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第6話 女の子になった僕

 10歳の誕生日の日に起こる性転換は、生まれた時間では無くて、0時を過ぎて誕生日になると症状が出るのだ。


「うぎゃあぁぁぁ!!!」


 まるで全身の骨をノミと金槌でガンガン叩かれて、骨が削られている様な痛みだ。僕は耐えられずに、胸や腰を押さえて床を転げ回った。

 痛みは特に腰の辺りが激しい。この痛みを清隆(きよたか)や和彦、既に性別が変わった皆んなは耐えられたのか?と頭によぎったが、直ぐにそんな事を考えられる余裕は無くなった。

 部屋の外から、お父さんとお母さんが泣きながら声を掛けてくれていたが、その声に耳を傾ける余裕も無かった。


 いつの間にかに、意識を失っていたのだろう。気がつくと、僕はベッドに寝かされていた。上体を起こしてみたが、身体の痛みは嘘の様に引いていた。床に敷かれていたビニールシートも片付けられていた。

 窓の外は既に明るく、目覚まし時計を見ると6時半だった。パジャマの上から胸に触れると、膨らみかけの柔らかな弾力を感じた。直ぐにパンツの中に手を入れて確認すると、今まで付いていたモノが無くなっている事にショックを受けた。


「お母さん、おはよう…」


 階段を降りていると、足音に気付いたお母さんが下で待ち構えていた。


「目が覚めたのね。良かったわ。あなた、絶叫して気を失ったのよ。死んじゃうんじゃないかと心配したわ」


「(心配してくれて)ありがとう、お母さん」


 僕はお母さんに、「顔を洗って自分の顔を良く見て来てごらんなさい」と言われたので、洗面所に向かった。目ヤニでまだ目が開かないので、顔を洗ってから鏡を見た。


「これが…僕…」


 鏡に写っていたのは、間違いなく人生で出会った中で一番の美少女だった。それが自分だとは信じられずに、右を向いたり左を向いたり、更にはポーズを取ってみたりもした。そしてそれが自分であると認識しても、まだ信じきられずに頬っぺたをつねってみた。


「お母さん。僕、オシッコ漏らしたりした?」


「してないわよ。だから下着もそのままでしょう?部屋に着替えを用意してるから、着替えて来なさい」


 そう言ったお母さんは、僕をジロジロ見て言った。


「あらやだ。意外と胸があるのね?それならブラジャーを着けなきゃね。帰って来たら買いに行くから、今日はノーブラで我慢しなさい!だから胸を張ったり()らしたりしてはダメよ。あなたも男子から好奇の目で、胸をジロジロ見られたく無いでしょう?」


 自分の部屋に用意されていた着替えは、当然だけど女子の制服で、パンツを履き替える時は抵抗を感じた。


「うぅっ、スカートがスースーするよ」


 ランドセルを背負って階段を降りた。


「まぁ、なんて可愛いらしいのかしら!」


 お母さんに抱き締められて、僕は久しぶりのお母さんの抱擁に照れた。それから僕は、お母さんに連れられて少し早く学校に行った。女子として改めて、登校手続きが必要だったからだ。手続きが終わると、お母さんは僕に声を掛けた。


「女の子になって最初の日だけど、頑張りなさいね」


 先生の後に続いて僕が教室に入ると、シーンと静まり返り、そして(せき)を切った様に皆んな興奮して話し出した。


「凄げぇ!瑞稀(みずき)だよな?美春(みはる)も美人だけど、もっと美人だ!」


 クラスメイト達に取り囲まれて、特に男子達から見つめられると恥ずかしくて動悸がした。


「はい、はい、はい!皆んな、席に着くよ!」


 僕も先生に(うなが)されて、席に着いた。美春(みはる)は芸能の仕事で、今日も休みだった。不思議と、あんなに大好きでフラれて傷付いていた僕だったが、もう美春(みはる)の事を考えても、心に痛みを感じ無かった。

