第18章『神が咲く刻』
火花が、跳ねた。
鉄と鉄が擦れ合う音が、戦場の静寂を裂いた。
足場上、最後の決戦。
第三戦――釘宮 大工 vs 管田 吉彦。
戦場に、神の気配が漂い始めていた。
管田は、静かに腕まくりをしながら、大工を見下ろす。
その眼差しには、慈しみすら混ざっていた。
管田 吉彦
「まずは……ガテン力のみでいきます。
あなたの“本質”を見せてください、釘宮 大工さん」
そう言うや否や、彼の背後から“蛇のような金属管”が空中を走った。
管田 吉彦
「――高圧供給管」
管の口から、圧縮空気が音を置き去りにして噴き出す。
その風圧だけで、大工の足場が崩れかける。
釘宮 大工
「うおっ……!」
とっさに飛び退くが、視界の端から“何か”が迫ってくる。
配管――否、剛性フレキ管が鋭くねじれながら襲いかかってくる。
管田 吉彦
「次は――可撓管蛇縛」
複数の管が地を這うように駆け、大工の足元に巻き付く。
逃げ場は、ない。
釘宮 大工
「くっそ……!」
咄嗟に玄能で叩き、管を弾く。
一瞬のスキをついて後方へ転がり、距離を取る。
額から、汗。
肩で息をする。
大工は、睨む。だが――
釘宮 大工
(……こいつ、まだ“本気”じゃねぇのか……!?)
管田は一歩も動かない。
ただ、次の工程を“提示”するかのように、淡々と次の技を放つ。
管田 吉彦
「管内熱圧処理――施工」
背後のバルブが開き、超高温のガスが走る。
視界が揺れるほどの熱波。火傷を負う距離にいた。
釘宮 大工
「……ぐっ! 熱ッ……!」
胴に火が触れ、皮膚が赤く染まる。
服が焼け、肘をつく。
呼吸が、乱れる。
それでも、大工は立ち上がった。
目は死んでいない。
釘宮 大工
「まだだ……まだ終わっちゃいねぇ!」
玄能を構える。
が――踏み込みの瞬間、足元に管田の声が落ちる。
管田 吉彦
「――施工完了」
仕掛けられていた圧縮管が爆ぜ、地面が爆風に浮いた。
足場ごと、大工の身体が吹き飛ぶ。
釘宮 大工
「ぐっは……ああっ……!」
背中を打つ。腕が砕ける。
指先が震え、玄能が滑る。
視界がぼやけ、呼吸が途切れる。
手も足も、動かない。
立ち上がろうとした膝が、音を立てて崩れる。
釘宮 大工
「……もう……ダメだ……これ以上は……ムリだ……」
視界が、暗い。
耳も、遠い。
“ああ、俺は死ぬのか”
そのときだった。
“風”が、吹いた。
周囲に、光が舞う。
それは光ではない。
花弁。
無数の、赤黒く光る金属の“花弁”が、静かに大工の身体の周囲に集まっていた。
釘宮 大工
「……なんだ……これ……?」
花弁が浮かび、身体に触れた瞬間――
玄能が“共鳴”した。
ガキィン、と金属が鳴る音。
脳内が、冴え渡る。
身体の痛みが、消えるわけじゃない。
でも、“立てる”と分かった。
手が、再び玄能を握る。
釘宮 大工
「玄能百式――刻印花弁……」
初めて聞く自分の声が、妙に静かだった。
まだ、この技が何かは分からない。
だが、確かに“何か”が始まった。
口元に、力が入る。
釘宮 大工
「どんな技かは知らねぇが……
こっからが本当の勝負だぜ」
神が、咲いた――。