ヌリール(長男)

「ワレワレ、アナタタチ。チョットアソビ。タノシイネ?」


ペーンキ・ヌリトス(次男)

「ケイヤクアリマス! タバコワンカートン、オマエラマケタラ、クダサイ!」


ペーンキ・ヌリゾウ(三男)

「アナタタチ、カツナラ……ワレワレ、ボスニ、デンワ、シマスネ!」


元「ふん、なるほどな。俺たちが勝てば、塗装戦隊の社長に区画を賭けた勝負を要求してくれるってことか。」


釘宮 大工「……悪くねぇ話だな。」


元「よし、乗った。ルールに則って、1対1。まずは俺が出る。」


親父が前に出ると、長男ヌリールが、ローラーとハケを両手に持ち、腰を落とす。


ペーンキ・ヌリール

「オレノ“ギジュツ”……ミセマスヨ……!

錆防止塗装(タッチアップ!!)」


次の瞬間、グレーの塗料が飛んだ。

ローラーとハケを素早く交互に振るい、霧のように塗料を飛ばしてくる。


釘宮 大工「……うっ、なんだこれ……?」


後ろで見ていた俺の作業着に、塗料の粒子が触れた瞬間、一瞬で体が重くなるのを感じた。

呼吸すら浅くなり、感覚が鈍る。


元「……それが“錆防止塗装タッチアップ”だ。

当たると精神が微妙に削られ、動きが鈍る。

しかも――」


親父が攻撃を避けながら、後ろに声をかける。


元「新品の作業着ほど、この技に弱ぇ。 塗料が綺麗に乗っちまうから、見た目が最悪になるんだ。精神ダメージもデカい。」


釘宮 大工「クッ……これが技術と経験の具現化……

ガテン力かッ…!!」


ヌリールの塗料が、次々に飛ぶ。親父のすぐ横をかすめる。

だが――当たらない。


親父は、一歩も動かず、身体だけで全てを避けている。


ペーンキ・ヌリール「ナ……ナゼ、アタラナイ……?」


元「見習いが、俺に当てようなんざ十年早ぇ。」


その言葉と同時に、親父の姿が消えた。

いや、視界の外に回り込んだだけ――だが、速い。


背後に現れた親父の手には、大ぶりのハンマー。


――ドンッ!


鈍い音。

ペーンキ・ヌリールの身体が、その場で崩れ落ちた。


釘宮 大工「……終わった……のか?」


元「ああ。後頭部を軽く叩いただけだ。死んじゃいねぇよ。」


ヌリールの目は白目を剥き、完全に気を失っていた。


元「研修生相手に、俺のガテン力は使う必要なかったな。」


次男と三男は、その様子を見て震え始める。


ペーンキ・ヌリトス「ア、アニキ……!」


ペーンキ・ヌリゾウ「コロサナイデ! ワレワレ、モウ、タタカワナイ!」


地面にひれ伏し、命乞いをする。


元「バカか。殺しちゃいねぇよ。気絶してるだけだ。」


そして、親父は次男に鋭く告げた。


元「いいか、塗装戦隊の社長にこう言ってこい。

“有限会社 釘宮工務店が、区画を賭けて勝負を申し込む”ってな。」


次男がハッとして、頷く。


ペーンキ・ヌリトス「ハイ、イマスグ、イイマス!」


そして三男が、気を失った長男ヌリールを背負い、バランスを崩しながら奥へと駆けていった。



数分後――


鉄骨の影から、明らかに異質なオーラが近づいてくるのを感じた。


釘宮 大工「な、なんだこの圧……!?」


そして、現れたのは三人の男。


中央の男は、派手なペンキ柄の作業着に身を包み、全身に何層もの塗装痕を刻んだ男。

その右に、白いマスクの専務。左に、無表情な部長。


彼らこそ――


株式会社 塗装戦隊:社長・刷毛はけ 塗男ぬりお

専務・刷毛はけぬり 塗藤ふじ

部長・刷毛はけ 塗三郎ぬりさぶろう


釘宮 大工「……これが……塗装戦隊のトップか……!」


そのオーラの圧に、思わず一歩後ずさる。


元「気を抜くな、大工。来るぞ。」


棟上 鑿「ふっ……ようやく面白くなってきやがったな。」


塗装戦隊との本格的な戦い――

今、火蓋が切って落とされようとしていた。


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