第23章『未完の花弁 満開を追う』
立体駐車場の最上階。
釘宮 大工は、冷たい床に正座し、手のひらに握った玄能を静かに見つめていた。
釘宮 大工「……頼む。“ほ”とか“る”とかは、やめてくれよ……!」
目を閉じ、深く息を吸い込む。
そして――
釘宮 大工「玄能百式――刻印花弁!!」
振り下ろした玄能が、鉄板の床を鳴らす。
刻まれた文字は――“ぬ”。
釘宮 大工「……蘇生……仲間に対してだったら強ぇが……戦いじゃ意味ねぇ…」
そう呟いた彼の声は、どこか悔しさと諦めが混じっていた。
“いろはにほへとちりぬるを”――
この技の最大の欠点は、刻まれる文字を「選べない」こと。
しかも、刻んだ瞬間に発動する“外れ技”も存在する。
味方を救える可能性もあるが、それは完全な“運頼み”だ。
釘宮 大工「……これじゃ、仲間を守れねぇ。
“未完成”ってのは、こういうことかよ……」
拳を固め、玄能を強く握り直す。
その時、背後から聞き慣れた声が響いた。
釘宮 元「……焦ってるようだな、大工」
釘宮 大工「親父……。いや、そりゃ焦るさ。こんな博打みてぇな技じゃ、仲間を巻き込むだけだ」
元は静かに歩み寄り、大工の隣に腰を下ろす。
その目は、どこか懐かしさを含んでいた。
釘宮 元「そういや……じいさんの教えをまとめた巻物が、あの倉庫に残ってたかもしれねぇな」
釘宮 大工「……巻物?」
釘宮 元「あぁ。釘宮 木――お前のじいさんが、自身の技術を記した唯一の記録だ。アジトにしてた立駐の下の資材室にしまってあるはずだ」
そうして2人は、倉庫へと向かった。
埃まみれの資材棚をひっくり返し、ようやく見つけた古びた巻物。
元が慎重に広げると、そこにはびっしりと筆で書かれた文字が並んでいた。
釘宮 元「……あった。“玄能百式――刻印花弁”の項目だ」
【刻印花弁ハ未完成ナリ】
【刻印文字ハ完全無作為】
【制御不可、狙イ不可】
釘宮 大工「……やっぱり、刻印の文字は選べねぇんだな…」
そして――そのすぐ下。
巻物の紙は、時間と湿気により滲み、肝心な技の内容は読めなくなっていた。
だが、その中に――ただ一行だけ、かろうじて読み取れる技名があった。
【玄能百式――満開花冠】
釘宮 大工「……これが、“完成された技”……なのか?」
内容は、何も分からない。
これが、完成された技なのかさえ。
しかし、その名が示すのは、“刻印花弁”の先にある“開花の極み”。
釘宮 元「情報はねぇ。だが……技の名前だけでも、道しるべにはなるだろう」
釘宮 大工「あぁ……。“未完成”じゃ、もう通用しねぇ。
だから俺は――この“満開花冠”ってやつを、絶対に手に入れてやる」
拳を握りしめたその目には、刻印花弁の時とは違う、“確信の光”が宿っていた。
釘宮 元「なら……俺も付き合う。父親として、最後まで責任を取らせてもらうぜ」
玄能を手に立ち上がる釘宮 大工。
夕陽が倉庫の窓から差し込み、彼の背中を橙に照らしていた。
釘宮 大工「絶対会得するぞ、“満開花冠”――ッ!」
その声は、小さくも確かに、空に刻まれた。




