第16章『閃熱と足場』
現場の空気が、ピリついた。
誰もが息を詰め、言葉を飲んで、ただ見守っていた。
足場の区画中央。先鋒戦が、静かに幕を開けようとしていた。
まず、溶接面をぐっと深く被りながら一歩前へ出たのは―
松本 流斗
「……先にいくぜ。」
低く抑えた声。だが、その足元には小さな火花が散っていた。
靴裏に装備された微電導パネルから、溶接熱が走る。
足鳶 組也
「どうぞ。構いませんよ。お手並み、拝見させていただきます」
そう言って静かに構える組也。
表情は変わらず穏やかで、その両手は背後の足場材に軽く触れている。
操作の準備は、すでに整っていた。
風が一瞬止まった気がしたその時――
松本 流斗
「――閃光拡散!」
鋭く叫ぶと同時に、顔面の前で片手を振り抜いた。
その瞬間、指先から広がるように白銀の閃光が爆ぜた。
猛烈な光量が現場全体を照らし、周囲の視界が真っ白に染まる。
釘宮 大工
「うおっ……まぶしっ……!」
釘宮 元
「普通現場で使うか、こんな技ッ……!!」
一方、組也は動じなかった。
光が放たれると同時に、手元で足場材を瞬時に操作。
前方の手すりを跳ね上げ、光を遮るように瞬間的な壁を作り出す。
その影で、組也の瞳は細く鋭く、相手の動きを読み続けていた。
足鳶 組也
「なるほど……“眩しさ”で動きを制する技。ならば、私の足場に頼らせていただきます」
松本 流斗
「なら、次は……焼き尽くす。」
松本の足元から熱が走る。
両手を前に突き出し、空中に瞬間的な“溶接の火柱”を形成する。
松本 流斗
「――溶接熱砲!」
地を這うような轟音とともに、赤熱化した熱波が直線で走る。
釘宮たちが思わず後退するほどの温度と風圧。
目に見えるほどの熱流が、組也の正面を焼き払おうとしていた。
だが。
足鳶 組也
「――足場自在操作」
その声と同時に、組也の足元から何本もの足場材が伸び、螺旋状の構造を組み上げる。
熱砲を捻じ曲げるように、空間そのものをねじる構造体が完成していた。
熱線は足場に吸い込まれ、何も焼かずに消える。
周囲がどよめいた。
釘宮 大工
「……今、あれ……受け流した……?」
釘宮 元
「ほう。足場だけで、あの攻撃を無力化したのか。」
組也は一切表情を変えず、ただ足元のパイプを踏みしめる。
足鳶 組也
「攻撃は確かに優秀でした。ですが、私に届かせるには――まだ足りません」
その言葉と共に、組也の背後で“階層型足場”が音を立てて起動する。
瞬時に足場が三段重なり、上下から松本を囲む。
松本が一瞬身を引く。
だが、その狭い空間では溶接技の発動も遅れる。
松本 流斗
「っち……!」
一瞬の逡巡。それが命取りだった。
足鳶 組也
「――落とさせていただきます」
組也の掌が足場材を握る。
その操作と同時に、松本の足元が“自動落床”し、
バランスを崩した彼の身体が、斜めに傾いた瞬間――
背後から突き出た一本の足場支柱が、松本の腰を正確に打ち抜いた。
呻く暇すらなく、松本はその場に崩れ落ちる。
沈黙。
次の瞬間、審判役の職人が手を挙げる。
審判職人
「第一戦――足鳶 組也の勝利ッ!」
どよめきが走る中、組也は一歩引き、静かに礼をとった。
足鳶 組也
「ありがとうございました。確かな技術でした」
溶接面を下げたまま、松本は悔しげに顔を伏せた。
その掌は、わずかに震えていた。
現場の熱が、次なる戦いの鼓動を伝えていた――