表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/21

第1章『再会と宣戦』

時は流れ、2150年――


釘宮 大工「ここが……ガテン国か。」


目の前にそびえる巨大な鋼鉄の壁は、まるで国境線のようだった。

だがそこにあるのは国家ではない。

元職人たちが、自らの手で作り上げ、守り抜いた“現場国家”――ガテン国。


俺の名前は釘宮くぎみや 大工だいく。25歳。大工歴10年の現場職人。

この国に来たのは一つの理由だけ――この中にいる親父を連れ戻すためだ。


釘宮 大工「よし、早いところ親父を見つけて、母ちゃんに笑顔見せてやらねぇとな。」


母ちゃんの話では、親父はかつてG.T.N.の被験者となり、戦後、このガテン国に残されたままだという。

「仕方ない、仕方ないよねぇ」と呟きながら、夜な夜な泣いてる母ちゃんを見て、俺は決めた。

俺が親父を連れ戻す。俺が、家族を取り戻す。


日本政府はこれまでに何度も謝罪と和解の書簡を送っているが、ガテン国から返事はない。

この“塀の中”で何が起きているのか、誰も知らない。

だが――知る必要がある。俺がその答えを見つける。


釘宮 大工「たのもーッ! 誰かいるかーッ!!」


声と同時に、重たい鉄門を拳で叩く。

ゴォン、という低く響く音が、静寂を切り裂いた。

すると、門の内側からギィィ……と鉄の軋む音がして、ひとりの男が現れた。


金槌 掛矢「……なんだお前。外の人間が、ここに何の用だ。」


年齢は俺とそう変わらないが、その目は、現場で幾度も死線を越えてきた者の鋭さを宿していた。

筋肉の厚み、姿勢、独特な雰囲気――こいつ、できる。


釘宮 大工「俺は釘宮 大工。親父がこの中にいるらしくてよ、迎えに来たんだ!」


その名を聞いた瞬間、男の目が一瞬見開かれる。


金槌 掛矢「……お前、“元さん”の息子か。

俺は金槌 掛矢。元さんの弟子だ。――ついて来い。俺らのアジトまで案内してやる。」


 男――掛矢は背を向けると、門を開いて俺を中へと招き入れた。


足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。

鉄と油、乾いた土と火花の匂い。

そして何より――圧。

目には見えない、だが確かに感じる“重さ”が肌にまとわりつく。


釘宮 大工「……なんだ、この空気……?」


金槌 掛矢「平気そうだな。珍しいよ。

ここじゃ、職人以外の人間は、まともに喋れなくなる。」


釘宮 大工「は? どういうことだ?」


金槌 掛矢「……この国の中には、G.T.N.の接種者、もしくはその血を引く者しかいねぇ。

あの薬で開花した“職人の力”ってのは、単なるスキルや筋力じゃねぇからな。

それぞれの技術と魂が混ざり合って、“気”となって空間を支配してるんだよ。」


掛矢の言葉に、俺は背筋を正した。


金槌 掛矢「国家の職員が過去に何人か入ってきたが、半日で全員が発狂して出て行った。

G.T.N.によって強化された職人たちの“気”は、それほどに強い。

ここはただの現場じゃねぇ。職人たちの魂が渦巻く、異質な空間そのものなんだ。」


釘宮 大工「……そんな場所に、親父はずっと……。」


金槌 掛矢「でも、お前は平然としてる。

つまり――お前も、ちゃんと“職人”ってことだ。」


掛矢に案内されたのは、建設途中の立体駐車場の1階。

防炎シートで仕切られた仮設の空間には、15人ほどの職人たちがいた。

その全員が、俺を見た瞬間に目を光らせた。


金槌 掛矢「見回り終わって戻りました。

それと…元さんの息子を連れてきました。」


静寂――その奥で、ひとりの男が腰を上げた。


元「……お前、大工か。大工かッ!」


