第13章『職連会議-11社が名乗る夜-』
夜の静寂を切り裂くように、仮設された会議スペースの中心に、足場材で組まれた円卓が鎮座していた。
照明は簡易LED。薄暗いが、それがかえって緊張感を高めている。
そこに座すのは、“1階を制した”職人たち。
十一社の代表。
そして、今回の戦いで最も功績を上げた男――釘宮 大工。
その場を仕切るのは、釘宮工務店・棟梁、釘宮 元だった。
釘宮 元「……よし、全員揃ってんな。今日はこれから、“2階”に向けた作戦を立てる。その前に……まずはお互いを知ることから始めよう。
顔と名前を、ここでしっかり刻んでおくんだ。みんな、職種と会社名、名前、それと“2階制覇”に向けての意気込みを頼む」
張り詰めた空気の中、まず立ち上がったのは、彼自身だった。
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『大工』釘宮工務店
棟梁・釘宮 元
「俺はこの現場を統一して、家族の待つ家に帰るつもりだ。わざわざ息子が迎えに来てくれた訳だしな。
だから“2階”なんてのは、俺にとってはまだ通過点。本気で制覇しにいくぜ」
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釘宮 大工
「息子の大工です。俺も本気で現場を統一するつもりです。よろしくお願いします」
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『塗装屋』塗装戦隊
社長・刷毛 塗男
「塗装戦隊、社長の刷毛 塗男だ。救われた恩は、必ず返す。それが俺の流儀だ。俺も一緒に、2階制覇、手伝わせてもらうぜ」
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『左官屋』小手屋左官店
代表・小手屋 学
「小手屋左官店、代表の小手屋 学と申します。皆様が一丸となり、技術と意志を結束すれば、必ず“2階制覇”、そして“現場統一”も成し遂げられると信じています」
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『足場屋』足場技研
職長・足鳶 組也
「足場技研、職長の足鳶 組也です。過去の過ちを悔い、これからは皆様の力となります。私でよろしければ、どうかよろしくお願いいたします」
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『電気屋』山本電工
代表取締役・山本 電気
「山本電工、代表の山本 電気です。先に言っておきますが、私は戦闘には参加しません。
2階にいる“あの男”を見てますから……あんな圧倒的な気配を浴びたら、戦意も喪失しますよ」
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『内装屋』内村内装
棒心・内村 装士
「内村内装、棒心の内村 装士っす!俺も戦いには不参加っすね。山本さんと同じで、あの圧にやられちゃったって感じで……。
それに、3階からも似たような気配を感じました。俺はもう完全に、裏方に回ります」
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『鉄筋屋』上鉄鉄筋工業
親方・上田 鉄太
「上鉄鉄筋工業、親方の上田 鉄太……。やるならやる。それだけだ」
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『型枠大工』型木工房
番頭・型木 木次郎
「型木工房、番頭の型木 木次郎だ。釘宮工務店さんとは職種は違えど、同じ“大工”を名乗る者同士……協力し合えるところは協力していきたい」
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『荷揚屋』大筋揚重工
頭目・大筋 力也
「気合いと根性がありゃ、なんとかなる!
気合いと根性があれば勝てる!!」
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『造園屋』緑山造園建設
責任技術者・緑山 葉太
「緑山造園建設、責任技術者の緑山 葉太です。戦闘には参加しませんが、協力は惜しみません。
私のガテン力、“植木回復”は、傷を癒す力です。治療班として、裏方を務めます」
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『防水屋』水上防水
社内リーダー・水上 雫
「……水上防水、社内リーダーの水上 雫。戦闘には参加しません。痛いの嫌い。以上」
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全員が名乗りを終えたが、意見はバラバラだった。
釘宮 元「みんな、自己紹介、そして率直な意見をありがとう。その上で言っておく。戦闘に参加したくない人は、しなくていい。この戦いは強制じゃねぇ。参加しないことが悪いわけじゃない。ありがとうな」
少し間を置き、元が続ける。
釘宮 元「だが……一緒に作戦を練ったり、意見を出してくれたら助かる。特に元・2階組の皆は、情報を持ってる。俺たちは2階のことをほとんど知らねぇ。
1番大事なのは――こういうのは、大人数で考えた方が良いってことだ。昔から言うだろ、“三人寄れば文殊の知恵”ってな」
戦闘に反対していた職人たちも、「作戦会議だけなら……」と頷いた。
誰もが、“同じ現場”で汗を流し、誇りを刻んできた同志。
この夜、十一の魂が一つに重なり、次なる戦い――“2階”への礎が築かれたのだった。