第10章『継がれし魂と覚悟』
戦場に、異常な緊張が走っていた。
掛矢と塗男が倒れた今、普通であればこの三本勝負は終了しているはずだった。
審判も、それを宣言しようとした――が。
足鳶 組也「うるせぇ……うるせぇッ!!」
怒声が響いた。
その顔には、もはや理性の光はなかった。
足鳶 組也「俺は……あのガキを殺すまで終わらねぇって言ってんだよ!!」
審判「……規則上、この勝負は既に――」
足鳶 組也「黙れ!!本人が言いっつってんだろうがッ!!」
周囲が凍りつく。
釘宮 大工(……マジでキレてんな、あいつ。
でも、今だけは感謝してるぜ。)
内心で呟き、口元に苦笑を浮かべる。
釘宮 大工(ここで終わらされちゃ、俺たち釘宮工務店は“敗北”の烙印を押されたまま、このまま奴隷まっしぐらだ。)
釘宮 大工(今、あいつがルールをブチ壊してくれたからこそ、
この勝負……“やり直せる”!!)
審判「……異例ではあるが……当事者間の合意と、現場統制の観点から――
第三戦、釘宮 大工 vs 足鳶 組也、特例として――認可するッ!!」
開戦の合図と同時に、組也が地を蹴った。
足鳶 組也「テメェを殺すッ!!」
その手が虚空を裂いた瞬間、足場材が無数に具現化される。
足鳶 組也「“直行操作”!!」
小型の直行クランプが、まるで血に飢えたコウモリのように、噛み付くような動きで真っ直ぐに突き進んでくる。
釘宮 大工「速ぇ……!」
足鳶 組也「“自在操作”!!」
直行とは違い、自在クランプは真っ直ぐではなく、予測不能な軌道で襲いかかる。
天井から、足元から――釘宮大工を囲むように、まるで蛇のように追跡し飛んでくる。
さらに――
足鳶 組也「“足場武装・三角拳”」
ゴオッ!!と空気が振動する。
組也の両腕に、三角ブラケットが装着される。
まるで戦場の鉄鋼ナックル。すべてを粉砕するための鉄拳だ!
釘宮 大工「くっ……来いッ!!
“玄能百式…乱れ桜”!!」
空中に浮かぶ釘百本――
その中心に浮かぶ玄能で、すべてを叩き飛ばす!
――ビシッ!!ビシュッ!!ガンッ!!
飛来する直行・自在クランプを迎撃する釘たち。
空中でぶつかり、破壊音と火花が現場に舞う!
しかし――
足鳶 組也「ハッ、そんなモンが何本飛んできてもよ……
“俺”の拳には届かねぇんだよッ!!」
組也は乱れ桜を両腕のブラケットで撃ち落としながら突進してくる!
釘宮 大工「なっ……俺の“乱れ桜”が……」
撃ち落とされる釘、迫る拳、そして――
衝撃。
組也の拳が頬を掠め、鉄の感触が生々しく残る。
釘宮 大工「っぐぅ……!」
間一髪、後退で致命傷は避けた。だがその手には、震えが残る。
釘宮 大工(……やばい。強ぇ……。
塗男さんと掛矢……2人がどんな想いで立ってたか、今わかった。)
戦いは、ただ殴るだけじゃねぇ。
技術と、経験と、そして“覚悟”が要る。
そして今――
その覚悟が、俺に――
職人としての魂が、熱く燃えてきた。
釘宮 大工(ここで、負けるわけにはいかねぇ……!!)
その瞬間だった。
釘宮大工の背中から、ふわりと光が立ち上る。
腰に下げていた、古びた玄能が震える。
――キィンッ。
玄能から、墨壺が具現化される。
釘宮 大工「これは……?」
床に、壁に、天井に――
一瞬で黒い罫書き線が広がっていく。
釘宮 大工「いくぜッ!
“玄能百式…墨付け流れ雲”……!」
釘宮大工の、「職人としての技術」が
「仲間を想う覚悟」が
そして、「受け継いだ魂」が
新たな力を発現させた。