間違いなかった。

写真で何度も見てきた、あの親父の姿だ。


釘宮 大工「あ、あぁ……そうだよ。親父!」


親父の目に、確かに涙が滲んだ。


元「……なんで、この現場に来やがったんだ!」


釘宮 大工「なんでって……母ちゃんが、ずっと寂しがってるんだ。

帰ろうぜ、親父。もういいだろ……!」


その瞬間、親父の目が鋭くなった。

空気が変わる。


元「……悪いな、大工。俺は……まだ帰れねぇんだ。」


釘宮 大工「なんでだよ! 母ちゃん毎晩泣いてんだぞ! なんとも思わねぇのかよ!」


元「思わねぇわけねぇだろ! だが、今の俺たちには、どうにもならねぇ事情がある。」


釘宮 大工「……どういうことだよ。」


元「日本政府は、ガテン国に何度も和解の申し出をしてきた。だが、返事を出せるのは“この国の長”――つまり、最強の職人だけ。

だがな、職人って生き物は、全員が“自分が一番”だと思ってる。誰も譲らねぇ。

政府から“この国の長を決めて”…という文面がきてからというもの、この国はずっと内戦状態なんだ。」


釘宮 大工「……そんなの、無視すればいいだろ。母ちゃんが待ってるんだ。帰ろうぜ!」


元「バカ野郎ッ! 他業種のやつに俺が1番の職人だと分からせにゃならんだろう!!

それに、俺はこの現場で“弟子たち”を守ってるんだ!

逃げる背中を、アイツらに見せられるわけがねぇだろうが!」


その言葉で、母ちゃんの声が蘇った。


(「もしお父ちゃんが帰れそうになかったら、あんたが手伝って、2人で帰ってきてちょうだい。」)


釘宮 大工「だったら、俺が手伝うよ。

サッサと現場をまとめて、俺らが一番になって、さっさと帰ろうぜ!

こうやって何もせずウジウジしてんのは職人じゃねぇ!」


元「バカが……。全ての職人をねじ伏せて、てっぺんに立つってのは、口で言うほど簡単じゃねぇ。」


だがその顔は、どこか嬉しそうにほころんでいた。


釘宮 大工「で? 今いるのが立駐だろ? 次に攻める相手はどこなんだ?」


親父が図面を広げる。


元「まずは現場入口の塗装屋集団――株式会社 塗装戦隊だ。

社長の**刷毛はけ 塗男ぬりお**が仕切ってる。X1〜X4、Y1〜Y4の区画を占拠してやがる。」


釘宮 大工「よし、なら早速乗り込もうぜ!」


元「待て、落ち着け。こんな国にも“ルール”がある。

・戦闘は1対1のタイマン形式

・1社3名まで参戦可能

・勝負前に“賭ける物”を提示し、敗者はそれを失う」


釘宮 大工「つまり、区画を賭けて、命を懸けて殴り合うってわけだな。」


元「そうだ。で、お前……**ガテン力**は、使えるのか?」


釘宮 大工「……ガテン力?」


元「G.T.N.の接種者、もしくはその血筋が持つ異能力――

まるでアニメの“技”みてぇな力だ。ここにいる職人たちは、全員それを持ってる。」


釘宮 大工「……わかんねぇ。俺には、まだ何も……」


元「まあいい。お前は俺の血を引いてる。戦いの中できっと目覚めるだろう。

さっきのセリフ――“ウジウジしてるのは職人じゃねぇ”ってやつ、久々に俺を熱くさせたぜ。

――よし、行くぞ。塗装戦隊を叩きに!」


釘宮 大工「さすが親父だぜ! そうこなくっちゃな!」


元「今回は、俺とお前、それと副棟梁の**棟上むねあげ のみ**で行く。他は俺たちの勝利を信じて待ってろ!」


棟上 鑿「やるからには、勝つしかねぇな。行くぞ!」


釘宮 大工「盛り上がってきたぜぇぇッ!!」


弟子たち「頼んだぞォーッ!!」「絶対勝ってくださいよォ!!」


こうして――

俺たちの“現場統一”に向けての戦いが幕を開けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