第24章『迷宮で追及』
仮設された一人部屋の簡素な布団の上――
上田 鉄太は静かに横たわり、手にした虫かごの蓋を開けた。
小さなミミズが這い出し、床の上でくねる。
その柔らかな動きに目を細め、鉄太は、鋼のような意志をもって掌をかざす。
(付き合わせて悪いな。人に頼るのは、どうも性に合わなくてな。)
鉄太はゆっくりと深呼吸し――
その技を、静かに唱えた。
「迷宮鉄筋」
その瞬間。
空間がねじれ、視界が歪んだ。
仮設部屋の薄汚れた天井は消え、周囲を覆うのは――
四方八方に伸びる鉄筋の壁。
無限に重なり合う交差構造。
終わりの見えない迷路。
そこは、“鉄太が生み出した仮想世界”だった。
現実世界では、鉄太の身体がぴくりと震えた後、静かに床に崩れ落ちる。
仮想世界に意識を転送した代償――
これは、力と覚悟の代償だ。
仮想迷宮内、中心区画。
鉄太は、ひとりその鉄筋に囲まれた空間に立っていた。
(……ここだ。これが、俺の“戦場”)
仮想空間の中では、ミミズは意思を伝えようとしているのか、まるで怖がっているのかのように小刻みに震えていた。
(すまん。だが、強くなる為なんだ。)
鉄太は心の中でミミズに謝り、仮想世界を歩きはじめた。
鉄筋の壁を撫で、素材の密度、硬度、反響――すべてを感じ取る。
(まずは構造だ。
この迷宮、現状は四層まであるが…対人戦で使えそうなのは二層目までだな……
それ以上は戦闘には不向きな空間設定になっている…)
鉄太は歩く。
鉄筋の階段を上り、角を曲がり、天井の低い通路を抜ける。
視界には、径や長さがバラバラ、大小不揃いの無数の鉄筋が蔓延る空間が続く。
(戦いの舞台が迷宮ってだけじゃ、ただ相手を閉じ込めるだけの能力になってしまう。
必要なのは……“ここでどう勝つか”だ)
鉄太は、鉄筋の交差点に立ち止まった。
目を閉じ、鉄筋を握る。
(想像しろ……ここに敵が来たとき、俺はどう動く? どう仕留める?)
足元の鉄筋が、意識に呼応するように変化した。
螺旋階段、可動する壁、落とし穴――
(誘導して閉じ込めるだけじゃ足りねぇ。俺自身が“この世界で最強”じゃなきゃ、意味がない)
両腕を開き、頭上の鉄筋を伸ばしてみる。だが――
(……違う。これじゃ防御寄りだ。もっと……敵を“撃ち抜く”イメージを)
何度も構築しては崩し、広げては畳む。
アイデアは出るが、すべて“何かが足りない”。
(駄目だ……まだ“形”にならねぇ)
(でも……)
鉄太は、迷宮の最奥――仮想空間の壁際に立ち止まり、そっと掌を添えた。
その指先に、ほんの微かだが、確かに“感触”があった。
(……進んでる。まだ形はなくても、“何か”に近づいてる)
だが、もどかしさはあった。
もうそこに見えている気がする。
だが掴めない。
(焦るな……
鉄筋迷宮は、俺のフィールドなんだ。)
彼は再び、意識を研ぎ澄ました。
こうして――
上田 鉄太の“孤独な迷宮”の修練は、まだ続いていく。




