第14章『建神 胎動』
仮設された会議室に、再び十一社の代表が集まっていた。
1階の覇者となった彼らが、次なる階層――“2階”へと進むために、今、最重要の会議が始まろうとしていた。
中央に設置された足場材製の円卓。簡易LEDの灯りが場を照らす中、張り詰めた空気を裂いて立ち上がったのは――
足鳶 組也「皆様。次なる相手、“2階の支配者”について、お話しさせていただきます」
全員の視線が一点に集まる。
足鳶 組也「2階は、“株式会社アルファテック”が完全に掌握しています。
その社長――管田 吉彦は、私が知る限り最も危険な男です」
その名が出た瞬間、元・2階組の顔が曇った。
山本電気、内村装士、緑山葉太――三人がそっと視線を交わす。
足鳶 組也「彼は、配管という分野において、材質・長さ・径にかかわらず、あらゆる管材を具現化し、自由に操作します。
巨大なフランジを出現させて対象を挟み潰し、宙に浮かせた検査用ミラーで現場内の全てを監視する。
さらに、ティグ溶接による目潰しと熱攻撃……
すべてが高精度、かつ強力。あれこそが、戦闘と施工の完成形と言えるでしょう。」
内村 装士「っす……あれ、マジで目焼かれましたもん……もう勝てねぇって、体が言ってたっす……」
山本 電気「あの時感じた圧は……人間のものじゃなかった」
足鳶 組也「私も同じ気持ちですよ。
実は、2階にいた時、管田 吉彦から“配下になれ”と勧誘を受けたことがあります」
視線が一斉に集中する。
足鳶 組也「その時、彼はこう言いました。
“俺はもう誰にも負ける心配がない。なぜなら、神の力に手が届いたからだ”と」
場が凍りつく。
足鳶 組也「その時、技は見ていません。ですが……私は立ち上がれなかった。
その場にいるだけで、背中に氷を押し当てられているような錯覚。あれは、私たちの“職人としての力”では太刀打ちできない――別次元の力でした」
卓を囲む全ての職人が、グッと息を呑む。
足鳶 組也「私はその存在に、“名前”をつけました。
それが――“建神力”です」
沈黙が落ちる。
足鳶 組也「ただし……その気配を感じたのは管田 吉彦だけではありません。
2階にいた頃、私は“3階”からも似た気配を感じたことがあります。
遥か上方から、圧倒的な何かがこちらを見下ろしているような感覚……
そして、釘宮 大工さん。あなたからも、それと同質の気配を感じたのです」
ざわりと空気が揺れる。
釘宮 大工「……俺から?」
立ち上がったのは、彼の父――
釘宮 元「……話す時が来たようだな」
全員の視線が元へと向かう。
釘宮 元「実はな……俺の親父――お前の爺ちゃん、“釘宮 木”は、日本政府が極秘に進めていたGTN開発計画の、第一号被験者だった」
釘宮 大工「なっ……!」
釘宮 元「あの頃の政府は、既に世界戦争を見据え、核を持たずとも戦える手段として“職人の異能化”を画策していた。
GTN――通称“ガテン錠”はその成果だ。
だが初期のGTNは不安定でな、親父は激しい副作用と戦いながら、現場に立ち続けた。
そして、己のために生み出した技がある。
それが――“木造建方釘宮流”だ」
釘宮 大工「掛矢が使ってた技か……!」
釘宮 元「あぁ。掛矢には俺が教えたが、アイツには“釘宮の血”が通ってねぇ。
だから未完成なんだ。発動するたびに、失神するのはその為だ。
完全な木造建方釘宮流は、“釘宮家の血統”でしか扱えねぇんだ」
釘宮 元「だが、親父が遺したのはそれだけじゃない。
もうひとつ、俺にも伝わらなかった――だが、お前にだけ発現した技がある」
釘宮 大工「……玄能百式……」
釘宮 元「そうだ。
“玄能百式”は、お前の爺ちゃん、釘宮 木が“自分の子孫のため”に託した力だ。
己の技術と魂を込めた玄能を残し、それが時を越えてお前に届いた。
三代の魂と技術が融合し、時を超え昇華された力――
それこそが、“神に最も近い職人の力”だ」
足鳶 組也「私が感じたのは、その気配です。
管田 吉彦、そして3階の気配――
その両方と、あなたは“同じ領域”にいる。いえ、もしかしたらそれ以上かもしれません」
釘宮 大工「……俺に、そんな力が……」
釘宮 元「今はまだ気づいていなくてもいい。
だが、その力は確実にお前の中にある。
この先、真に現場を救うとき、きっと発現するだろう」
釘宮 大工「……ああ。やってやるさ。俺が全部終わらせてやる!」
足鳶 組也「では……出発しましょう。2階へ」
釘宮 元「ああ。今回の出陣は、“俺”“大工”“組也”――
三人で戦力重視の突入だ。行くぞ!」
十一社の代表たちは、その背を見送りながら確かに感じていた。
“建神”が、動き出す――と。
そして戦場は、ついに次なる階層へ。
“配管の神”管田 吉彦。
“玄能を継ぐ者”釘宮 大工。
――その邂逅は、歴史をも変える。