 他の女子を目で追って見たけど、何の感情も湧いては来なかった。美春(みはる)は、僕が誕生日を迎えて女子になれば違って見えると言ったのは、女子への興味が無くなると言う事だったんだと気付いた。

 だから男子だった美春(みはる)が、男子だった僕と付き合う事が出来たんだと思った。

 僕は男子(元女子)達からモテモテだった。授業と授業の間の小休憩の度に取り囲まれて、日頃は話しをした事なんて無い他のクラスの男子や、上級生達との会話は楽しかった。

 時折り、胸に男子達の視線を感じて恥ずかしくなった。なるほど、女子は男子からのイヤラしい視線は敏感に感じ取れるものなのだと、自分が女子になって理解した。

 放課後も男子達に囲まれて、チヤホヤされながら帰るのは気分が良かった。人から好意を向けられるのは、こんなにも気持ちが良いものなのかと初めて知った。


「バイバイ!」


「また明日ね!」


 男子達は名残惜しそうに、別れの挨拶をした。


「ただいまぁ!」


「あら、どうだった?学校は。皆んなの反応は、どうだったの?」


「う、うん。皆んな僕が可愛いって言ってくれたよ」


「良かったわね。だって本当に可愛いんですもの」


 お母さんにギュウって抱き締められた。


「さぁ、お買い物に行くわよ」


 僕はお母さんと一緒に、下着を買いに行った。下着売場の店員さんに、お母さんが(たず)ねていた。


「この子、ブラ着けるの初めてなんですの。それで、合うサイズとか有るかしら?」


「それでは先ず、サイズを測って見ましょうか?」


 店員さんは、いわゆるギャルな感じで僕の苦手なタイプだった。2人で試着室(フィッティングルーム)に入って採寸をする時、上半身裸になったので恥ずかしかった。


「これなんて可愛くて似合うわよ~」


 僕は、何が良いのか分からないので、言われるがままに選んだ。


「えっ?これにしたの。随分と攻めた感じねぇ。ちょっと派手と言うか、大人すぎないかしら?」


 そう言われてよく見ると、確かに少しHな下着に見えた。お母さんは、店員さんの好みだと理解しつつもそれを買い、サイズが分かったのでスポブラを何着か買っていた。


「心配なのは体育の時間よ。体操服に着替えると、制服よりも胸が強調されちゃうから、気を付けないとね」


 多分、お母さんは自分の経験で言ってくれているのだと思って、素直に従った。正直、今日僕は女子になったんだから、下着なんてどうでも良かった。


 下着売場から出ると、隣のクラスの女子と会ってバツが悪く、僕はお辞儀をして(うつむ)いたまま足早に去った。


「誰?知ってる子なの?綺麗な子ね。モデルさん?」


「ううん、隣のクラスの子。モデルやってるのは、あの子じゃないよ」


 背中越しに、そんな会話が聞こえた。


「僕って、やっぱり可愛いんだ…」


 ポツリと(つぶや)いた。


「何か言った?瑞稀(みずき)


「えっ?何も言ってないよ、お母さん」


 買物から帰るとお父さんから、「パパと一緒にお風呂に入ろうか?」と言われ、お母さんから「変態!」と痛烈な冷や水を浴びせられていた。


 僕は昨日まで男の子だった。突然現れた女の子を、娘だと言う実感が持てない父親から性的虐待を受けたと言う事件が、よくニュースで流れるほどだ。

 誕生日が近づくに連れて、僕はお母さんと一緒にカウンセリングも受けた。その先生が言っていた。お父さんやお兄さんも男の人だから、気を付けなさいと。自分の身を守れる者は、自分だけだと教えられた。

 先生はお母さんに、ぼくがお父さんから必要以上のスキンシップを受けたら要注意だと(さと)していた。


 僕が1人でお風呂に入っている時に、本当にお父さんが一緒に入ろうとして来たので、浴室の外でお母さんの怒鳴り声が聞こえた。この日からお母さんは、僕と一緒に寝る様になった。


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